ニートは異世界と少女に出会う。
よろしければ評価の方お願い致します!
◇◇◇
なんだか不思議な夢を見ていたような気がする。
誰かに仕事を紹介される夢。妙な夢。
(アレはなんだろう…)
夢は、今の状況と何か関りがあるのだろうか。
俺の寝床だった場所には柔らかな草が生い茂っている。一面に広がる深緑は月明かりでも、
その鮮やかな色を失うことはない。
草木の匂いがふわりと薫り、鼻を抜ける。ついぞ都会では味わうことが無い感覚がなんとも心地よい。
森の舞踏場を照らしているのは薄明かりだけ。
月の女神の寵愛を一心に受けた美しい蝶が1、2羽と風に吹かれて、ダンスを踊る。
適度に水分を含んだ透羽は、月光によってきらきらと反射し、虹色に輝く軌跡を描いた。
まるで妖精のようだ、と心底思う。
(でも、ここ、どこですか)
確かに眼前に広がる眺望はたいへん素晴らしいもので、僕らが忘れてしまった大自然への憧憬を思い出させてくれたが、だからといって状況を1ミリも好転させるものではなかった。
記念として、近くに生えていた白桃色の花を摘む。香りを嗅いだ。素晴らしい香りだった。
以上、夢の終わり。
「とりあえず落ち着こう。なにがどうしてこうなったのか?」
思い出せる限り、色々と思い出してみよう。そうすれば、自分の身に何が起こったのかわかるはず。
自分のことははっきり覚えている。自分のことを考えるのはよそう。
特段語ることもない、ごく平凡な人間、と思う。
問題なのは自分の身に起こった出来事。
確か、ネトゲでレイドを周回していて……。
レア武器を手に入れて……。
眠すぎたので、寝落ちした。
それで、起きたら変な森の中にいて、キレイなお花をゲット。
……
………
どこをどう紐解いたら今の状況に結びつくんだろう。誰か教えて?
辺りを見渡しても、変わった形の木々があるばかり。謎を解けそうな物は何も見当たらな
むしゃむしゃがりがりかりかりごりっ。
どこかから異様な咀嚼音が聞こえてくる。
それは小さな音だった。だが妙に耳に残る音だった。
俺はどきどきしながら、注意深くその音の元へ向かった。
何か、いる。蠢いている黒い影。
赤い色をした狼のような獣が、食事をしていた。
口には腕を、いや。ハサミのようなものを咥えている。
それはカニのものによく似ているが、大きさが人間の腕ほどあり、ごつごつしていて、色も青黒い。
注意深く観察すると巨大な物体が狼の近くにある。
両のハサミを失い、甲羅をズタズタに喰い破られ、身体のバランスが崩れた生き物。
生き物だったものの原型はわからない。
狼は戦ったのだろうか。ハサミは勝利の証。戦利品。
獣のニオイ。…わずかに死のニオイがした。
反射的に俺は逃げた。
走って逃げた。むちゃくちゃに逃げた。
「はぁはぁはぁ」
な、なんなんだよ、あの狼は。
ニホンオオカミとも違う。エゾオオカミでもない。
外国のウルフなのか?
どう、と、背後に気配を感じた。
びくりとして振り返れば、先の狼。
俺のほうを見ながら、ゆっくりと近寄ってくる。
追いかけて、きたのか。
このオオカミは、海に投げ込まれた伝説の魔獣などではない。
自然界で生きている、ただの獣だ。ゲームでよく見る、最下級の相手。
でも。
背筋が凍りつく。
一瞬で悟る。
目は口ほどにモノを言う。
……逃げなければ。
俺はあれに勝てない。あの生き物には敵わない。
一撃で身体をバラバラにされる。喰われる。土台が違う。器が違いすぎる。
もし、あれに勝とうとするなら、あれを凌駕するほどの武器がいる。
勝てないなら、逃げるしかない。
意に反してガクガクと足が震える。
どこか他人事な頭と違って、これから死ぬことを身体は知っている。
恐怖を感じて当然だ。
死にたくなければ逃げるしかないのに、動けば死ぬ。転がっている物体のようになる。この狼から逃げることはできない。
決断するしかない。
逃げても死ぬ。
逃げなくても死ぬ。
戦っても勝てない。
こんな極限状態で、人はどんな道を選べばいいのだろう。
俺は、
これまでと同じように。
------------何もしないことを選んだ。
(せめて痛くないように死にたいな)
最後の願いは、ただの夢。
どしゅっ、と身体を突き刺す剛爪が、激痛を呼んだ。
血がどくどくと流れる。赤い命が流れていく。
意味の無い人生。意味の無い死。いや、意味はあるか。
こうして、狼の命になれる。
意識が薄れていく。
政治家や偉い人が死ぬと、皆が悲しむよな。
けど、俺みたいなクズが死んだところで皆は笑うだけだ。
ただの喜劇。どうしてなんだろうな。
どこかで聞いた、聞き覚えのある声がする。
幻聴。まぼろし。暖かい声の主。
倒れ伏す俺を誰かが受け止める。ふわりと草花の匂いがした。
……
………
…………
真っ暗い世界の中で、男の声が、聞こえる。
あなたは神様?
(俺は、一般的に言うところの【神】とは違う)
そう。死神でも、なんでもいいですよ。とにかくぼくを迎えにきたんでしょ?
どうか、どこへでも連れていってください。
(おまえはまだ死んでいない。だから、おまえは生きねばならない)
……生きる?
なんの武器も、力も無いぼくに、生きろと? もっと苦しめと?
(違う。おまえは持っている。
誰に与えられたものでもない才能を持っている)
ないですよ、そんなもの。
(鍵は、開かれている。あとは、おまえが扉を叩くのみ。
剣を取り、膝を折るな。おまえは何者にもなれる)
あなたは、なにを言っているの?
(心せよ……)