街とギルドのある光景①
◇◇◇
馬車が行き交い、人々の喧騒が聞こえる雑踏の往来を眺めていると、安心したような少しだけ残念なような、ノスタルジックな気持ちが込み上げてくる。
中世風の建物が数多く立ち並んで見える。きっと元からあった建物をツアーのために改修したんだろうなあ。どれだけの予算をつぎ込んだらそんなことができるのか想像もつかないけど。
しかし、さすがはツアーの本拠地、総合受付の置かれている街だ。
通りがかる人のほとんどが、コスプレ、コスプレ、コスプレの嵐だ。今を楽しく、懸命に生きてることがその姿から伝わってくる。
見ろ、あの生き生きとした顔を、希望に満ちた様を。こんな世界があったというのに、それを知らずにいた俺は、なんと愚かなことか。
「何かあったの?」
傍らのサーシャさんが聞いた。
「太陽がまぶしかっただけですよ」
「もう、お昼は過ぎたよ」
「そうですね」
「あとで何か食べる? フィルヒナーのパンはおいしいんだよ。ふんわりしててね、外側はさくさくなの」
「へえ」
話をしながら人通りの多い道を一緒に歩く。サーシャさんが案内してくれたおかげで、ギルドにはすぐに辿り付いた。
ギルドと聞いて木造を想像してたんだけど、頑丈そうな石を組み合わせて出来た石造の建物だった。
重厚な建物を見上げると、看板が掛けられていて意味のわからない図形が並んでいた。
『俺の剣、そろそろ買い換えるべきだろ。火力がたりねえよ』
『【小回復】だけに頼るのは危険だ。長期戦ではどうしようもないしな』
『ダンジョンどこまで行った?』
『4階層まで。あそこから魔物も罠もイヤらしくなってくるんだよねー』
『疲れたぁ! 今日の宿どうするー?』
『市場も見たい! サンドイッチが評判らしいよー』
『軽めのクエスト終わらせてから捜そうぜ』
疲れた何人かの男女が、そんなことを言い合いながら元気に建物から出てきたので、彼らとすれ違いで扉を開けてギルドに入る。
中は、なんというかすごかった。
杖にとんがり帽子とローブ姿の魔法使いみたいな格好をした男や、
鋼鉄の鎧を纏ったフルヘルムのいかつそうな戦士。
馬車で出会った女性の犬バージョン、獣人もいる。
金髪で尖った耳の弓使いもいる。エルフのコスプレかぁ。着ている衣装は、色合いこそ清楚だけど布面積が少なくて、非常に目の毒というか眼福。グッジョブ。
ざわつくギルド内は開けており、中央の立派な石柱が重そうな天井を支えていた。
「見事な柱ですね。ずいぶんお金が懸かってそうですけど、あれ、大理石ですか」
「よく分からないけど、いっぱい懸かったと思うよ。……ふふ。初めてギルドに来たのに、ずいぶんおかしなこと気にするんだね?」
きょとんとしていたサーシャさんがころころと小さく笑う。思った通り、可愛かった。
「ルドは、あっちの受け付けだよ。事情を話せば、良くしてくれると思う。わたしは採集クエストの報告に行ってくる」
「一緒に着いてきてくれないんですか?」
あぁ、そういえば、ギルドに来たのは、俺を連れてくるためだけじゃなくて、クエストの報告も兼ねてたんだ。
申し訳なさそうに「わたしも、着いていった方がいい?」と言ってくれたが、「いえ大丈夫です」と断った。
サーシャさんに頼ってばかりいられない。しっかりしろ、俺。




