とげとげの心
その日は最悪だった。気分が。思考が。
留学から帰ってきた女友達のおかえり会。半分が向こうでの暮らしぶりの自慢だった。
「でね~、ロスでできた彼がぁ~」
永遠と続くかと思うほどの彼女のお土産話。この場合は留学話?どちらにせよ、もういい。わたしはアメリカンドリームないのよ。大学に入ったら英語なんて必修じゃなかったんだから忘れてしまったわ。だからアメリカの自慢されたってわかりようがないのよ。パツキンで青いおめめは美しいと思うけど、恋人にしたいなんて一度も考えたことがない。そんなわたしに何言っても何も理解できないの。だいたい二か月ぽっちの留学でなによ。短期間で青い目の彼をゲットするなんてさすが…アメリカンドリームね。行く前は彼氏と今生の別れみたいなコントを空港で繰り広げていたというのに。
「知美、日本に彼氏いなかったっけ~?ほら松なんとかくん…」
おお、なんと勇者。それを聞いてしまうのね。ちなみに松原くん。
「松原よ。だって青い目の彼とはもう会うこともそうそうないじゃない?それになんていうの?アバンチュール?アバンチュールよぉ~。ちょっと美奈、ぜーったいフミくんい言っちゃだめよ!わたし今後も彼とは当分付き合うんだからぁ~。ちょっと美奈~酔っぱらってるけど聞いてる~?」
へいへい聞いていますよ。百も承知。
「ともちゃん~わかったよ~あ~~なんだっけ~?」
口角の筋肉を上げてみた。今日は顔の筋肉ずいぶん鍛えられたわ。
「美奈ちん酔っぱらいすぎ!カシオレ一杯でどんだけよ?」
「もう~美奈~!そんなに酔っぱらってひとりで家帰れるの~?」
「たしかこの子一人暮らしよ?だいじょうぶ?一緒にかえってあげようか?それなら泊まらせてもらうしぃ」
冗談じゃない。全く一人で帰れます。帰らせてください、一人で。
「なにそれー!れいちゃんおうち来てくれると神じゃーん。でもレポートの期限せまってるの。だから徹夜なの。いまから…はぁー」
神ではない。断じて神では。だけどうまく付き合っていくにはこのノリが必要なの。ニード。英語でも言えるわ。
「まあもういい時間だしここら辺でお開きにするー?」
「そうだね、はーいじゃあ今日のお会計はおかえりしたともちん除いて、3900円でーす!」
「ちょーっと礼子ったらともの前で開けっ広げすぎぃ!」
「きゃはは!はーいお会計行ってきまーす!」