君のためのサプライズ
俺こと、倉田圭吾は恋人の川田朋美が現れるのを、駅の改札を見つめながら待っていた。
朋美と俺は家が隣同士の同い年の幼馴染み。幼稚園の頃に親が家を買い、この家に移り住んでからのつき合いだ。
出会った時から可愛かった朋美。会った時に一目ぼれをしたのは内緒だ。
人見知り気味なところがある朋美は何故か俺には懐いてくれた。
朋美の気を引きたい男子が意地悪をしていたのを、助けたの事が大きかったのだろうか。
俺達は中学に上がる時に付き合い始めた。
俺はどこにでもいる普通の男だ。いや、普通よりも容姿的には劣るかもしれない。だから朋美が俺とつき合っているのを知っているのに、気にせず告ってくるやつもいた。
そうすると朋美はその男達に本気で怒った。俺にも自分にも失礼だと言って。
他の男を視界に入れる気がない朋美に、男達は引き下がるしかなかったのだ。
そんな感じで周りからは、ちぐはぐに見られがらも俺達の交際は順調に続いていった。
時計を見るとそろそろ朋美が乗った電車が着く頃だ。
朋美はいまは地元を離れて、遠方の大学に行っている。彼女が大学に入ってからの4年間は彼女が長期の休みの時にしか会えなかった。
いや、違うな。その前の高校の3年間。俺が他県の全寮制の高校に行ったから、その時から7年間遠距離恋愛をしていることになるな。
俺の祖父母は小さいながらも洋食屋を営んでいる。その子供の父もおじ達も誰も後を継ごうとしなかった。俺は両親の仕事が忙しかったから、小学生の頃は家ではなく祖父母の店に帰っていた。朋美の両親も仕事をしていて忙しく、朋美は俺と共に祖父母の家に帰るのが常だった。
そんな状態だったから、いつしか俺も料理人になって祖父の店を継ぎたいと思うようになったんだ。
だから高校の3年間で、調理の勉強ができる学校を探してみた。そうしたら他県だけど、調理師資格が取れる学校を見つけることができた。
両親も担任も反対する中、朋美だけが応援してくれた。結局俺の気持ちが真剣だと認めて貰い、合格したのならいいということになった。そして合格した俺はその高校に通うことができたんだ。
「ええっ! 圭吾。迎えに来てくれたの」
「朋美、おかえり」
昔のことを思い出していた俺は、朋美が駅から出てくるのを見逃していたようだ。朋美の声に笑顔を浮かべて彼女のことを見つめた。彼女は目を丸くして俺の事を見ていたけど、すぐに満面の笑顔に変わっていった。
「もう! 迎えに来てくれるのなら教えておいてよ。というより仕事は? クリスマスイブなんて、一番忙しいのじゃないの」
「それが臨時休業になったんだよ。だから迎えに来れたんだけどさ。続きは車の中で話すよ」
俺の車に乗って家へと向かう中、朋美に事情を説明した。
といっても変な理由じゃない。祖父母は金婚式のお祝いに父達に旅行に連れ出されただけだ。
祖父母の結婚記念日がクリスマスだそうで、前日の今日から2泊3日で温泉に行っている。
俺が話を聞かされたのは1年前。そこからこっそりと準備をした。店の常連にも早めに予告をしていたから、臨時休業の張り紙は驚かれたりはしなかった。
祖父母には、昨日の夕方の営業の時に父達が来て伝えていた。祖父母はとても驚いたけど喜んでいた。
それに、みんなは俺にまでサプライズをしていったんだ。なんと、朋美の家族もこの温泉旅行に行っているのだ。だから、家に帰っても誰もいない。
家に着いて、先に朋美の家に行った。シーンと静まり返っているから、朋美は不思議そうな顔をして俺に聞いてきた。
「ねえ、圭吾。なんでうちの家族もいないの?」
「そのことだけど、朋美はおばさんから何も聞いてないの」
ピロリン
そこにタイミングよく朋美の携帯が鳴った。急いでメッセージを見た朋美の顔が赤くなっていった。
「そんな~」
情けない声をあげた朋美に俺は言った。
「荷物を置いたらうちに行こう。二人だけどパーティーの準備はしてあるから」
朋美はおとなしく俺の後をついてきた。部屋に入って「うわ~」と顔を輝かせた。うん。飾りつけを頑張ったかいがあったというものだ。
「下準備は出来ているから、すぐに用意できるんだ。朋美は座っていて」
「ううん。私も手伝うよ」
朋美と並んで料理の準備をして、出来たものをテーブルに運んだ。並んだ料理に朋美は目を輝かせた。
「懐かしい~。チューリップまであるのね」
「うちのクリスマスの定番だろ」
運び終わり向かい合って座った。
「朋美、食事の前に話があるんだけどいいかな」
「な~に、圭吾」
「俺と結婚してくれませんか」
「はい」
朋美は目を見開いた後、コクリと頷いた。
「でもね、私からもいいかな」
「なんだい、朋美」
「私も一緒に働くからね。駄目だなんて言わないでよ。そのために資格を取ったんだから」
彼女は料理人になる俺と一緒にいるために栄養士の資格を取ったと言った。
「だからね、一緒にお店をやって行こうね」
ニッコリと笑った朋美の笑顔がとても眩しかった。
ぎっくり腰のせいで、遅刻した。
次の企画に参加する時には、予約しようと心に誓いました。
お読みいただきありがとうございました。