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3話 B-1 三谷 那國

ちょっと暴力的な子です。

 M組7番 三谷那國 男 15歳

 

 誕生日12月22日 射手座 A型


 成績は問題なし。授業態度は悪く、校則も守らない。しかし友好関係は広く、教師には好かれている。


 担任の平均評価「口も態度も悪いですがやることはちゃんとやっています」

 友人の平均評価「番長でクラスでよく目立つ存在」

 両親の平均評価「今は生意気で反抗的だがしっかりとしたところはある」






 星が降ってきた。流れ星や隕石はこの世界でももちろん確認されている。問題は預言者の残した不吉な言葉の通りになったことである。9回の、いや九つの隕石がその日ラシューニューに降り注いだ。


 未開の地が続く南西部。活火山が多く、ジャングルや砂漠地帯の多いここでは日々生存競争が繰り広げられている。

 とある谷の底で静かに息をする者がいた。ヴォルクウラと書物には残されている種族だ。彼の命は今ここで尽きようとしていた。その体には火傷、裂傷などひどい怪我が多く見られた。もうここを出ることもできない。ここで敗れていくのだ。

 目を閉じようとするが彼の頭上で何かが輝いた。空から何かが落ちてきたのだ。それは彼の前で「急停止」して浮遊した。縦2m横幅は1mほどの岩だ。

 するとそれにヒビが入り、その割れ目から何か泥のようなものが出てきた。そして彼にまとわりつく。


 彼はそこまでを見て意識を手放した。










 ランダムとは聞いていたが流石にこれは予想外だったぞクソチビ。まさか大気圏外で生まれて降ってくることになるなんてよ。俺の悪趣味な揺り篭は死にかけのドラゴンみたいな奴の前に停止した。これを食えということだろうか。降りてみると乗ってきた隕石は爆発しやがった。今の俺はゼリー状のなにか。

 本能に従いそのドラゴンの肉体を喰らう。すると頭の中にこの生物の情報が入ってきた。ドラゴンを吸収してみると体積が増えた。そして俺はその姿をコピーしたようだ。

 肉体だ。感覚がある。やはりこうでねえとよ。声帯もあるようで吠えることができた。ナクニ様の産声だぜ。

 人間でねえのが不満だ。女をヤレねえだろこれ。あの宇宙人の授業はいつもトンデモねえが、その度に好き放題してきた。まさか自分の肉体を恋しく思うとはよ。


 俺の声に反応した奴がいた。でけえ鷹だ。怪獣かよ。俺を見る目は鋭い。

 いいぜやってやろうじゃねえか。


 信じられない話だがこの体は弱い。まだ武器を持った俺の方が強い、そう思った。鱗はあのクソ鳥の爪で簡単に傷が付きやがるし、あいつの口からの火炎放射の熱に焼かれる。

 コピーした生物の遺伝子情報を元にさっきの個体を最高のポテンシャルで再現しているはずなのだがダメだ。弱すぎる。どっちがドラゴンかわかりゃしねえ。全力で細胞分裂を起こし回復に努めているが、奴は届かぬ空へ逃げてしまい一撃離脱戦法を繰り返してきやがる。

 だが頭は大してよくねえ。経験でしか判断していない。それならば。


 やつの一撃を受け俺は倒れる。そのまま沈黙。流石に奴も降りてきた。疲れているようだ。


 バカが。


 全力でその羽に食らいつく。よくもやってくれやがったなこの野郎が。せっかくの歓迎を無下にはできんからよ。

 前足でそのまま地面へ押さえつけ、折る。さすが鳥だ骨も脆い。あー最初に鳥を殺したときは糞落としてきやがった奴をぶっ殺したんだっけか。思い出したらムカついてきた。

 尻尾で首を締め気管を塞ぐ。おーおーいい感じに悶えやがる。火を吐こうとして胸の辺りで点火して自爆しやがった。ガスを肺で生成してやがんのか。尻尾の拘束を解き、上に跨りマウントを取る。

 前足でラッシュをかける。前言撤回だわ。前に足が付いてるってのはなかなかいいな。連続キックだ。


 鈍い音が何度も辺りに木霊する。原型を保てくなるくらいに俺とこの体の主は殴り続けた。





 生物研究のお時間だ。右手をゼリー状に変え残骸に触れる。おお入ってくるわ大量の情報が。この体は羽が生えているが飛ぶことは苦手だ。完全に飾りだ。こいつの飛行能力をなんとか再現したい。

 脳内で二つの生物の情報を掛け合わせる。複雑な化学式みたいなもんか。少々何かの力を持って行かれた気がするが飛行能力と火炎放射能力だけを再現しようとする。

 すると体の中から何かエネルギーが溢れ出してくる。さらに膨らみ俺は爆発した。

 谷底が閃光に包まれ、それが収まるとその中心に俺は立っていた。肥大化した翼と火を吐くシステムを習得することができたようだ。


 大翼を羽ばたかせ上へと登る。地上に着くとそこはマグマが吹き出し、黒煙で空が見えないような素晴らしい場所だった。

 んだよ人間はいねえのか? この肉体で逃げる人々を蹂躙するのも楽しそうだな。そう思ったが力を得るまではやめておくか。

 いつも陽御壱は真っ先に俺を潰しに来る。あの自己中ナルシーは俺を常に敵認定している。奴が人間としてこの世界に転生している場合、俺を見つけ次第すぐに討伐隊を指揮して襲いかかってくるはずだ。

 糞正義の名のもとに。

 

 20年後の肉体を持っていくことができる。つまりそれ以前に死亡した場合その報酬は消える。俺はこの便利な肉体を必ず持って行ってやる。日本に出現する怪物。ああ考えただけで最高だ。

 何としても生き残らなければならない。暴力では自信があるが搦手を使ってくる奴が多すぎる。実体験式戦略シュミレーションゲームの授業の時はいつも俺は自身のユニット以外を奪われる。まあ俺が殺されることはないが。

 現実でも配下はいるがその後始末ばかりだ。結果的に香崎の餌食になってしまうことも多かった。だが俺のみの勝負事では負けたことはない。この肉体だ。しばらくは一匹狼で行くことにするか。

 まずは消耗の多すぎるこの肉体の腹を満たさなくてはならねえが。




 一頭の黒き龍がいまここに雄叫びを上げ、誕生した。瞬く間にこの火山地帯を其れは支配するのだった。













 彼もまた空から降ってきたものだった。意思はない。ただ生物を喰らい、その特徴を学習し自分のものにすることを目的に生きていた。彼が最初に付着したのは溶岩だ。動けずにいた彼だが噴火とともに流れ出し巨人族の里に流れ、その巨人たちを飲み込み20mほどの巨大な人型の溶岩となった。

 人の七感を得た彼は高い知能を得た。そして彼ら・・の本来の目的を思い出したのだった。


 ――その星の命を、システムを全て手に入れ一つとなり全データを保存する。


 使命だ。それを果たさなくてはと彼は思った。そのためにはまずあと八つの仲間と合流しなければ。

 幸いなことに近くの火山地帯にその気配を感じた。重い足を動かし森を跨いで、焼きながら彼は進むのだった。




 その仲間は直ぐに見つかった。火山灰を延々と吹き出し続ける炎神カガラド山の頂上で、長年ここら一帯を治めていたヴォルクウラの長を喰らっている途中であった。


『ほう。なかなかに強固な肉体を得たようだな兄弟よ』


 発音を苦手とする巨人族の会話能力である念話でその炎人は話しかける。並の爪では傷つける事すら不可能な黒い尖った鱗。その巨体を支える強靭な脚と大翼を羽ばたかせながら黒龍はその赤い瞳で炎人を見つめる。

 言葉に反応するだけの知能はあるようだ。彼も人型を吸収したらしい。最も沈黙だけであったため、言葉を発する術は持っていないようだ。


『我を見ても思い出せないか? 我らの尊き使命を。生命情報の保管をだ』


 黒龍は少し唸ったかと思うと再びその下にある屍肉を喰らい始めた。


『話を聞け兄弟よ。そのためには我ら兄弟が集結し、結束を固める必要があるのだ。そしてその九つの情報を統合した肉体でこの星の生命を一つ残らず吸収するのだ。言っても分からぬか? まあ良い、我をベースに一つとなればその低い知能も問題はない』


 そう炎人が語ると黒龍は再び視線を彼に戻した。しかしその瞳には殺意が込められていた。


『どうしたというのだ? なぜ統合を嫌がるのだ。それが我らであろう?』


 黒龍の返事は明確な敵意を持った咆哮だ。


『なんということだお前には異常が見られる。それに低い知能は撤回しよう。貴様、我の言葉を完全に理解しているな? はっきりと我らに敵対しようというのかこの愚か者め』


 炎人の体内で魔力を纏った爆発が起こり始める。体温が急上昇しそれはあっという間に千度を超える。彼もまた臨戦態勢に移行した。


 黒龍は飛んだ。上の有利を取る。旋回し攻撃の機会を伺う。


『受けの一手か。やることが幼稚だぞ。……炎霊イヴォーロよ我を包め。地の利が我にありすぎるのだ愚か者め』


 霊覚を持つと自然と感じることのできる存在。それがこの世のものすべてに宿る精霊だ。火には火の、水には水の、光には光のものが宿っている。霊覚でそれを感じ魔覚で操作するのだ。精霊たちと共存関係にあった森の番人たる巨人族、それら数百体の情報を吸収した彼もまた精霊の力を余裕に扱うのであった。

 黒龍の持つ能力は強靭な顎と鋭利な爪そして火炎放射だ。喧嘩慣れした体術も要しているが体格差がありすぎる。数秒の思考の後黒龍はその高度を上げた。


『逃げるか。だが不可能だ。噴火せよカガラド、かの黒龍に降り注げ!』


 ハーセト、詠唱魔法だ。その声と共に炎人の体内で更なる魔力爆発が起こり膨大な魔力が消費される。


 次の瞬間大地震とともに炎神の名を持つ火山はその内に貯めていた全てを天高く吐き出した。火口以外からも地割れとともに溶岩が溢れ出す。

 黒龍は下から流れる炎の滝に突っ込んでしまうがなんとか脱出し態勢を整える。しかし吹き出した火山弾が全て物理法則を無視して飛んできた。

 下から。上から。時には横からその鉱物の溶けた弾は黒龍の鱗を破壊した。何百発もの誘導ミサイルが黒い雲に覆われた大空を舞う者に直撃した。

 翼を焼かれ再生も追いつかなくなったそれは力なく落下する。その下にはその大拳を構えた巨人がいる。


『炸裂せよ』


 炎人が拳を上へ放ち黒龍に触れると、爆発した。黒龍の体は言葉通りにバラバラになった。

 その肉片が炎人の体にかかる。


『む? 吸収するつもりか? 』


 弱々しく震えながら黒龍の形を取っていた泥は情報を食らっていた。炎霊を纏った岩の体によってその体を蒸発させながらも必死に吸収しようとしていた。


『最期の底力というやつか。消えろ』


 さらに魔力を消費し体温を上げる。足元も溶けていくほどに熱を持つとその泥たちは消えていった。





 愚かだと思った。なぜ統合を拒んだのか彼には理解できなかった。おそらく奴だけが異常なのだろう。もし他の兄弟すらそんな考えを持つのならこの使命は彼のみで果たさなければならない。

 この星は滅ぼすにはもったいない。そう彼を送り込んだものは言った。そして選択したのは情報としての保存だ。所詮消えゆく者たち。なればこそ彼の使命より優先することなどないのだ。




『知ったことかよ。止まれよ糞岩』


 彼の脳内にそんな声が響いたかと思うと体内の熱が消え去り彼はただの岩となった。


『馬鹿な。何をしたのだ』


『馬鹿かよてめえ。この俺がここの支配者殺すのに10年も掛けるかよ』


 ヴォルクウラの長の死体だったものがゆっくりと起き上がる。同時に霧のようなものがその体にまとわりついた。

 しばらくするとそこには優にその巨人の倍はある黒龍が鎮座していた。


『分離した分は死んじまったか。よお岩男、驚いたぜこんな災害を起こすとは。ふははははは!! いやあ実にファンタジーだな、んなもんがあるなんてよ!! だがありがとうよこれで会話に困らん!!』


 かなりの魔力を消費するがこの肉体は分裂し同時に行動することが可能だとナクニは数年前に気付いていた。近くを歩くこの巨人のこともだ。最初からまともに戦う気はなかったのだ。

 しかし、この巨人の能力を知り奪うことにした。うまくいけば良いという考え程度でやったが成功してご機嫌だ。ハーセトなんてものは簡単に理解できた。ようするにイメージだ。

 この世界でも原子があるのかは知らないが温度は原子の動きによって変わる。彼が思い浮かべたのは隙間のないほど集まり停止した原子、それだけだ。それだけでこの炎人は止まった。こちらもかなりの魔力を消費したようだが、相手はさらに消費していたのだ。


『感謝するぜ岩の先生さんよ。一気に出来ることが増えたぜ』


『一体なんだお前は。なぜそんなに優秀なのに……』


 巨龍の尻尾が振り下ろされその岩は砕け散った。泥を口から放ち吸収する。

 余計な知識や目的はいらない。いるのはその能力と情報だけだ。


 輝きとともに防風が噴火と共に吹き荒れ、その光のあとには溶岩をその黒き鎧に纏った龍が咆哮とともに現れた。





 この咆哮は西部に住む人々の耳にまで聞こえ、炎神の怒りの声だと思えた。いくつもの村や集落がその炎に飲まれ灰と化す。この日ラシューニューは再び恐怖に震え上がったのだった。









 問題が起こった。消費するエネルギー量が多すぎて肉体を動かせない。糞が。しょうがねえから地底に潜り熱エネルギーを吸収するよう設定してみるが、これだけじゃ足りない。

 苦肉の策だが本体を眠らせ、分離する。15mくらいのチビになっちまったがしゃあねえ。だが悪くはねえと思った。本体を通してエネルギーをこちらへ回すことでこっちは食事いらずだ。

 もうここら辺は植物すらない地獄だからな。近づく者はいまい。あの糞正義長髪野郎にバレなければの話だが。それ以外のやつもこのことを知れば何かの交渉材料にしてくるに違いねえ。


 カガラドだっけか? から飛び去る。

 効率の良いエネルギーを探す必要がある。この魔法だけではなく他の技術を探ってみるのも手か。人間として奴らが生まれているとしてそろそろ動き始める時期だ。生まれた時から動けたアドバンテージがあるとは言えあいつらのことだ、その差もすぐに埋めてくるだろう。

 陽御壱はなんとしても潰さくてはならん。この世界で軍隊を得られれもすればあっちでさらに動きにくくなる。ただでさえあいつの手によって地球の配下が豚箱にぶち込まれてんだ。これ以上好き勝手されてたまるか。


 イラついてると下の方に鎧をつけたサイのような奴が見える。八つ当たりをかました。



 クソうぜえ。殺しても殺してもグレイゾンは湧いてきやがった。仲間の死体から放たれる匂いを嗅ぎつけ復讐相手である俺に向かってくる。尻尾でなぎ払うがまた来る。空を飛ぶと奴らは離れていくが常に俺をマークし地面に降りると全速力で突進してきやがる。

 ぶっちゃけ嫌いじゃないがいい加減飽きてきた。よし全滅させるか。火山弾を空から叩きつける。数千と群れを成していたやつらは勇敢なものが死ぬと一斉に退散を始めた。

 逃がすかよ。


 かなり東の方まで来た。残りは数百。あいつらの運動の邪魔にならない構造の鎧くらいは真似した。俺のいたところとはまた違う森が見えてくる。火で追い詰めてみるか?

 匂いを感じて追っている一頭が急に動きを止めた。動こうとしない。……死んだのか? こういう勘は大事にするもんだ。


 地面を掘る。距離は掴んでいる。下から襲撃してやろう。


 飛び出すとそこには逆さに弓を構える人間のガキがいやがった。


 いたか人間!! ついに会えたぞ!! 布で顔を覆いマントを羽織るそいつは矢を放った。当たるかよバカが……曲がりやがった!?

 左翼に掠るだけで済んだかと思ったらその矢が突然爆発しやがった。なんだ!? 火薬でも仕込んでやがったのか?! ……いやハーセトか。チッ! 逞しいようだなここの人間はよ。

 俺の声でそいつは右耳をヤったらしいが3本の矢を足元向けて撃ってきた。飛べなくなったところを、か。厄介だなこいつ。うまくかわしたつもりだが俺の掘ってきた穴によってバランスを崩してしまう。


 やりやがったな糞が。


 ぶっ殺してやるよガキだろうが容赦しねえ。逃げようとするガキ向けて炎弾を放ち続ける。当たらねえ。それになんつースピードだよ車よりはええんじゃねえか。

 ……しかもこいつ誘導してやがるな? うぜえ。M組の奴らを思い出す。三国志Mとかいう授業の時もそうだ。敵兵を数千殺しまくっても誘導されて城を落とされる。真正面から俺と切り結べるのが陽御壱と香崎しかいないとわかってる他のやつらは撤退を繰り返しやがる。なんか髭をつけて松扇持って今です! とか言ってる頭おかしい女もいたか。仕留め切れるときはできるが負けることも多い。

 だがいいだろう。乗ってやるよクソガキ。てめえの仲間を全部ぶっ殺してやる。


 ここだな。おそらく隠れているであろう場所に炎弾を撃ち込む。出てきやがったなうじゃうじゃと。あとはどこだ? そこか。よし、取り敢えず不意打ちは防げた。

 ガキが何か喋ってたな、クソッ言語がわからん。さっさと死ね!! またあいつはうまく躱して吹っ飛ぶだけですんだようだ。追撃を仕掛けようとすると他のやつらの矢が飛んできた。

 まずい! あれを何発も食らえばきつい。そう思い躱そうとしたが数本が直撃する。だが直ぐに燃え尽きてボロボロになっていった。

 なんだよあのガキほどじゃねえのか? そう思っていると何本か刺さった。チッ!! 手練はまだいるようだなオイ!! うまく反応できていない雑魚を狙う。よしあれは死んだな。

 すぐさま体の一部を分離し、その死体へ向かわせる。すると捩れるように回転した矢が刺さり、肉まで届いてきやがった。痛すぎる。さっきから指示してる男だ。

 情報を持った分離体が帰ってくる。セリノン? ラシューニュー? なるほど。



「おい!! バカ息子を叩き起こせ!! さっさと起きろリョウ!!」


 さっきの男がそう言った。……なんだと?


 またあの矢が飛んできて避ける。マジでなんだよあの威力ミサイルかよ。いやそうだな。


 そうなんだろ? 涼?



 今度は顔が見えてやがる。ああ、一度お前んちで見た昔の写真そっくりだわ。なんで白髪なのかはしらんが。ストレスか? そりゃあねえか。ナチュラルに人助けする奴だしな。



 そう思っているとやつらの情報を元に進化が始まる。危険を察知したのか族長の一声と共に一斉に逃げるやつら。涼以外。



『……涼か』

「うん。……三谷君?」

 念話技術は無いはずだが驚かんか。さすがだなおい。


『今俺は力を蓄えている最中なんでな。休戦と行こうぜ』

 あの矢はやめろ。正直無警戒だった。ここの人間を舐めてたぜ。次は何が出てきやがる戦車か? 爆撃機か?


「村襲わなきゃいいよ」

 しゃあねえな。怪獣大行進したかったが。


『やっと人見つけたと思ったらこれだもんよ。城破壊してお姫様をさらってみてえよ早く』

「それじゃあ勇者に倒されるんじゃない?」

『チッ!! まあいい。これから進化するからよ。近くにいたら消し飛ぶぜ』

「何言ってるの?」

『うるせえ!! この体に聞きやがれ!!』



 ここの民族の情報を得た個体へと進化する。涼を吹っ飛ばしたが生きてるだろ。

 それよりも奴らと戦ってる最中に面白いもん見つけたからそっちを優先するか。














 最初の黒龍の咆哮でファラは既に戦意を喪失していた。弓を構えることもできぬ有様だ。今年も散々だ。やっと成人になれたのに、やっと命を落としに行くような馬鹿なことせずに済むと思ったのにあの声の主が全てを奪う、そんな気がした。

 震えていると隣にいた仲間が吹き飛ばされた。即死だ。もう頭が真っ白になった。そのすぐあとファラは駆け出した。あの死の咆哮の聞こえぬ方へ。


 もう何も考えられなかった。顔は涙と鼻水と涎でぐちゃぐちゃだ。木の根に躓き転んでしまう。


 想い人がいる。親友がいる。愛する幼馴染達だ。今日成人になれば彼らに並ぶことができるのに。膝を抱えうずくまる。足を怪我してしまったようだ。走るのは無理だ。

 森の精霊の力を借りて自己治癒能力を高める。自身の魔力が平均より少ない彼女だが精霊の力を借りることは得意であった。霊覚には自信がある。村で医者として生きていくことを考えていたのにあの村の掟がそれを許さなかったのだ。まず成人しなければならない。くそくらえだ。


 後ろで何かが光った。強風がこちらまでやってきた。何が起こったのか。


 固まっていると何かの音が聞こえてきた。とても大きなものが羽ばたく音だ。彼女に影がかかる。





 ――おかしい。さっきまであれから逃げてきたはずなのに。



 上を見上げると恐怖が降りてきた。


「いやあああああああああああああああっ!!!!!」


 足がもつれる。体が言う事を聞かない。黒龍の尻尾で行く手を遮られる。腹から倒れ後ろを振り向く。

 その龍の表情は変わらないが笑っている気がした。


「ひいっ!? いやよ……助けて、ギャレル、フォレン……いやっ!? あああああああああああっ!」

 黒龍の前脚が彼女に向かって来て地面に突き刺さった。しかし、その親指と人差し指の間に彼女の体がある。なんなのだろうか。なぜ殺さない?


『そうだ。これだよこれ。最高だぜえ』


 恐ろしい声が彼女の脳内に響いた。なぜこの化物が自分たちと同じ言葉を喋っている? それともそう聞こえているだけ?


「たたたたたたっ! 助けて……お願いします!!! 助けて!! お願いします!!!」


『助ける? 何をだぁ?』


 会話ができることに少し安心したと同時に彼女の腹に圧力がかかる。化け物の尾が彼女に巻き付き、その小さな体を持ち上げる。その鱗は彼女の皮膚を焼き、あまりの苦しさに胃液が逆流した。呼吸が止まる。


「あがっ!? あぎゃっ!!! くふっ……」


『俺に命令する気か女ぁ? 絞め殺すぞ。真っ先に逃げ出した腰抜けがよお』


 見ていたのだこの悪魔は。村の者たちも全て殺したのだろうか。そして誰も逃がす気はないのだろう。乾いた笑いがこみ上げてきた。ここで自分は死ぬのだ。


『うわ、きたねえな!? うげっ!!』

 化物が締め付けるのをやめる。ファラの股からは排泄物が流れている。


「かはっ!? ケホッ!! ゲホッ!!」

 その汚いモノの上に落下する。口からも吐き出してしまう。なんてみっともないのだろう。早く殺してくれと思った。


『ふははははは! 怖いか? 女、名前はなんだよ? 運がよければ俺は見逃すかもしれんぞ?』


「……何言ってんのよ。もう好きに……す、すればいいじゃない」

 ファラの体が吹き飛ぶ。黒龍からすれば爪で弾いただけだ。


「がふっ!! いづっ!? あ、ああああああぁぁぁ……」

 背中を打ち付け、左手を折った。他も折れているかもしれない。


『おう! 好きにしてやるよ! 待っとけな!』

 その声は恐ろしい程楽しそうだ。


「いやああああ!! 待っで!! 嘘でず!! ファラでず!!! ワワワワタシ、ファラっで言いまず! 」

 必死に名乗る。自暴自棄すらこの化物は許さない。


『おうそうか! 元気だなお前!』

 ゆっくりと恐ろしい顔を近づけてくる。そして黒龍はこう語った。


『お前の仲間は全て殺した。これから村に向かい全て殺すつもりだ』

 冷たかった。寒かった。体が震える。息も荒くなり呼吸がまともにできない。


『ギャレルとフォレンだったか。そいつらも死ぬ。全てだ』


「あ、あ、あっ……」

 声が出ない。


『だが……俺は今気分がいい』

 何を言いたいのかわからない。この黒龍はずっと黙ったままだ。


『ちゃんと返事をしろよ。まるで独り言じゃねえか。悲しいなぁ。気分が悪くなってきそうだぜ』

 尻尾が巻きついてきた。そしてまた彼女を焼く。


「ぎゃあああああっ!! ごめんなさいごめんなさい!!」


『どうして気分がいいのか聞け』


「どっ!! どうして気分がいいんですか!?」

 熱が引いていく。常に燃えているわけではないようだ。


『俺はお前が気に入ったんだ。お前を殺す気はない。お前が俺とともに来るなら他の仲間は助けてやる』

 

 今この化物はなんと言った? 気に入っただと? ファラは固まった。そしてまた体が悲鳴を上げる。


「ぎゃうううっ!!! 待ってッ!! 待ってください!! 考える……じかっんをッ!!」


 そんなもの黒龍は与えない。肉の焼ける匂いが当たりを包む。


「わかっ……りまし……た。仲間を、親友……を助けてくだ……さ、あぎゃあっ!!」

 ファラは気絶しようとしたが、また意識を戻される。

 黒龍が何かを唱える。するとファラの傷は塞がり、ボロボロの服も治った。しかし怪我をした足は治っていなかった。


「……えっ?」


『よし。これでお前は俺のものだ。よろしくな? ファラ?』

 黒龍が唸り、火が少し放たれる。ファラを巻いていたものは離れ、地面に落とされる。


「なんで……。私をどうする気なんですか?」


『お前は俺の奴隷だ。俺の言うことはなんでも聞け。イイな? 自分で言ったことだ約束は破るんじゃねえぞ?』


「……は……い」


『返事がなってねえなあ』


「ひゃいっ!!!」

 

 ファラは絶望した。それしかなかった。自分はこの怪物のおもちゃとなったのだ。一生の。









『まあまあそう落ち込むんじゃねえよ。どうせこのままでもお前はろくな人生じゃなかったんだ』


 夜、怪物にくわえられ激痛を感じながら運ばれた先の川原でファラはそう原因の怪物に言われた。噛まれた傷は塞がれたが、その痛みと恐怖は忘れられない。


『おいご主人様の言葉を無視するなよ。ファラ』

 殺気を放たれる。


「もっ申し訳ございません!! ……あの、どういうことでしょうか?」


『わからんか? どうせおめえは死んでたって言ってんだよ。何もできずにな』


 そんなことは分かっている。だから成人してあとは村で狩り以外を担当して暮らそうとしていたのだ。


『ん? なにか生意気な態度だな? くはははははっ!! 案外気が強いな!! いいぞ! ますます気に入ったぜ。おら何か言ってみろよ。ムカついても殺さないように痛めつけて治してやるからよ。あと畏まった言葉は使わなくてもいいぜ。差別になっちまうからな。基本的人権は尊重されるべきである』


 どの口が言うのか。とても恐ろしい怪物ではある。というよりもこれは無邪気だ。まるで罪悪感がない。その見た目ではあるが中身が子供のようだ。


「……確かに私は狩りが下手です……下手だけど、だからこそ今日の成人の儀すら乗り越えればもう狩りをしなくてもすむはずだったのよ」


 途中、また敬語になりかけたところを睨まれつつそうファラは答えてみせた。


『お前の恋は実らんぞ?』


「なっ!? 何を言うの!?」


『驚くことかよめんどくせえ処女だな。一人の男のことをグチグチと……。おめえの親友……なんだっけ? まあいいや。そいつとその男寝てるぞ? 何で知らん』


 何を言ってるのだ。ギャレルは自分を好きだと言っていたし、フォレンだって応援してくれていたのだ。今日の成人の儀だって頑張れって朝見送ってくれたのだ。


「なんで? それよりも何故あ、あなたがそれを知ってるのよ!?」


『おう記憶を奪ったからな。死体から』


「……そんな……ことが……?」


 彼女のとなりで死んだものは確かにギャレルとよく話していた。いやでも理解できない。してはいけない。この人外の言うことに踊らされてはいけない。


『お前が成人するとは思っていない。諦めるのを待つだけだと言ってたなその男。お前の父親の手前付き合ってるふりをしてたけど本命はお前よりも美しくて可憐な親友だとよ。

 ああ、その親友とも話したことあってな? 成人の儀でお前が死ねばいいとよ! くはははははっ!! ひっでえ女だなああいつ!!』


「えっ? えっ? え……?」


 頭がもうついていかなかった。混乱していた。さっきまでは痛かった。でも今はもっと痛い。


『あー。思い出してみるとお前ひどい言われようだな。狩りできないばっかりにボロカス言われてんぞ』


「やめてよっ!!!!!!!!!!」


 ゆっくりと黒いモノが近づいてくる。それは蛇だ。


『なあファラ? 言ってご覧。お前の居場所はあの村のどこにあった? 枕を濡らしたベッドの上か? 必死に練習していた自分で作った的場か? 精霊たちと遊んだあの湖か? 

 あれ? おかしいな? どこにもお前以外のやつの姿が見えないぞ?』


「あああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 ファラは泣いた。分かっていた。分かってはいたのだ。あの村は自分を殺す・・のだと。


『黙れよ奴隷』

 また尻尾を巻きつけられる。しかし今度は痛いものではない。優しい。


『ここにあるぞ? お前の居場所が。お前は選んで来たのだこの場所に。俺のもとに。人間の場所は嫌だろう? ここにいるぞお前を求める者が』


 ファラ。優しくそう呼ぶ声が頭の中に響く。自分を見てくれる存在。

 彼女は肉体的にも精神的にも支配された。微笑むことのないこの硬い表情を持つ外のモノに。


「……はい」


 彼女は気絶した。そしてまた治療された。泥のように眠る彼女をナクニは今度は起こすことはなかった。

















 人は生まれながらにして悪であるとする説。生まれながらにして善とする説。これらは半分正解で半分不正解だ。ここで勘違いしてはいけねえのが明確な善、悪は存在するということだ。いつの時代も。

 人それぞれの価値観で善と悪の基準はもちろん変わる。でもやっちゃいけねえことはある。それは何かって? んなもんわかんだろ。

 善と悪は表裏一体。あの炎人の言ったこともそうだ。


 この世界の生命体を救おうとしている。


 この世界の生命体を滅ぼそうとしている。


 この二つの考えを内包している。善であり、悪である。俺はこの二つの解釈に幼い頃から納得していなかった。だが、どうしようもなかった。


 そして俺は選んだんだ。


 どっちかって? んなもんさっきまでの行動を見てたらわかんだろ?



 



 俺はただ村へ帰っても不幸な目に遭うであろうかわいそうな女性を助けてあげたんだぜ?



 そういうことさ。そういうことだ。









 

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