街とギルドのある光景②
◇◇◇
陽だまりの大通り。
市場は街の人たちで賑わいを見せていた。これから夕飯の準備をするのだろうか。
歩いていると、香ばしい匂いが漂ってきた。
(サーシャさんの言っていたパンか)
露店のおじさんが、パンを焼いている。よく見渡してみれば、たくさんの露店があった。それらは全部、パンを売っているようだった。
「食べる?」
と聞いてきたので頷いた。
「そのパンを、ふたつ」
「あいよー」
サーシャさんが駆け足で小さなパンを買ってきて、ひとつを俺に渡してくれた。ちょうど片手で握って、食べ歩きもしやすいように紙で包まれている。
ほんのりと熱い。焼きたてだ。頬張ると、さくさくとしていて、ふわりとした生地に、バターか何かの香りがする。特に際立った味はついていないが、おいしい。
「このあと、どうするの?」
のんびりしたサーシャさんが尋ねた。パンをもぐもぐと食べながら、答える。
「そうですね。冒険者になりましたし、しばらくこの街で様子を見ようかと思います」
「……ルド、冒険者になったの?」
「はい。それで、まず宿を探そうかと。銀貨も貰いましたし……っと、そうだ。忘れないうちに」
サーシャさんの手の温もりが伝わってきて、どきっとする。
「え、なに?」
「馬車の運賃です。払ってくれたでしょ」
ちゃりちゃりと音のする銀貨を3枚、サーシャさんに手渡した。
「いいのに」
と言ってくれたが、返したいと思った。下らないプライドかもしれないけど、あるうちに返しておきたいと思ったんだ。
一緒に歩きながら、今日の宿を探す。サーシャさんも手伝ってくれた。
のだが。
「この道を通って……えっと」
「道わからないんですか」
「ご、ごめんね。こっちで合ってると思うんだけど……」
案内が だいぶ おぼつかない。
道に入っては出てきたり、路地に入り込んだりしているうちに、人がまばらな通りに出てしまう。
いくつかの店が並ぶ商店街のようだった。
サーシャさんが近くの店先で商人に話しかける。どうやら宿の場所を聞いてくれているようだ。
「……あれ?」
市場よりも暗いと感じる通りをぼんやりと眺めていると、その影に紛れて、見知った姿を見つける。
あの長身、金髪。アレは、確か、マルドゥークとかいう男。離れていても目立つ人だ。なんだか縁があるなぁ。
「うん、街は今日も平和でいいね」
彼は、そのことにまだ気づいていないのだろう。声を掛けてきた商人と雑談しながら売り物を手に取ってみたり、ときおり街の様子を気にしたりしていた。
そんな男の背後から、こっそり忍び寄る、ネコ。もとい、獣人のフランさん。
……ヤバい。あれは狩人の目だ。殺る気だ。仮に殺る気がないにしても『なぁに殺しはしねえ。ただしそれは急所を外れた場合に、トドメをささないってことだけどニャア!』ってことに違いない。
街中の暗殺者。尻尾をフリフリして狙いをばっちりつけたフランさんが、獣の如く背後から飛び掛る。
「ワレ奇襲に成功セリ!! その首、もらったぁぁっ! ンニャ」
男が振り向いた。
くるりん。
男が何か流れるような動きをしたと思った次の瞬間、目の前から彼女が「ァ…ァー」いなくなった。不意に上を見上げると、なぜか彼女が宙を舞っている。あいつがなにかしたのか? 全くわからなかったぞ。
数秒のタイムラグがあって、彼女が丸くなり落ちてくる。すっぽりと男の両腕に収まった。お姫様抱っこだ。
男が微笑んだ。無言で彼女をそっと地に降ろしたが、彼女は足に力が入らないのか、へなへなと崩れ落ちた。
「うん、街は今日も平和でいいね。何事もなく」
本当に何事もなかったようにマルドゥークは立ち去った。
お姫様抱っこの影響だろう。彼女はしばらく地べたで呆けていたが、右、左、と周囲を見渡して。
(あ)
俺と目が合った。フランさんの顔がみるみる赤く染まっていく。
「マルドゥークゥゥゥ!!!」
がばっ、と勢いをつけて、起き上がる。すぐに正気を取り戻して、何か叫びながら、男を追いかけていった。
あ、わかった。恥ずかしかったんだな、あれ。
「……何かあったの?」
「いえ、特には何も」
いつの間にか戻ってきていたサーシャさんが尋ねる。何度目かの光景。街の時間は緩やかに、確実に過ぎて行く。
薄い影の気配。気がつけば陽は傾き始めていた。




