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小品集

誕生日の夜

作者: 魚住すくも

 ケイタイの着メロで目が覚めた。見ると、メールだ。

『誕生日おめでとう。父より』

 私はそれを見てあっかんべぇをした。

(何さ、しらじらしい)

 父さんと母さんは一年前に離婚した。父さんの浮気が原因だった。今は、母さんと二人でアパートを借りて暮らしている。

 時計を見る。

「やっべぇ、遅刻だ……」私は、つぶやくと急いでリビングに行った。

 母さんは、もう仕事にいったようだ。キッチン兼用のリビングは、死んだようにしずまりかえっていた。きっと今日も帰りは遅いにちがいない。私の誕生日のこと、覚えているだろうか。

 私は、仕度をすませると、高校に向かった。


 西日が文庫本にさっとさしこんできた。

「あや、何してんの?」

 いきなりの声にびっくりしていると、後ろに由利が立っていた。

「うわ、びっくりした。何って、本、読んでるの」

「ふぅん。一緒に帰ろ」

 由利は、幼なじみというやつで、家も近い。高校も、何となく一緒になったので、けっこう一緒に帰ることが多い。

「私さぁ、今日、誕生日なんだぁ」わざと、ブリッ子っぽく言ってみる。

「だから、何かちょうだいっ」由利の前に右手を出す。

「あのな。何で私が、あんたにプレゼントしなくちゃいけないのよ」ため息をついて、

べしっと私の手をたたいた。

「何よ、いけずぅ」

 そう言って、私は由利の後を追っていった。

「あ、待って、コンビニ寄っていい?」私はそう言って店内に入っていった。インスタント食品のたなに直行する。

 私は、流行ってるカップめんを手にとった。

「ちょっと、何よそれ」

「夕食。母さん今日、遅いから」私が言う。

「ふぅん。大変だねぇ」と、軽く言う由利。

 私たちは、それを買うと、コンビニをあとにした。

 二人は、しばらく無言であるいていた。

「じゃあね」

 白いこじんまりとしたアパートの前で、私は言った。

 もう、空は、暗くなりはじめていた。階段をのぼる。

 家に入ると、さっそく着がえて、夕食の準備にとりかかった。

 白っぽい電灯の中、私のヌードルをすする音だけがこだました。

 食べ終わると、何もすることがなくなって、私はラジオを聞いていた。

 一時間が過ぎ、二時間が過ぎた。私の時計の時計は、もう八時を過ぎていた。

 いくら何でも遅すぎる。私は、ラジオのスイッチを切って自室を出た。もう、母さんも帰ってきていいはずなのに。

 不安が胸からあふれだす寸前、チャイムが鳴った。

「やっほ――」

 私は玄関で立ちつくした。由利だ。後ろの方には、母さんがいた。

「シチューあまったから……」と、由利は言った。そして、母さんにめくばせをした。

「んで、会社帰りに由利ちゃんと会ったからケーキを買いに行ってた」

 そう言って二人は、シチューの入ったタッパーと、白くて大きなケーキの箱をさしだした。


おわり

 大学の時にとある公募に出そうとして、結局出さなかった作品です。ダメ元でも、出しときゃよかったとあとから思ってみたり。


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― 新着の感想 ―
[一言] おわりのさりげなさがいいです。 その前の物語の進みが、日常的なのですが、 変に、主人公だから特別ですっていう不自然さがなく、 自然に感情移入していました。そうそう。って、かんじです。 なん…
2009/09/10 10:45 しろうとです
[一言] 暖かい話なのに、文章が淡々としているので、雰囲気が出ていないように感じました。一つ一つの文を、もっと膨らませて、表現を豊かにした方が、この作品には、合うと思います。
[一言] 全体的に若々しい感受性が浮き出て見える。うーん、最後に父親との関係をそれとなく絡めれば不安定な母子の生活だが未来へのメッセージが得られたかもしれない、 話し言葉の「母さん」は母又は母親、或い…
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