高卒平社員の俺がエリート上司に目をつけられる話
「···あのー主任?俺の部屋の前でなにやってんすか?」
「···遅かったじゃない、なにしてたのよ」
「いやこっちのセリフですけど、そもそもさっきまで電車止まってましたし、てかなんでウチ知ってんですか」
「うっさい、部下の仕事の報告を受けるのは上司のあたしの役目でしょ?」
「え、だからって真冬のこの寒い中ずっとウチの前で待ってたんすか?今日定時上がりだったんすよね?」
「そうよ?」
「そうよじゃないでしょ、今もう日付変わる直前ですよ?」
「別に寒くなんか···っくしょん!!」
「あーあー、今開けて温かいもん作りますから主任はこたつに入ってください」
···高校を卒業してすぐ東京の小さい会社に就職して、こなす仕事もだいぶ板につき後輩もできとんとん拍子に進んでた俺の社会人生活は三年目の冬を越えようとしていた、数少ない仲のいい同級生は大学で今から就活とからしい、今日は遠方に営業に行ってその帰りの電車で架線が切れるトラブルがあり会社に着いた頃には午後11時、もちろん人など誰もいないしセキュリティがかかって入れもしない、タイムカードを押したかったが···まぁそれは総務がやってくれるだろう、会社の最寄りから出る最後の電車に乗って自分の住んでるアパートの最寄りに着いたのがそれから30分後で、駅から20分かけて帰ってみればこの状況だ
「···別に急ぎの用件じゃないんですから明日でよかったのに」
「(ズズズ···)···ふぅ、明日は休みでしょ?」
「···あ、そっか土曜日か」
「だから時間空いて忘れる前に報告貰いたかったのよ、···なのに帰ってくんの遅いんだもん」
「それは俺に言われても···」
俺の上司であるこの女性は会社の中でエース的存在だ、例え社長であろうが自分が思ったことを言うタイプの人間でこの会社が存続してんのもこの人のお陰でもある、···まぁ確かに美人なんだけど逆にお高くとまってるから三十路前にして未だ独身なんだよなこの人
「···で、営業どうだったのよ」
「カバン中入ってんで勝手に見てください、俺飯食うんで」
「上司にやらせるつもりなの?」
「ここは会社の外、俺はオンとオフはしっかりしたいんで」ゴパァ···
「あっそう···」
「···(ベリッ···サクッ···)」
「···あなた今何食べてるの?」
「晩飯」
「それが?」
「入社してからずっとコレっすよ」
「あっそう···」
···晩飯にカロリー〇イトのどこがおかしいんだ?
それから30分、主任は俺の仕事の結果をずっと見ていた、その間に俺はやる事やって寝る準備をしている
「···うん、流石ね」
「三年目なんで」
「よし、じゃああたし帰るわ」
「···」
「···なによ」
「主任どこなんすか?」
「え?」
「···まぁ明日休みだからいっか」カチャッ···バッ
「···」
「···なにしてんすか、帰るんでしょ?」
「え?」
「ほら行きますよ」
「え、別にあたし一人で···」
「いくら三十路近いとはいえ女一人単体で帰らせられませんって」
「だ、だからいいって!!!」
「遠慮しなくても···」
「隣だから!!!」
・ ・ ・
「···あ、そっすか」
「ええ!?反応薄くない!?」
「いや、まぁ···確かに驚きはしましたけど別に声あげるほどじゃねぇ···」
「なによ!!!こっちはあなたの住所調べた時に声あげて驚いたのに!!!」
「···まぁ主任の苗字そこまで稀少って訳じゃないし」
「···」
「隣なら俺が出る必要ないっすね、そんじゃあ俺は寝るんで鍵はポストにでも入れといてください」ボフンッ
「はぁ!?あなたそれでも社会人なの!?」
「···」
「···ねぇちょっと、もう寝たの?」
「···Zzz···」
「···」
···トントントン
「···んぁ···?」
土曜日の朝、一人暮らしのはずの俺の部屋になぜか鳴り響く包丁の音、昨日は···うん、主任に鍵任せて寝たんだったな
「···」
···もっかい寝よう
コンッ
「···」
「こら、いつまでも寝てないの」
「···なんでいるんすか主任」
「いたら問題ある相手でもいんの?」
「いないっすけど···」
「ならいいじゃない」
二度寝をしようとしたら頭をおたまで叩かれ、仕方なく起きると完全に部屋着であろう主任がいた
「···っと」
「あ、ゴミはもう出したから心配しなくていいわよ、あと勝手に台所使ってるけど冷蔵庫の中何も無かったからあたしの部屋から色々持ってきたの、ちゃんと食べてね」
「···眠い」
「顔洗いなさい」
「おかん···」
「誰がおかんよ、食べたら着替えて買い物行くからね」
「え、なんで」
「あの冷蔵庫の中身見れば誰だって行くわよ、健康状態がよくなかったら仕事にも影響出るんだからね?迷惑かかるのは会社のみんななんだから」
「う、うっす···」
「部下の健康状態も見れないようじゃ上司失格よ、はい、簡単なものだけど」
「···おぉ···」
「···なによ、早く食べなさいよ」
「···いただきます···」
「食べ終わったら流しに置きっぱなしじゃなくてちゃんと洗っといてね、あたし部屋戻って着替えてくるからその間に着替えも済ますこと、わかった?」
「うっす」
···誰だあれは
作ってくれた朝飯はめちゃくちゃうまかった、そりゃあもう久々に惣菜パン以外の朝飯食ったし、食ったあとは言われた通り皿洗って着替えて···
「···何やってんだ俺」
···ガチャ
「着替えた?」
「あ、はい···」
「なら行きましょ」
「···主任」
「なに?」
「暇なんすか?」
「殴るわよ?」
「そうじゃなくて、別にそれくらいなら俺一人でも···」
「あなた一人だと絶対カロリー〇イトしか買わないでしょ?」
「···言い返せない」
「だからあたしも行くのよ」
「そすか」
「あ、そうそう、あなたオンとオフはわけておきたいんだっけ?」
「はいまぁ···」
「じゃあ主任って呼ぶの禁止ね」
「え」
「なによ、わけておきたいんでしょ?」
「いや、そうっすけど···」
「それとも岩野くんはあたしの名前覚えてないんじゃないでしょうね?」
「いや···わかりましたよ鳴瀬さん」
「それでよし!!」
「···」
···ただ俺の飯を買いに行くだけなのに楽しそうだな主に···鳴瀬さんは
そんなことを思いながら俺は主に···成瀬さんの運転で近くのスーパーに行くことに
「···♪」
「主···鳴瀬さん上機嫌っすね」
「そう見える?」
「だって普段鼻歌とか絶対歌わないじゃないっすか」
「そりゃああたしもオンとオフはわけておきたいもの」
「あ、そうだったんすか、俺てっきり家でも会社みたいな感じだと」
「あのねぇ···あたしだって一人の女性なのよ?」
「一文字忘れて···」
「なんか言った?」
「すいませんでした」
「···いい天気だからどこか行きたいわねー」
「んー、灰になる」
「ドラキュラ?」
「高校の頃から引きこもりだったもんで」
「そ、そうだったの···」
「別に気を遣わなくていっすよ」
「···そうね、今日このあとやることあるの?」
「寝ます」
「また寝るの?」
「休める時に休まないと月曜迎えるのか辛いんす」
「え、そんなにあたし岩野くんのことこき使ってる?」
「そうじゃなくて···元引きこもりには体力的に厳しいんすよ」
「あ、そっちね···」
「休みたい、出来ることなら家から出ないで仕事したい···」
「そ、それは営業職には厳しいんじゃない?」
「あ、そうだ、俺のパソコンいつになったら新しくなるんすか?」
「安心して、週明けには最新になってるわよ」
「うし、助かった」
「···」
···その日はそのまま俺の食料を買って終わった、もちろん、昼飯と晩飯は主···鳴瀬さんが作ってくれたのを食べた
週明けの月曜日···
「···おぉ、俺のパソコンがMacになってる」
いつも通り勤務時間の10分前に会社に来てみると、俺のパソコンが鳴瀬···主任の言った通り最新パソコンになっていた
「あ、そうだ、総務に土曜のやつ言わないと···」
「もうそれはやっといたからいいわよ」
「!!主任、おはようございます」
「おはよう、···ちゃんと朝ご飯食べたんでしょうね?」
「そりゃあまぁ、···冷蔵庫開けたらいつの間にか入ってるんすもん」
「ならいいわ、今週も頑張りましょ」
「うっす」
···いくらこの前のあれがあろうと俺と主任にそんな事は起きない、今まで通りに仕事をこなすだけだ
···とは言ったが
「岩野くん、これちょっと書庫から資料持ってきてくれない?」
「え、どれ···あー、はいはい、上にしまってるヤツっすね、りょーかい」
「···岩野くん、これ次の案件なんだけど···」
「俺見ていいやつっすか?」
「あなたが取ってきた仕事と関係あるもの」
「そすか、···これ俺はこっちの方がいいと思うんすけど」
「わかったわ、じゃあこれで上に通してみるわね」
「···主任、俺外回り行ってきます」
「あ、大丈夫よ、あなたの仕事他の人にやってもらってるから、机上の作業やってて」
「え、誰に行かせたんすか」
「小森さんよ」
「···あの人か、なら安心ですわ」
···なんか俺の接し方が変わった気がする
特に今週は大きな事案はなく、金曜日は定時に帰ることができた、···流石に今日は寒いし、時間もあるから久しぶりに鍋でも食うか、材料この前主任と買ったし
「···で、なんでまた俺の部屋の前にいるんすか」
「···鍵失くした」
「ったく、今開けますからこたつ入って待っててください」
「···ごめんね岩野くん」
少しコンビニで酒のつまみを買ってアパートに帰ってみると、また俺の部屋の前で主に···あ、家だからオフか、鳴瀬さんが座っていた、コンビニから出ると雪が降り始めていてさらに寒く感じるようになったのに、なんでこの人は俺の部屋の前で座ってんのだろうか
「···大家に電話しました?」
「したわよ、でも今日は大家さん旅行に行ったらしくて···」
「···あー、そういえば懸賞で当てたっつってたな」
「それはそうと岩野くん何やろうとしてるの?」
「寒いから一人鍋でもしようと」
「え、できるの?」
「今までめんどくさいだけでしたし、···まぁメニュー変えるんすけどね」
「あらそうなの?」
「はい、一人鍋じゃなく二人鍋に、どうせ部屋は入れないんですよね?」
「!!い、いいの?」
「この前の買い物のお礼です」
「···なら、ありがたく頂くわ」
···いくら上司とはいえ女性と二人っきりで晩飯を食うのは初めてだけど、まぁそんな気にはならないだろう
···と考えていた10分前の俺よ
「···あ、それあたしの!!!」
「早い者勝ちっすよ」
「むー···、じゃあこれもーらいっ!!!」
「ちょ···それさっき取ってたじゃないっすか」
「早い者勝ちよ」
「···」
誰かと一緒に食う飯はいつもよりうまく感じるぞ
「···まぁ」
「うへへへぇ〜、いわのくんこれおいしぃよぉ〜」
「···酒は程々にしとくべきだけど」
鍋で酒が進んだのか、鳴瀬さんはでろんでろんに酔っ払ってる、···てか俺が飲もうとしてたやつも飲んで···この前買い溜めした意味が···
「···ほら主任···じゃなかった、鳴瀬さん、酒はもう終わりです」
「やーだ、もっとのむぅー」
「もうないんすよ」
「むぅーじゃあかってきてぇー」
「もう寒いんで寝ますよ、ほら、せめてシャツだけでもこっちに着替えてください···」
「うー···」
「明日は···あ、俺当番か、土曜日に出はなぁ···」
「···」
バッ···パサッ···
「···じゃあ鳴瀬さん、俺床で···なにやってんすか」
「なによ、あなたがぬげっつったんじゃない」
ちょっと明日の予定を見る為にカレンダー見ていたらあろうことか鳴瀬さんはシャツじゃなくスカートを脱ぎはじめた
「俺はシャツにシワができるから脱いでこっち着てくださいって言ったんす、誰もスカート脱げなんて言ってません」
「なぁによいわのくーん、あたしにめいれいするつもりぃ〜?」
「ここは会社じゃなくて俺の部屋です、いくら鳴瀬さんでもここでは俺が主なんですから言うこと聞いてください」
「···えっちなめいれいするつもりなんでしょ〜」
「しません、つか早く服着てください」
スッ···
「···今度はなんすか」
「いろじかけー」
「···はぁ、ほら、さっさとベッド行ってください」
「にひひひ〜やっとてぇだしてくれ···」
「···」イラッ
ガシッ···
「お、いわのくんいがいとダイタ···」
ポイッ···ボフンッ
「ぶっ!!!」
「···つべこべ言ってねぇで寝ろ」
「えっ」
···あまりにも鬱陶しかったからベッドに投げて布団かけてやった、こっちは明日も出勤なんだ、寝させてくれ
「ね、ねぇいわのくん?」
「···Zzz···」
「···もう、せっかくここまでかくごしてたのに···」
・
・
・
・
・
・
···トントントン
「···(ガバッ)···」
「あ、おはよう岩野くん」
「···おはよう···ございます」
「昨日はごめんね」
「いえ」
どうやら酔いは覚めているらしい、起きてみるとちゃんと部屋着を着た主任···鳴瀬さんがキッチンに立っていた
「···」
「どうしたの?早く準備しないと会社遅れる···」
「···鳴瀬さん、その服どっから持ってきたんすか?」
「え?」
確か俺が昨日渡した服はジャージだったはず、今鳴瀬さんが身につけているのは先週の朝も見た服だ、そんなもんうちには置いてない
「えっと···これはその···」
「···まぁいいや、顔洗ってくるんで」
「ま、待って!!き、昨日はその···ごめんなさい!!実は部屋のカギ探したら見つかって···」
「ならよかったじゃないすか」
「え、怒らないの?」
「怒るもなにも、あったんならそれでよしっすよ、そんじゃあ顔洗ってきまーす」
「あ、ちょ···」
顔洗って鳴瀬さんの作った朝飯食って···マジでこの朝飯うまいな
「···うし」
「あ、もう出る?」
「···」
「···こ、今度はどうしたの?」
「···いや」
「···!!いってらっしゃい」
「···いってきます」
ガチャ···ガチャン···
「···」
···これは高卒平社員の俺が
「···さてと、あたしも部屋の片付けしなきゃ!!」
隣に住んでいたエリート上司に
「···休日出勤だるい」
目をつけられた話である