ブレークファストは謎掛けの後で
◇◇◇
怖い。痛い。苦しい。熱い。
火照る身体を風が突き抜ける。寒い。手には燃えるような光がある。けれど心は冷え切っている。……寂しい。
誰からも理解されないことが、たまらなく寂しい---
・・・
・・・・
・・・・・
嫌な夢から目を覚ます。光が部屋を照らし親切なゴースト達は眠りについて、誰にも等しく訪れる朝が来ていた。
開いた窓から風が吹き込んでくる。二度目の、知らない天井。なに言ってんだか。
(ふぁあぁぁ、ぁ?)
あくびを噛み殺すと、くすぶる煙の残り香がした。気のせいかな?
サーシャさんは先に起きていたようだ。
俺も起きよう。
すると、ズキリ、と筋肉が痛みを訴えた。筋肉痛だろうか。昨日、一昨日と、いろいろあったからかなぁ。でも、我慢できないほどじゃない。
「だいじょうぶ?」
「ええ大丈夫です。おはようございます、サーシャさん」
「……うん、おはよう」
ホッとする笑顔がそこにあった。あまり心配かけないようにしないと。
しばらくサーシャさんと話していたら、宿のおばさんが料理を持って部屋を訪れた。いい匂いがする。
「昨夜、変なことはしてないね?」
「してません」
「……」
俺はきっぱりとおばさんに言い切った。なぜそこで顔を赤らめるんだろ、サーシャさん。
おばさんが食器と料理をテーブルに並べる。果物に、黄金色のスープ。あれは小麦のパイかな? 皿が並べられたところで俺たちは席についた。
「そいつはロタ芋を小麦に混ぜて焼いたものだけど、どうだい。格別にうまいだろ?」
小麦パイ(仮)を食べた俺に、おばさんが自慢気に話しかける。
「ええ。地方が違うと味も だいぶ違いますね」
芋と小麦の仄かな甘み。シンプルながら焼き加減が香ばしい。サーシャさんもにこにこしながら食べていた。
「これ、おいしいね」
「……なるほど。サーシャさんの好みが、なんとなくわかってきましたよ」
「え?」
「次はもっと美味しい料理を作れるってことです」
サーシャさんを眺めながら、スープを啜る。こちらも、あっさりとしているが、ちゃんとダシが効いてる。これは魚介かな?
自然のものを丁寧にこしらえたのだろう。素材の味が感じられる。
「美味い」
「そうだろうそうだろう。あと昼に1食、残ってるからね。楽しみにしてておくれ。その後も食いたきゃ、銀貨4枚だよ。そしたらまた3食、出してやるから」
笑っておばさんは去っていった。
果物もとても甘くおいしかった。俺もサーシャさんも大満足の朝食だった。
黒衣の男はどうしたのだろうか。おばさんは穴の開いた温泉を見て怒ったのかな。怒られながら土下座で必死に謝っている男。その様子を想像して愉快になった。




