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夜会当日、自らの婚約者の心が奪われるのをわざわざ見に行かないといけないなんて……
本当は行きたくない。でも、行っても行かなくてもアンブローズとルーファス様は出会ってしまう
だったらこの目でその瞬間を見てやりましょう。大好きな彼が恋に落ちる瞬間を。
最近こうやって外を眺めてばかりね……。
「お嬢様、準備はよろしいですか」
侍女の声に振り向くと、そこには黒の燕尾服に身を包み、微笑むルーファス様がいた。
彼はいつも通り美しくて、胸の中に愛しさがこみあげてくる
彼の笑顔は私だけのものだったのに
その笑顔を彼女にも向けるのね。
「準備は整っております。お待たせして申し訳ありません」
そう答え、微笑みながらルーファス様が差し出す手に自らの手を重ねる。
今日のドレスは今までのようにリボンがたくさん使われたごてごてしいデザインはやめてシンプルな青いマーメイドラインのドレスにした。
色だけでもあなたに近づきたくて
あなたの瞳の色に近づけたのよ。
期待はしていなかったが、ルーファスからなにも言ってもらえなかったことに少しだけ心が痛む。
迎えの馬車に乗り込み、夜会に向かった。
会場につき、王族の皆様に挨拶を済ませるとルーファス様は王太子に呼ばれ離れて行ってしまった。
親しくしている令嬢方と話していると王様に挨拶をしているロワイアル男爵の姿が見えた。
彼の隣にいる美少女がアンブローズだ。
「あら、あの方はどなたかしら。」
「はら、アンブローズ男爵の隠し子だとかなんとか言われていた……」
「あぁ、そんな噂もありましたわね。なんでも本日が社交界デビューの日であるとか」
友人たちが口々に話す中、アンブローズをぼーっと眺める。
実物のアンブローズは映像で見るよりもはるかに美しかった。
これではルーファス様が心惹かれるのもわかる気がする
男爵に連れられて王太子のほうへ向かう姿を眺める。
やはり想像以上につらい。
幼いころから恋い慕う婚約者の心を奪う彼女が憎い。
でも……
突然出てきた少女に心を奪われてしまうあなたも憎い。
「もう、いらない……」
「エミリア!?」
友人たちの制止を振り切りぽつりと呟くとそこから立ち去る。
視界の端に移ったのは
大好きな婚約者がとても珍しくアンブローズに微笑みを向けている姿だった。
次はルーファスの視点を入れる予定です