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敵か味方か


「精霊だぞ!魔王の手下か!」

「逃げろ!」

「いや、俺は戦う。仲間を殺された復讐だ!」


 恐怖を乗り越え、闘争心を持つもの、子どもたちに逃げるように指示するもの、その場は騒然となっていた。


「……精霊の力を使ってくるのは間違っていたな」

「ああ、そうみたいだな」


 それは初めてウェルファとセンミンの意見が一致した瞬間だった。こんな状況でなければ喜ばしいこと、なのだが、今はそんなことを悠長に考えている場合ではなかった。

 それぞれ武器となるものをとり、人々は「ナル」達を囲み始めた。


「皆さん。俺達は魔王の手下ではありません!」


 戦わなければ殺される。

 それくらいの気迫をもって、人々は「ナル」達に近づいていた。

 だから、「ナル」の言葉などに聞く耳を持つわけがない。それでも彼女は言わずにはいられなかった。

 敵は魔王であり、目の前の人達は魔王によって蹂躙され、傷ついた人ばかりだ。


 ――戦うわけにいかない。


「おいおい。俺達はあんたたちの味方だ。助けにきたんだって!」


 前に出た「ナル」を庇うようにして、センミンがそう言い募る。


「味方だって?!信じられるかよ。そこにいるのはまぎれもなく精霊だ!あの火を使う精霊と水を使う精霊の仲間だろ!」


 男の一人がチェリルを指差し、近くにいた者が同意の声を上げる。


「落ち着け!私は薬師だ。シランから来た。マイリに頼まれんだ。マイリはいないのか?」

「マイリ様だって?」

 

 ウェルファが「マイリ」という名を出したとたん、今度は別の騒ぎは始まる。

 マイリ様と尊敬を持って語られる名。

 その名は効力をもっているようで、荒ぶっていた人々の気が治まっていくように思われた。

 身分が高いものか、街で信頼されている者か、それは「ナル」にはわからなかったが、戦いを避けられそうで安堵する。


「騙されるな。みんな!こいつがマイリ様の知り合いなんて、本当かどうかわからないじゃないか!」


 しかし一人の男がそう言うと再び、雰囲気が変わる。


「待て。俺は本当にマイリの知り合いだ。マイリを呼んでくれ。そうすればわかる!」

「マイリ様はいない! 昨日から姿が見えないんだ」

「なんだって?」

「マイリ様のことなんてどうでもいい。結局あの人も親切な振りをしただけなんだ。今頃、俺達のことを放って逃げ出しているさ!」

「そうだ! そうだ!」


 人々の怒りの声が広がっていく。


「まずいな」

「ああ。これはやばいぜ」


 ウェルファとセンミンに焦りの色が表れる。「ナル」は何か方法がないかと、人々の顔に救いを求めようと眺める。

 けれども、人々、子どもまでが、「ナル」達を批判しており、誰一人として彼女達を信じる者はいないようだった。


「ここはワタクシにお任せください」


 それまでただ黙って成り行きを見ていたチェリルが前に立つ。

 人々は一瞬怯えたように後退したが、すぐに戦意を取り戻した。


「皆様。ワタクシは金の精霊です。ワタクシとこの者達は魔王を倒すために旅をしているのです。魔王と火と水の精霊は、ワタクシ達が倒すべきもの。信じていただけませんか?」


 凛とした声に人々が静まり返る。


「ワタクシの力は癒しの力。皆様の怪我を治して差し上げましょう」


 間髪いれず、チェリルは両手を広げると、力を放出した。優しい金色の光が、彼女から放たれる。


「嘘だろ。怪我が治っていく!」

「わしの目が見える!」

「お母さん、もう痛くないよ!」


 歓喜の声が上がり、それは人々の戦意を奪うのに十分だった。


「皆様、お分かりでしょうか? ワタクシ達は敵では……ありません」

「チェリル!」

「チェリルさん!」


 金の精霊はそれだけを口にすると、人形のように力を失う。それを支えたのはセンミンで、「ナル」も慌てて駆け寄る。


「センミン。不本意ですが。ワタクシからあなたの精気をいただく力はありません。ですから」

「分かってるよ。力を使いすぎだ」


 「ナル」には二人の会話の意味がわかったが、その後のセンミンの行動に仰天する。それはウェルファも同様で、センミンがチェリルの唇に口付けするのを唖然として見るかしなかった。



 ☆


「水。金が北に現れたわ」


 真っ赤な炎を纏った火の精霊は、向かいで面白くなさそうな顔をしている水の精霊に問う。


「そうね」


 「アイル」と名付けられた水の精霊は、その大きな瞳を曇らせて、ただそう返す。


「アンタもそんな顔するのね」

「……うるさいわね。黙ってくれる?」


 精霊は名をつけられることで契約をされる。しかし前の契約の際の記憶は残ったままで、変わるのはその姿だけだ。


「とっても面白いわ。アンタのそんな顔が見れるなんて。あの男を殺して、バルーに契約させて正解だったわね。さあ。今度こそ、あれを殺してもらうわ」

「バルーが命令すればね」


 水の精霊はさも楽しそうに笑う火の精霊を睨み付けた。


「どういう意味? バルーが躊躇するとでも思っているの?」


 水の答えに、火は苛立ちを見せる。


「さあ。ワタシ達は契約主に従うだけでしょ。ワタシは知らないわ」

「その言い方。イライラするわね」


 火の精霊は小さな火の粉を飛ばして、怒りを振りまく。そんな彼女に背を向けて、水はできるだけ距離をとる。

 水と火、その性質からしても二人の仲は悪い。共に攻撃的だが、水はまだ火の精霊に比べ、人間に近い「心」を持っていた。だからこそ、最後の最後で、アイルを救ったのだ。このまま何もせず、前の契約主の願いのまま、ただ生きていてほしいと思ったのだが、その願いは届かなかったようだ。金の精霊と出会い、契約主ではないようだが、行動を共にしている。

 

 ――アイル。アナタは馬鹿だわ。


 契約は絶対だ。

 バルーが願えば、水の精霊はアイルを殺すしかない。


「さあ、アタシはバルーに知らせてくるわね」


 火の精霊は笑いながら、水の肩に触れる。

 属性が正反対。触れるとお互いに傷を受けるのだが、その痛みも火にとってはどうでもいいらしい。彼女は触れた手を少し摩りながら楽しそうに飛んでいった。


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