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30代ニートが就職先を斡旋されたら異世界だった件。  作者: りんご
第二章 注文の多いギルド店
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じゃがいも戦士になりました。


 ◇◇◇


「どうでしょう。【冒険者登録】をしてみませんか」


 受付のおねえさんから聞いた感じでは、俺をすぐ家に返すのは難しいらしい。通貨を持っていない、という話をしたら、登録を勧められたのだ。


 ここまで見てきたところ、このツアーはかなり大掛かりに行われている。

 近辺一帯の街や村で使えるのは支給された通貨のみに徹底されているようだし、その通貨は、仕事や【クエスト】と呼ばれる依頼をこなすことでしか、支給されない。


 ここまでやるからには、かなり広い区域が閉鎖されているはずだ。となれば移動規制も同時にかかっていることが容易に想像できる。終了まで外部との出入りが禁じられていてもおかしくはない。それなら『しばらくの間ツアーを楽しまれてはどうか?』という提案だろう。


 クエストは貴重な資金の調達源だ。積極的に活動し、楽しむことで、より資金を多く得られる、という仕組みらしい。


「ギルドとしましても、そうしていただけると今後の対応をしやすいかと。よいっしょ、と」


 言い終わるや、おねえさんがゴソゴソと何かを取り出した。光を反射する丸い玉。水晶かな?


「それは、なんですか?」

「【姿見の宝珠】です。これからギルド証を作成します。あなたのステータスをこの魔導具で計測するんです」


 なるほどな。魔導具、なんて最もらしいことを言っているが、あれは水晶の形をした端末なんだろう。

 おそらく、ギルド証とやらが送信装置になっているか、またはマイクロチップか何かが参加者全員につけられていて、個人の情報を読み取ることができるようになっているのだ。万が一のための、GPS機能という役割もあるのだろう。

 よく考えられたシステムだな。


「あら? おかしいですね……ステータスが表示されません」


 おねえさんが水晶を軽く揺さぶって「故障かしら?」と首を傾げた。まあ、俺はマイクロチップなぞ持ってませんからね。

 知らないうちに埋め込まれてたらわかりませんけど。


「ステータスが表示されない方も稀にいますから問題ないでしょう。ステータス欄は『不明』で登録しましょう。

ですがこのままだと、ギルドの最上位クエスト、または緊急クエストは受注できませんので、ご注意くださいね」


 とおねえさんは言っていたが、そんなもの受ける気はないし。関係ないだろう。


「ええ、と。あとは……そう。あなたのお名前は?」


 どうしよ。実名のほうがいいのかな? ……いや、ルドルフのほうがいいな。 


「ルドルフです」

「ルドルフさん。……はい、はい。結構です」


 おねえさんが、さらさらとカードのようなものに何かを記入してくれる。キレイな文字、だったと思う。


「あなたのジョブですが、現時点ではステータスが不明ですので、【じゃがいも戦士】になります」

「一択なんですか」


 なんだ、そのジョブ。農民ってこと? ふつうの戦士じゃダメだったの? 


「特別な儀式をせずに誰でもなれますからね。それに強いんですよー、【じゃがいも戦士】。最強ジョブの一角です」

「そうなんですか」

「……と、私が勝手に思ってます」


 個人の感想かい。おねえさんがけらけら笑いながら、ギルド証を作ってくれた。


「どうぞ。無くさないで下さいね。できればギルドに来ていただけた際に再度【姿見の宝珠】でステータスの確認をしていただけるようにお願いします。日を改めれば成功するということもありますので」

「わかりました」


 まあ成功することはないだろう、と思いながら、硬い素材で出来たギルド証を受け取る。ほんとにカードみたいだな。磁気とかICチップとか入ってんのかな?


「それでは、最後にひとつ。あなたにはクエストを受けてもらいます。これは新規冒険者のためのクエストで、必ず受けなければなりません。

本来のギルドクエストとは形式が異なりますが、報酬はこの場でお支払いします。クエストの依頼主は私です」


 居住まいを正したおねえさんが、堅苦しく言った。

 クエスト。初仕事。なにを任されるのだろうか。


「いいですか、あなたはこれから1時間の間。……忙しい私に代わって、今晩のギルド職員の夕食用のジャガイモを洗っていただきます。なるべく多く」

「ジャガイモを洗う? 洗うだけですか?」


 それだけか? なんだか拍子抜けしてしまう。


「ええ。……はい。こっちです。こちらに来ていただけますか」


 席を立ったおねえさんがギルドの内部に案内してくれる。細い通路を歩くと、ドアがある。そこを開けると。


「うっ」


 目に飛び込んできたのは大量のジャガイモ。むっと香る土の匂い。全部で数十キロはありそうな泥つきのジャガイモが狭い部屋中に置いてある。


「洗い終わったら、そちらのボウルに入れてください。あぁ、水はそこにあります」

「すごいですね……これ、全部ですか」

「職員、全員分ありますから、ざっと100人分くらいですかね。終わらなくても、時間が来たら終了してください。ではよろしくお願いします」

「はあ……」

「……【じゃがいも戦士】の初仕事には相応しいでしょう?」


 途方に暮れていた俺に、投げかけられた言葉。

 去り際にふっ、と笑いながらおねえさんがぽつりと言ったその言葉は俺の心を刺激した。

 火がついた俺は、やけくそになってジャガイモを洗うだけのマシーンと化した。


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