ギルドでGo
◇◇◇
石で作られた建物に暖かな光が射す。「朝早いほうが良いクエストが見つかるよ」と聞かされたので、朝食後、ゆっくり散歩しながら、二人で昨日訪れたギルドにやってきていた。面白そうだったと言うのもあるし、別の用事もあった。早朝だからか、人がまばらだった。
サーシャさんは今日もまた、例のコスプレ姿だ。凛々しく見えるのは 着慣れているからだろうか。アーマーをよっぽど気にいってるんだな。
「クエストはそこの掲示板に貼り出されるの。早い者勝ちだから、良いクエストはすぐに無くなっちゃうんだ」
「……何も貼ってありませんけど」
壁際に設置された大きめの掲示板には何も貼っていなかった。
「これは、もうクエストが無いってことですか?」
「まだ貼ってないだけだよ」
サーシャさんは昨日、俺の向かった受付に足を向けた。俺の応対をしてくれたおねえさんがいる。朝早いのに、もう出勤してるのか。シフトとかどうなってんだろ。大変だな。
おねえさんは、ンっ、と背伸びをして棚の上のものを取ろうとしていたが、こちらに気づくと、
「あれ。イモちゃん?」
おねえさんは駆け寄りながらサーシャさんと俺を交互に見比べた。
「こんにちは」
「イモちゃんの知り合いなの? そのコ」
「うん」
「そっかー。なんとなく似てる気がしたんだよね」
女子二人でなんだか楽しそう、というか、おねえさんが一方的にしゃべってる感じかな。
でも、それより気になる単語があったぞ。
「イモちゃん、て何です?」
「じゃがいも戦士だから、イモちゃん」
おねえさんは得意になって、サーシャさんを紹介した。え? てことは……
「サーシャさんはじゃがいも戦士なんですか」
「うん。すごく良いジョブだよ」
サーシャさんが答えると、おねえさんが喜んだ。
「だよねだよね!? みんな、やれ魔剣士だー、とか、竜騎士だー、とかを選んじゃってさぁ。つまんないんだよね。じゃがいも戦士、強いと思うのにさ。イモちゃんだけだよ、わかってるのは」
おねえさんの推しがヤバい。
はしゃぎっぷりが収まったところで、サーシャさんが「クエストある?」と尋ねると、
「今リストを作ってるところよ。もうすこししたらまとめて貼るからね。んっと」
おねえさんは答えながら、書類をまとめてくれていた。たぶん俺たちのために急いでくれてるんだろう。
「しっかし、なんでこんな早朝に来るかね。きみたちは」
すこしあきれた様子のおねえさんだったが、ちゃんと対応してくれた。
とんとん、とまとめた書類を持って、立ち上がる。石の床に靴の音がかつかつ、と響く。
「俺たちも手伝いましょうか」
「ん? 平気よ。こんなお仕事を冒険者にさせたら私が怒られちゃう」
慣れた様子で、てきぱきとリストを貼っていく。十分もしないうちに掲示板はクエストで埋め尽くされた。
「イモちゃん好みのは右下のやつかな。近くの森で木の実を探すクエスト。ほら、そこの」
「うん、良さそう。これと……あと、これ。この、ダンジョンのやつ? これも受けていい?」
「いいよいいよ好きなの持ってって。イモちゃんは他の冒険者がやりたがらないやつを受けてくれるから助かるよ」
「ありがとう」
サーシャさんは貼られたリストにゆっくりと目を通し、その何枚かを手に取っていた。おねえさんがそれを横から見て確認している。
ふうん、ああいう風にクエストを受注するわけか。意外に自由というか、大雑把だな。
「例の件の進捗はどうですか」
俺はおねえさんに聞いた。
「ギルド長に報告しておきました。一日でも早くあなたがご自身の家に帰れるよう、我々は全力を尽くしますのでご安心を」
「よろしくお願いします」
「ところで、あなたは受けないの?」
おねえさんが聞いてきた。そうだな。せっかくだし、俺も働いてみようかな。なにがいいか……。
リストを眺めてみると、いろいろあるようで、教会で窓掃除をする、飲食店での接客、引越しの手伝い、など。まんまアルバイトの募集みたいだな。『探している物を見つけてくる』というクエストが多かった。
その中に混じって『人を襲うグランドグリゲーターを討伐する』『ダンジョン最下層でゲートガーディアンが所持する宝石を持ち帰る』『裸でドラゴンとプロレスをする』とかいう、ワケがわからない危険そうなのもあった。『ドラゴンとプロレス』はちょっと見てみたいけど。
俺は無難そうな『薬草を集める』というクエストを受けてみる事にした。貼ってあったものの中では一番できそうだと思った。サーシャさんに尋ねたら「その薬草は森で採れるよ」と教えてくれた。
森かあ。ちょっとワクワクしてきたな。




