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大地の精霊王の数多いる娘の一人が人の子の声に応えたという事は、各国に衝撃を与えた。
大地の精霊王はこの世にある全てのものの母であり、慈悲深い方であるとされ今までも極稀ではあるが遣いを寄越した事は数度あったが、それでも契約に至るまでの事は今まで一度たりともなかった。
それ故に、彼女は据え膳上げ膳の如く扱いを受け祀りあげられた。
枯れた大地や井戸を蘇らせるため各地へ赴く彼女は民達の救いそのもの。
救済地が増えるにつれ噂が噂を呼び、彼女の来訪を待ちかねた民達がこぞって王都へと押しかけ嘆願書を持ち寄る事も仕方がなかったと言えよう。
彼女も彼女で押し寄せる民達に手を焼く役人達に顰め面を向けられても、一つ一つ彼らの窮地に手を差し伸べるものだから、民達も涙を浮かべて彼女を崇めた。
そんな彼女の契約主となった少女は、公爵の愛妾の娘であった。
特筆することもない、古くからその土地に代々住んできたというだけの一族。公爵とは名ばかりで、ただただ昔の栄華に縋ってふんぞり返っているようなものだ。
純粋なる貴族の血を持たぬ娘が偉大なる大地聖母と縁のあるものと契約したという事実を快く思わなかったものも少なくはなかった。
しかしその娘は大地の聖母との関わりをひけらかしたり、傲る事をしない、謙虚で民を思う姿勢を見せていたためそんな心ない物言いをする輩から守り、娘を庇う勢力も生まれる事ができた。
その永遠と続くと思われた大地の精霊との関係に亀裂が生じたのは、果たしていつの頃だっただろうか。
娘は、大地の精霊の恩恵によりその身に人の身に余る多大なる力を得た。その力は幸をもたらすものであったが、同時に娘の心をも歪めるものだった。
民を思い、親兄弟を思い、国を思い、そして動植物などを労り分け隔てなく接し多くに慕われていた娘。
それが契約した精霊の力の大きさ美しさを妬むようになり、地位や名声を望み、自分が至上の人とされ甘やかされ何者からも愛される事を願った。願ってしまった。
娘は変わってしまった。
そして遂に決してやってはならない事に手を出した。
精霊が顕現するに男、女などの外見の差はあれど自然そのものたるその化身に性別などない。子は交わりを持ってでなく、自身の分け身として生むのだ。
故に娘は彼女を"女"として見てはいけなかった。
女として陥れてはならなかったのだ。




