表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

日本でもっとも異世界へと人を転生させた男の話

 「ここは……どこだ……」


 目を覚ました俺だが、状況がうまく飲み込めない。

 頭がクラクラしている。

 どうしたというのだろうか。

 記憶があやふやで、意識がはっきりとしていないようだと言うことだけがおぼろげに分かった。

 手を頭へと当てて、何度か左右に振る。

 そうして、もう一度よく周囲の状況を確認してみることにした。


 「知らない天井だ」


 使い古された感のある言葉だが、まさにその言葉通りだった。

 見たこともない場所で俺はベッドの上に横になっていたのだ。

 まっすぐに見つめる目には、汚れのない白い天井がある。

 慌てて天井以外へと目を覚ますと、壁がある。

 だが、その壁も真っ白であり、現実感がない。


 「俺は……一体……どうしたんってんだ」


 そうつぶやいたとき、ふいに人の気配がした。

 誰だと思うとそこには女がいた。

 若い女だ。

 そこには見たこともないほどの美貌とスタイルの持ち主の女性がいた。

 あまりの美しさに目がくらむような感じさえする。

 そこで、ようやく俺はこの状況に心当たりがあったことに気がついた。


 転生だ。

 人は死んだときにこことは別の、異なる世界へと転生することができる。

 このまるで現実感のない場所と女性はさしずめ、転生前に出会うことができる女神であろう。


 「気がついたようですね。今の状況はわかりますか?」


 俺が考え込んでいると、女性が声をかけてきた。

 まるで鈴を鳴らしたようなきれいな音だ。

 その音が俺の脳に染み渡る感じだけでも幸せな気分となってくる。

 この声は麻薬と言い換えても間違いとは言い切れまい。


 「ああ。なんとなくだが。俺は死んだのか? これからどうなるんだ。異世界に転生でもするのか?」


 「いいえ。あなたはまだ亡くなってなどいませんよ」


 なんだ、死んだというわけではないのか。

 ということは、まだ体はかろうじて無事で臨死体験でもしているということになるのだろうか。


 「あなたにお聞きしたいことがあります。『1563』というのが何の数字かわかりますか」


 「1563? ……ああ、わかるよ。よくわかっているとも」


 「そうですか。それではそれがどのような意味を持つのか言うことができますか」


 「ああ、それは俺が異世界へと送り出した人の数だ。間違いない」


 この能力に気がついたのはいつだったか。

 それははっきりとは覚えていない。

 だが、いつしか俺は「人を異世界へと送る能力」を手に入れていた。

 最初は当然戸惑った。

 だが、この能力をなぜ自分が持つに至ったのかを考えに考え抜いて、一つの結論にたどり着いたのだ。


 異世界は転生者を必要としている。


 そのことに気がついた俺は、それ以後積極的に人々を送り出すことにしたのだ。

 もっとも老人をいきなり知らない世界に送り出しても何もできはしないだろう。

 俺はなるべく環境の変化に適応性のある人物を見繕って、送り出すようにしていた。


 「いいえ、違います」


 「……違う? 何を言っているんだ?」


 「1563。これはあなたがトラックで轢いた人の数です。あなたが殺した人の数なのです」


 ……はあ?

 何を言っているんだこの女は。


 「あなたは逮捕されましたが、この病院へと入院することになりました。これから精神鑑定を始めさせていただきます」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公よりも、主人公が1563人も轢き殺すまで捕まらなかったこの社会が怖い
[一言] すげー!なにが凄いのかっていうと、設定が凄い! あと長い文章をたらたら書き連ねる訳ではなく、簡潔に主人公のキチガイさをだせる文才もsugeeeee!!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ