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4話 C-1 香崎 露乃子

まともな子です。

 M組2番 香崎露乃子 女 15歳


 誕生日3月3日 魚座 B型


 成績優秀。授業態度問題なし。補導歴がいくつか。常に誰かに頼られ、面倒な役割をすすんでこなす。


 担任の平均評価「文句のつけようがない優秀な生徒です」

 友人の平均評価「頭良くて運動もできてスタイルも良くて羨ましい」

 両親の平均評価「私たちが何もしなくてもなんでもできちゃいます」




 裏・理事長ちゃんの日記 その3


 対象ロノコ・カザキ


 ○月×日 


 デス・ゲーム4組目。前の組はちゃっちいラブロマンス・ENDを迎えましたが今回はどうでしょうか。

 そう少しドキドキしながらルールの説明をします。おや、動じていない子がいますね! 香崎さんですか。なんでしょうあのスタイルの良さは。血筋を見ても……日本人ですね。175ありますかね? あの巨乳羨ましいです。理事長ちゃんは幼女なので。

 ……良い子ですね。混乱する場をよくまとめています。ふむふむリーダー適正アリですか。逆らったら死ぬと言ってるのに反抗する子を抑えています。見せしめ欲しかったですねー。



 ○月×3日


 つまらないですぅ。優秀すぎません? 死体どころか暴力沙汰にもならないんですけどぉ。もうこの学校で永久に暮らすつもりですか彼女たちは。不安煽ってもこっちの目的看破されちゃいますしね。

 ていうか香崎さん脱出経路見つけましたか? 明日には皆さんに話すでしょう。あーあ、まさかの全生還ですか。平和ですね。皆困難を乗り越え仲良くなって素晴らしいです。これが理事長ちゃんの目的っだったんですよぉ?

 ……次の組行きますか。


 ○月×4日


 香崎さんのみの生存確認。他全員死亡。勝者、香崎露乃子……???????

 ええっ?! 見てませんでした! 巻き戻し巻き戻し。

 ここですか最初の殺人は。まさか彼女一人で全員殺すとは思いませんでした。カーリーかなにかですかあの子は。これは……? ああ、管理していた食料をこの子達はちょろまかしているようですね。そして彼女が登場と。それで……。ん? 会話も無しでいきなりですか? これまでの彼女からは殺意なんて感じませんでしたから今とっさにってことですよね。そのまま流れで他の子も撲殺……と。

 

 もしかして……あのルール違反で怒っただけ・・・・・ですか?

















 

 当たり前のことで私を褒める先生にイラつきました。

 当たり前のように私を慕う友人にイラつきました。

 当たり前のことをしたのにお礼を言う老人にイラつきました。





 ――そして、そんな自分にイラついています。




















 


 ラシューニュー。そこは古き伝説がいくつも残る神秘の世界だ。そこを創ったのは女神であるし、それを破壊しようとした邪神もいた。

 生きるものも非常に様々で彼らは多様な能力を持っている。我々の世界と違うのは祖先は一つではないことと、事実として第三者の手によって進化させられたということだ。

 空に、陸に、海に、月に、闇に、見えない空間にさえそれらは生きている。ラシューニューに住む生物の中で最も多いのは人類、「アレマテト」だ。

 そしてアレマテトの中にはさらに種類があり、その数は研究者でも計り知れない。七感を持つことを除けば我々と近いものは「アレマテト・ジュレイリィ」と呼ばれる。隣に住む人が自分と同じ種類なのかは調べるまでわからない。そんな世の中であった。

 そんな中自分たちの種で集まり始めたものがいた。異種族同士の争いはあちこちで起こった。それは現在も続いている。悲しいものだ。


 そしてラシューニュー大陸より少し西に浮かぶ大きな島。名はなかったが最近では悪魔の島として近くを通る水生アレマテトからは恐れられている。

 この島にはかつて起きた大戦争により迫害された者達が住んでいたのである。その種類数百。もっとも今ではその3分の一にも満たないが。



 その島の中心。その地下にとある施設があった。肉のような気色の悪い色の壁に囲まれ、肉団子のようなモノに女性たちが仰向けに寝かされていた。

 腐臭のようなものすら湧いているこの部屋には3人の妊婦とその相手らしき男たちがいた。

 そのパートナーらしき男たちの表情は無い。陣痛に苦しむ彼女たちを冷え切った目で見つめている。


「ここまでは順調だな」

 一人の黒い男が呟く。地球でなら吸血鬼と呼ばれるであろうその者はアレマテト・ヴェラザイトという夜に生きる種族だ。


「今回はなんだったか覚えているかい? 忘れてしまったよ」

 そう聞くのはアレマテト・エンプリーバ。長い耳に中性的な容姿。美しい顔立ちの青年だ。


「右からイヴォーロ、デルタニア、ヲーゼヌンです。今回は私の精子と属性精霊能力持ちの卵子の配合実験ですよ。妊娠はうまくいきましたが、さてさてどうなるやら」

 最後の一人が答える。どうやら女性のパートナーはこの男のみであるらしい。その容姿は一番幼いが雰囲気はとても老獪なものを醸し出している。長髪を後ろで結び身長は150ほどだ。

 ちなみに彼が言ったものは彼女の名前ではない。イヴォーロ(炎霊)、デルタニア(雷霊)、ヲーゼヌン(水霊)、精霊の種類だ。女性たちの体には番号のようなものが刻まれている。

 彼らは彼女らを生命体としては見ていないようだった。


 すると一番左の女性の体が溶けだした。悲鳴が辺りに響く。彼女の体が融け、透明な水となり流れ出したかと思うとそこには赤子がいた。


「おお! やったじゃないか!!」


「落ち着きなよ。この生産・・は非常に重要なものなのだから。確認をお願いするよサーデ」


「了解しました。……肉体、魂、精神、魔力生成器官、全て機能しています。ズレも無しですね」


「はははははっ!! やったじゃないか!! 成功だろ!? かぁ~っ、これで資材を無駄にせず済むぜ!!」


「ほう……。これでダメなら君の遺伝子の配合は不可能となっていたわけだから安心したよ」


「はい! ジェンドもエルーも有難うございます。母胎ばいたいの改良を重ねに重ねてやっと完成したと言えますね!! 僕の優秀な子供・・が!」


 3人の男が興奮していると焦げた匂いがしてくる。右の保育器・・・が燃え尽きたようだ。今度も玉のように元気な子が生まれた。

 その子は泣き始めたかと思うと辺りに炎を撒き散らし始めた。その火は綺麗な蒼だ。


「おお! いきなり精霊の力を使うとはさすがだなあ」

 ジェンドという黒い男はそう可愛い子を見るような笑顔で言う。


『鎮火せよ』

 サーデと呼ばれた少年が唱えると、すぐにその火は消え、その子も泣き止んだようだ。


「まったく、仕方の無い子ですね。生まれていきなり粗相をするとは。ちゃんと教育しないとダメですね」


「はははっ嬉しそうだな! オレも初めて良い・・子が生まれた時は喜んだもんだ。気持ちはわかるぜ」


「まあ分からなくはないよ。親バカに気をつけなよ?」


 再び暖かい笑いが溢れる。

 そして最後の一つに視線を向ける。


「うぅ……いやあぁ、殺さないで……お願いよぉ」

 その女は自分のお腹を懇願するように撫でている。共に育てられた友人が自分の横で我が子に殺されるさまを見た彼女の表情は絶望に彩られていた。

 激痛が下腹部に走る。ああ、次は自分の番なのか。もう諦めその痛み耐えていると、お腹の圧迫感が消えた。


「ハァハァ……えっ?……」

 生まれた。あれは……娘か。泣きもしない。それもそうか。あの化物を父親に持つ子が普通なはずがない。そのまま彼女は意識を失った。


「なんか地味だなこの子」


「そうだね。サーデ異常はないのかい?」


「ないですね。不思議なこともあるものです。母胎が生きてることってありましたっけ?」


「ないだろ」


「定義にもよるかな。あれを生きてる状態なんて私は言いたくないよ」


「派手に雷を放つと思ってましたが。恥ずかしがり屋さんなんですか? この子はー、はははは!」

 サーデは母胎との繋がりを断ち、その子を抱える。紫色の髪を持ち、生まれながらにして人類を超越し雷の加護を受けた娘。

 ああいくつの失敗を経たのだろう。時には挫折もした。でもその度に諦めずに親友たちと共に前へ進んだかいがあった。

 愛しい自分の子供達。


「やっと僕も名前を付けることができますよ!! 嬉しいなあ! もう番号だけ増えてくのは嫌でしたからね」


 水霊のメイナ・ヲーゼヌン・ヴァラケルス


 炎霊のカネル・イヴォーロ・ヴァラケルス


 雷霊のローノ・デルタニア・ヴァラケルス



 


 悪魔の島。九凶星が降り注ぐその日、また新たな悪魔たちが生まれたのだった。














 島の中心には3つの城がある。森に囲まれた優しい雰囲気を持つ、アレマテト・エンプリーバ、エルーの棲む城。

 夜を支配する怪しげな、アレマテト・ヴェルザイト、ジェンドの棲む城。

 そして、見ればが誰もが息を呑むであろう白き荘厳な、デーメ・アレマテト、サーデ・ヴァラケルスの棲む城だ。


「おはようございますメイナお嬢様」

 その声で目を覚ます。清々しい朝だ。思い切り体を伸ばす。さて今日の予定は何かあったか。

 彼女はメイナ。ここの城主サーデの長女である。父のように美しく青白い髪を整え結ぶ。肌は白くその体の線も細い。今にも消えてしまいそうな雰囲気だ。


「あら? あなた見ない顔ね。いつもの子はどうしたのかしら?」

 起こしに来た給仕服の女にそう問いかける。


「はい。AS20058番は昨夜カネル様によって処分されました。そのため私AS20089番がこれからお嬢様のお世話をさせて頂きます」


「カネルが? まったく……あの子結構気に入っていたのだけど。まあ仕方ないわね。よろしく頼むわ……番号なんて覚えなくていいわね、どうせすぐあなたも消えるでしょうし」


 そうメイナが言うと、肩を少し震わせ無言でお辞儀をする消耗品。このままいじめるのもいいがお腹がすいた。

 青い和服のようなものに着替え食堂に向かう。すると、バンセルフォンたちの歌声が聞こえてきた。彼女たちは元々は海に生きる者たちだ。例えるならセイレーン。その声は弱いがハーセトを持っている。ここではこの女たちを配合を重ね地上生活できるように改良していた。

 その歌声を聞きながら贅沢に食事を楽しむのだ。


「よおメイナ。お前のメイドまた使った」

 先に食卓につき肉にかぶりつきそんなことを言ってくるのがメイナの異母弟であり、ここの長男カネルだ。赤い髪を後ろに流し、その外見はどこか野性的でありながら綺麗だ。


「なんであなたはわたしの玩具ばかり壊すのかしら? 腐る程いるとは言えわたしの好みを一から教えるのは楽ではないわ」


「いやさ、あいつらなんだかんだでメイナに懐くじゃん? それを無理矢理引き裂くのがいいんだよねー」

 上機嫌で言う彼。よっぽど昨日は楽しんだのだろう。


「わたしの調教の成果を……まったく。お父様は?」


「また研究じゃねえかー? エルーとジェンドの兄貴と一緒に地下にいんじゃね。あと今日ウチで久しぶにみんなで夕飯食うってさ」


「もうすぐ……ということでしょうか。」


「おう! 楽しみだ」


「……念のため聞いておきますがローノは?」


「知らね」


 実は彼女たちには妹がもうひとりいるのだが、そのローノは全くと言っていいほど彼女たちと関わろうとしない。一日一回会えればいいほうだ。喧嘩をしているわけでもなく、むしろメイナは構いたいくらいなのだが。

 もしかしたら、何か知らないところで彼女の癪に障る事をしてしまったのだろうか。溜息を尽きながらメイナは食物用に配合された種族の美味な肉を口へ運んだ。









 何もかも消し飛ばしてしまいたい。そうロノコは思った。堪忍袋が破れ中身がぶちまけられそうだった。地球にいた頃のストレスとは比べ物にならない。そう純粋に思った。

 それを表に出していないと彼女は信じきることができなかった。地球でのあの生活よりはマシになるかとも思ったのだが予想以上にひどい。普段からブチギレ過ぎて冷静になる彼女だが、一体それを何回繰り返したのだろう。

 ここではこれが普通である。理不尽なのは自分自身なのだ。それに葛藤する自分にも腹が立つ。暴走しようとするその浅い考えに青筋が浮かぶ。

 少し期待したがこの性質はこちらでも変わらないらしい。ならばもうこの世界に興味はない。さっさと20年過ぎるのを待つばかりである。

 ここでの20年のあとにまだ大量の人生が残っているのだ。いや、あのエイリアンが気に入ればまたこんなことを企むはずだ。憂鬱だ。それに対してまたイラついた。

 

 少し人間を見直し、上機嫌になるときに限って地雷を踏まれるのだ。あのデス・ゲームの時のように。あの時はなんとかなるからよかったのだが。今回はまずい。あの超越幼女を失望させれば二度とこの世界から出られないかもしれない。

 地雷を踏まれないように気をつけなければならない。このストレスさえなければ彼女は至って普通の子であると自分では思っている。


 戦闘兵アレマテト・マジョルガ。肉体を強固に魔力量を多く持つよう設計された種族だ。かつて起こった戦争で使われた鎧と武器を装備している。

 ここは彼らの訓練施設。その端で一般兵とは違う鎧を纏った者たちと一人の少女の姿があった。

 少女は油断しているその兵士たちに拳を叩き込む。一撃である程度の魔力消費攻撃を跳ね返すその鎧を砕き、中身を粉々にする。雷鳴と閃光が辺りに響く。


「ひっ!! ひいいいいぃぃぃ!!」


 他の兵士が戦意をなくしてしまう。実戦訓練に付き合ってもらったのはロノコだがこれでは訓練にならないではないか。付き合ってくれとお願いした時、彼らは馬鹿にした視線を彼女に向けていたにもかかわらずになんだその怯えた目は。イライラする。


「……貴方達は優秀と聞いていたのですが。所詮はこの程度。がっかりしました。それで御三方の軍隊の一兵士を名乗ろうとは」


 怒気を孕んだ視線が彼らを射抜く。なんだこの怪物は。彼らはマジョルガの中でも優秀な母体から生まれ、魔力量も筋力も他の奴らとは比べ物にならなかったのだ。

 ふと彼女の体を見るとどこにも番号がないことに気がつく。


「もっ、申し訳あ、ありません! あなたはもしかして名前持ちなのですか!?」


「……そうですが。ローノと言います。お見知りおきを」


 名前持ちとは特別な組み合わせで生まれたり、突然変異を起こした個体のことだ。番号で判別がつけられる彼らとは次元が違うのだ。

 それがローノだと? この島の支配者たる御三方の一人サーデの三人の子供、その末妹ではないか。支配者の遺伝子を持っているだけでここでは権力があるのだ。暴虐の限りを尽くす権利があるのだ。

 ここで自分たちは殺されるのだ。この5歳にも満たぬ少女に。

 

「これに懲りたら一層鍛錬に励んでください。一撃で死ぬのは情けなさ過ぎます。これでは私の訓練にならない」


 そう言って少女は去ろうとする。この島は一国の広さがあり、名前持ちは城のある中心部にいることが多い。反対に番号付きは端へ端へと追いやられていくのだ。

 名前持ちと出会った時には死を覚悟する。これは冗談などではなく、権力でも能力でも知力でも彼等に適わないからである。

 しかしこの少女は殺したのは一人だけで、しかもそれは故意に行ったものではないようだ。


 紫の髪を腰まで伸ばし、紫の和装をしている見た目は地球で言うと中学生位の少女。それを彼らは唖然として見送るだけだった。














 イライラします。ストレスを発散させようとすれば、彼らのあまりの弱さにイライラします。殺してしまうことに嫌悪感はありません。名前持ちを殺してしまうと面倒なので彼らを念のため選んだだけです。 あのままだと絶滅させかねないので我慢しましたがどうにも怒りが収まりません。


 雷霊を操る能力に長けていると言われても最初は理解できませんでしたが、なんとかしました。考えてみれば常に肉体は電気信号……だとかなにかで動いているわけですから。ですが、それを意識し始めたとたん私の体に変化が起こり常に発電し、帯電する厄介なものになりました。

 最悪なのが私の感じる怒りによってさらに増幅されるということです。ああ、またイライラしました。雷が髪の毛から漏れてしまい近くの木に直撃。大きな音をたて倒れてしまいます。


 この状態で地球に帰れと? 冗談ではありません。三谷君や尾賀江名桜なら喜ぶでしょうが、これ以上更なるストレスの元を増やしたくはありません。

 この世界でのお父様、サーデ様には何度か相談しましたが、娘の思春期の悩みのような対応をされてしまい、結局家族には全く影響ないから気にするなとまで言われました。

 お兄様には笑われ、相性の悪いお姉様は必死に笑みを崩さぬようにしていました。電気分解される度に空気中に散りまた戻る彼女には申し訳なくてイライラしました。


 私の現在の目的は20歳までにこの体質または性質をどうにかすることです。髪は染めればなんとかなるでしょう。

 この島の外にそんな技術があるかもしれないのでそれを探ります。幸いこの肉体は成長が早く、5歳の時点で私の小3の時のスペックがあります。あと5年もすれば元の肉体とほぼ同格になると思います。

 それならば三谷君や宮乃君または尾賀江名桜に遭遇したとしても死にはしないはず。他の方々は他人を蹴落とすよりは自分の利益を優先する方なので、害は私が不利益を出そうとしない限りないでしょう。「資産を地球の価値に直して持っていくことができる」という事を踏まえてこの世界を征服しようと考える困った人もいそうではありますが。源田君とか梨南ですね。

 源田君、梨南、茅沢君は立ち回りが非常にうまいので人として生まれた場合に近くにいなくてよかったと思います。3歳ほどで私を路頭に迷わせることとか余裕ですからね。大家族演習という授業で全員兄弟になったときは熾烈な遺産争いに発展し文字通り誰もいなくなりましたから。

 ですが今この島という生産工場においては私が有利に立ち回れたでしょう。基準を暴力や強さにおいて判断している場所では彼らの人脈作り(せんのう)も一瞬で塵にしてあげることができます。

 戦闘に関しては私と三谷君の2強、軍を率いた場合は宮乃君が有利を取る。生まれながらこの能力を得たとはいえ油断できないのが彼らです。厄介なところは誰かが有利と見れば同盟を結びまっさきに潰してくることです。授業でもそうしてやられました。そしてあの笑顔女はそこに便乗、ちゃっかり真望柴君もいるというのがいつもの展開です。

 しかし今回は生まれ直すという予想外の要素も含まれているため、どう事が運ぶか予想が難しい。私は取り敢えず島を出ることを考えましょう。幸いその目処は立っています。


 なぜなら、ここの生物たちはラシューニューを攻めるために用意された者たちなのですから。


 過去に何があったかは脳味噌の良い個体が教えてくれました。御三方とかいう糞野郎様の清い目的とやらも。その遠征軍の斥候として選ばれることができれば早くにあの海の向こうの情報を手に入れることができるでしょう。


 あと観沙と早く会いたいです。彼女も私と同じような性質ですが直す気がないようなので、良い方向へ行かない場合、環境に恵まれない場合――世界を滅ぼしかねません。

 聞いた限りだと過去の怨恨があの大陸にはあちこちに根付いているようなのでそれに彼女が触れていないことを祈るしかありません。

 今までは純粋な人間だからこそ私たちで制御は可能でしたが今となると……。



 ああ、考えることもやることも多すぎます。イライラします。






 この日悪魔の島のことを徐々に忘れていた周りの海域に棲む者たちはその島の一部から空へ登る紫色の雷光を目撃し、再び悪魔が復活したことを知るのだった。









 


  


 オレは16年前にこの島で生まれた。エルーというエルフみたいな奴の息子としてだ。いや、その言い方は間違っているのかもしれない。

 あんなもの父親として認めるものか。俺の母親というべき人を俺が生まれた直後に用済みと言って殺しやがったのだ。それは吸血鬼のようなジェンド、見た目ショタなサーデとか言う男共も同じことをしてやがった。

 まるで育成ゲームを奴らはしているようだ。この島に大量にいる人々やモンスター達は全てこいつらの意思によって生まれさせられたのだ。種族と種族を掛け合わせ、その結果を記録しまた別の者同士で……という残虐な行為をしている。

 生まれた者たちは番号で管理され用が済めば殺されるか捨てられるかだ。優秀なものまたは奴らの直接的な遺伝子を持ったものが名前を持つ。

 そしてその名前持ちの奴らもクズ野郎ばかりだ。名前を持たない人たちを差別する。彼らには何の罪もないのに。



「やあ、ケルゴ。今日も不機嫌そうだね」

 そうオレの名を呼ぶのはミリャイーヤ。名前持ちでエルーの息子とジェンドの娘の間に生まれた黒髪で赤い瞳を持つ妖艶な少女だ。

 彼女もまたこの島のあり方に疑問を持つものだ。オレたちが意気投合するのにそんなに時間はかからなかった。


「当たり前だミリィ。なんで会いたくもない奴と食事しなくちゃいけないんだ」


「仕方ないさ御三方の意思だ。君は森の中で一人暮らししているからまだいいじゃないか。ボクなんて毎日アレらと顔を合わせるんだよ?」


 今向かっているのはサーデの城だ。そこで本日晩餐会が開かれる。奴らと一部の名前持ちのみのパーティだ。このようにあいつらは気分で様々なことをする。番号を付けられた人々をオレたちに鍛えさせ殺し合いをさせた事もあった。吐き気がして参加することはなかったが。

 

 城に到着する。腰から蝙蝠の羽を生やしたメイドがオレ達を迎える。


「ようこそお越しくださいましたケルゴ様、ミリャイーヤ様。既に他の皆様はお着きになられています」


「そうかありがとう。……見ない顔だね。前の人は?」


「AVF5003でしょうか? 彼女は処分されたため私がこちらに配属されました。AVF5004と申します」


「……そうか。いや、ごめん」


 これだ。あいつらは本当に命をなんだと思ってやがる。

 この屋敷に住む三兄弟、特に上の二人は名前持ちの中でも最悪だ。メイナは誰か拾ってきては酷いことばかり強制する。カネルは暴力を振るうことを楽しんでいる。

 三女とはあまり会ったことがない。こうした集まりにも参加する事がないからだ。悪い噂はあまり聞かないがあの兄弟なのだ最悪なことに変わりはないだろう。


「そういえば今日森で大火事があったんだけど見たかい?」

 会場へ続く長い廊下で、宙に浮き後ろからオレの左耳に口を近づけ話しかけてくるミリィ。


「ああ見てたよ。すぐにオトウサンが消していたな」


「なんでもローノがやったらしいよ。彼女が問題を起こすのは珍しいよね。それとも今まで隠れていただけかな? フフフ」


 そらみたことか。森にもたくさんの生き物がいるのになんてことをするのだろう。やはり彼女にもあの冷酷な血が流れているのだ。


「……ケルゴ。分かっているとは思うけどその不機嫌な表情をお姉様方やお爺様方に向けないでくれよ? 敵意はすぐバレる」


「分かってるよミリィ」


 そう、今はまだだ。







 パーティ会場は名前持ちの中でも選ばれた者で賑わっていた。その中心にある長方形の大きなテーブルには豪華な飾りと食事が並べられている。端の方には番号付きのメイドが一定の間隔で控えている。

 扉が開く。どうやら最後のお客が来たようだ。


「ようこそおいでくださいましたわ、ケルゴ様、ミリャイーヤ様」

 そう挨拶をするのはメイナ・ヲーゼヌン・ヴァラケルス。豪華な髪飾りをして綺麗な模様の入った和服のようなものを着ている。

 その後ろには彼女のお気に入りである名前持ちの少女達が控えている。彼女達は優秀なため名前を持つ個体であるがそのランクは御三方の遺伝子持ちには劣る。特にその直系であるメイナには逆らえない。


「やあ久しぶりメイナ。もう5歳だっけ? 随分成長が早いようだ。美人になって驚いたよ」


「……ッ! あ、ありがとうございましゅ!」


 メイナの声は最後の方は小さくなってしまい聞こえなくなってしまった。


「ボクの前で他の子を口説くとはいい度胸だねケルゴ。やあメイナ。その分だとあと5年もすればボクの肉体年齢を超えそうだね」

 そう言いながらケルゴの腕を抱くミリャイーヤ。言外にお前もう少ししたら自分より歳を取るぞと言っているのだがその意味をメイナは理解したようだ。


「……そうですね困ったものです。ですがまあそれはミリャイーヤ様の体型が未熟ということではないかと思いますわ」


 ニヤけながらメイナを見るミリャイーヤとそれを睨み返すメイナ。




「見てお姉様、あそこで修羅場が繰り広げられてるの」

「そうねお姉さま。私達は可愛い弟分の相手としてどちらを応援しましょう?」

「ならわたしは役たたずだった妹の娘、姪っ子を応援するの」

「あら、じゃあ私はサーデ様の娘、水の子を応援しましょう」


 静かに笑う黒と白の対照的なドレスを着ている双子。ジェンドの娘であり、アレマテト・ヴェルザイトである姉妹だ。

 初めに喋ったのが黒色の黒髪で黒い瞳のミミレイルン、白色白髪で瞳が白いのがメメレイルンである。


「久しぶりです。姉さん方」


「お姉様、この子図太いの。それにわたし達に黙って一人暮らし始めたこと謝らないの」

「そうねお姉さま。でもしょうがないわ。ケルゴ君はこういう子でしょう?」

「わたしは悲しいのお姉様」

「そうね私もよお姉さま」


「あはははごめんごめん。急に決めちゃって。やってみたかったんだ」


「ミリャイーヤ様」


「なんだいメイナ」


「……ケルゴ様は……その」


「……分かったかいボクの苦労」


「……いや、その。先程は失礼いたしました」


「いえいえ」


 ケルゴの周りに可憐な女性達が集まって談笑していると、一人の男がやってきた。


「来たかケルゴ。久しぶりだな。申し訳ないが夕食の方だが少し待ってくれるか」


「久しぶり兄さん。どういうこと? 父さん達にも挨拶しようと思うんだけど」


 ケルゴの腹違いの兄で実質的な名前持ちのトップであるライオはブロンドの髪を掻くと溜息混じりに呟いた。


「いやなに大したことじゃない。今日の山火事の件でローノを呼び出したのだが、逃げ出したようでな。メイドや下級名持ちでも手に負えん速度で逃げているものだから今父上達が全力で追っているのだよ」


 ケルゴもミリャイーヤもこれには驚きを隠せなかった。変な子だとは思っていたがまさか自分の父親の言いつけを無視し、御三方にすら迷惑をかけるなど考えられなかった。


「よお兄貴達!! 久しぶり!」

 ヴァラケルス三兄弟の長男カネルがおそらくは番号付きの女を引き連れやってくる。それにケルゴは一瞬顔をしかめるが笑顔で対応する。


「やあカネル。ローノとはあまり会ったことがないんだけどいつもこんな調子なのか?」


「んー? 知らね。俺もあんま話さねえし。気がついたらどっか行ってるしよ。父ちゃんくらいじゃねえのまともに話すの。よく夜に部屋入ってくの見るぜ?」


「カネル! それは本当なの?」


「んだよメイナ。マジだよ。夜遊び終わって片付けしようとメイド呼ぶ時とかよ」


 驚いたことに兄弟たちですらもその行動を把握していないらしい。


「今日の目的はそのローノをいい加減紹介しようという事だったようでな。サーデ様も張り切っていたのだが……肝心の彼女に伝えたのが今日の火事の説教の最中だったらしい」


「わたしまだ会ったことないの。悲しいの」

「私もよ。探しに行きたいくらいよ」


「……随分と不思議な子だね」


 ケルゴはそう返すのがやっとだった。




「この子はまったく! 森を燃やすだけじゃなくて、外に逃げようとするなんて!!」


「いやあぶねえのは確かだけどよ。お前娘に全力のパンチ入れんなよ……」


「必死だね。愛する娘を前にしては超人といえど型無しかい?」


 すると上の方からそんな声が聞こえてきた。

 10m以上の高さがある窓の方を見上げるとこの島の支配者である三人の姿があった。ガラスに触れずにして外からこちらに入ってくる。

 すると何かが窓の向こうで落ちた。


「「「あ」」」


「ローノォォォォォォ!!?」


「馬鹿かサーデ!! ローノは透過できねえだろ!!」


「まったく……『停止せよ』『こちらへ来たれ娘よ』」


 紫色の何かが空中で停止したかと思うとエルーの目の前に落ちた。

 その塊は無言で起き上がったかと思うと服の埃を叩き始める。


「……ローノ? これはわざとではなくてですね? 事故というかなんというか……」


 紫色の少女にそれより少し背の高いくらいの少年が近づきながらそう言うが、少女はそっぽを向く。


「……とうとうこの時が来たなエルー」


「そうだねジェンド。さてパパは娘に許してもらえるかな」


「違うんです!! 許してくださいローノォォォォォォ!!」


 一連の流れを見ていた招待された名前持ちだけでなく、遺伝子持ちや直系達も固まっていた。

 御三方がこの島の者を見る目は冷たい。それは全員が知っていることである。ジェンドとエルーは自分の子供達には暖かい眼差しを見せることは多かったがサーデは子供が3人しかいなく、滅多に外に顔を見せないのでこのような一面を皆知らなかった。

 まあそれよりも気になるのは紫色の少女の方である。


 少し発光する紫の髪を腰まで伸ばし、その服装はパーティに来るようなものではない動きやすいもの。加えて戦闘の跡が見える。その表情は不機嫌で紫の瞳は冷たく周りを見回す。


「……ここはどこですか?」

 少し痛がりながらお腹を抑え、可愛いらしい声でその少女は言う。


「よく聞いてくれましたローノ!! ここは我が家のパーティホール!! さっきも言いましたが今日は恥ずかしがってなかなかみんなと会おうとしないローノのための晩餐会を開いたのです!!」


 その瞬間ローノの体が発光し紫の雷が漏れ出す。かと思えば会場中に放電を開始した。


 数人の名前持ちの犠牲を出しながらも無事ローノは数十人がかりで無力化された。





「すごかったね……」


「……ああ」


 ミリィの言葉にそんな風にしか返せなかった。夕食が全て消し炭になってしまったため、今メイドさんたちが必死に作り直している。それまで夕食は延期だ。

 ライオは後処理に追われ、黒白姉妹は疲れて帰ってしまった。

 危なかった。パーティ用の服で来たためなんの対策も行わなければ紫電が直撃して死んでいた。ミリィは守りきったが、数人は炭になってしまった。まあ番号付きをひどく差別する奴ばかりだったのでそんなに悲しくはないが。


 ローノはこの体質のためあまり人前に出てこないそうだ。メイナにそう聞いていると彼女に直撃し、空気中に散ったあとに彼女は復活した。いつものことだ、と言っていた。カネルは笑いながら回避していた。兄弟たちにも同じ威力のものをぶつけているからわざとではないのだろう。


 このままあいつらを殺してくれとも思ったが三人とも全員くらっても平然としていた。サーデのやつなんかは嬉しそうだったな。どんな体をしてやがんだ。


 会場は消火作業が済んでいるがもう酷い有様だ。まあ魔法の得意な人達が直してくれているのでその内直るだろうは思うが。


 そんな原因であるローノは窓の方で外を見ながら何やら頭を鷹のようなものにつつかれていた。


「やあローノ。覚えてる? エルーの息子のケルゴだ」


「お久しぶりです。この体質になる前に一度お会いしたきりですね」


 そこまで覚えてくれてるのか。意外だ。


「それよりもその頭の上の子は? つつかれて痛くないの?」


「この子はフェルケ・デルタニアのファルです。電気を食べる種族なので助かってますけど気の乗った時しか電気を食べてくれません。困った子です」


「フフッ!!」


「……なんですか?」


 不機嫌そうな顔をしながら頭をつつかれているのだ。なんというか微笑ましい。

 ふとそのフェルケの足に番号が刻まれているのを見つけた。


「その子もしかして番号付き?」

 名前で読んでいたような気がするが。


「そうですよ。電気を大量に食べないと生きていけなくなってしまった失敗作です。処分されそうなところをたまたま見つけて貰いました。まあ、私と相性いいのがこの子くらいなので名前を付けました」


 安直ですけど。とこの子は言ってファルを撫でようとして指を噛まれた。どうするのかと思えば文句をぶつくさと言うだけだ。おかしい。その場で殺してもおかしくないのに。

 いくらでもコピーは可能なはずだ。敢えて生意気なこの子を頭に乗せている。本当にあいつらの妹か?

 オレは信じられなかった。


 もしかしてこの子なら――。


「ケルゴ」


 ミリィに腕を引っ張られる。なんだ? 彼女は周りに聞こえないよう防音魔法を口にし耳元で喋る。


「前も言ったと思うけど慎重にね? もし仮に彼女がこの島の制度に囚われない子だとしても、ボクらの計画に賛成するかは分からないからね。見たところサーデサマとも仲がいいようだし」


 頭を冷やす。危ない危ない。上二人があんなのだからそのギャップで思わず感動してしまった。あくまで彼女の中では自分の体質を何とかするための行為なのかもしれない。

 ひとまず彼女を知ろう。話はそれからだ。









「――――します」


 彼女がなにか呟いたと思うとその上の子がお腹を膨らませ、満足しているようだった。


 彼女は城の窓から東の水平線をずっと見ていた。


 















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