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クレイジー・マジシャンズ  作者: 鈴木那由多
◆3話 ファンタスティックえーじぇんと!
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ファンタスティックえーじぇんと! エピソード2

 結城愛理は憂鬱な気分で登校していた。

 今朝早くも“魔法使い特別対策委員”としての活動が始まる知らせがあったのだ。

 事は会長からかかってきた電話から始まる。

「ああ、愛理君。悪い知らせだ。実は昨日の夜、何者かが我が校に設置してある鉄の柵の鍵を開錠し、中にいた二人を逃がしてしまったようだ。君にはそのうち、透明化できる方の捕獲をやってもらいたい。詳細は学校で。ツーツーツー」

「あ、あの……」

 一方的に用件だけ述べるとすぐに電話を切ってしまうのが会長らしい。

「全く、ワタシにどうやって捕まえろってのよ」

 この電話の後、愛理は文句の言葉しか出てこなかった。

 実はこの“魔法使い特別対策委員”は愛理のほかに康太も任命されていたのだが、康太は今朝から電話が通じず、行方も分からない。

「肝心な時に限って、いないんだから……」

 そういうわけで愛理は一人で学校に登校していたのだった。朝早く。

 学校に着いてみると、案の定、鉄の柵の中はもぬけの殻となっており、会長の言ったことは確かに本当だった。

「てか、これに気付く会長はどんだけ暇なのかしら」

 早朝より早く学校に居て、この状況に気付いたことになる。というより学校に住んでいるんじゃないかと思うくらい学校に滞在している時間が長いんじゃないだろうか。

「遅かったな、待ちくたびれたぞ」

 とウワサをしていれば、会長の斉藤謙一がそこにいた。朝っぱらにも関わらず背筋はシャキっとしており、どことなく立派とさえ思える風格を漂わせている。

「会長が早いだけでは?」

「事は一刻を争うのだよ、愛理君。捕えたはずの犯人がろくに反省もせずに逃げ出してしまった以上、これ以降は何が起きてもおかしくない」

「何が起きても……」

 会長の言葉に愛理は固唾を飲んで聞く。

「そうだ、スカートめくり以上の事件だって起こるかもしれない」

「な……! そ、そんなことさせてたまるものですか!」

「では、やってくれるな?」

「はい!」

 二つ返事で了解する愛理。だが、やはりただ面倒事を押し付けられただけだったと気付くのにそう時間はかからなかった。




「やうやう白くなりゆく山ぎは、少し明りて――」

 1時限目の国語。国語教師、宇佐美光うさみひかりによる古文の授業が始まっていた。

 愛理は先ほど会長に押し付けられた案件についてまだ、納得のいっていない様子だった。

 しかも後に送られてきたメールによると、康太は別の案件に携わっているとかで参加できないとか。

 確かに、康太は今朝から学校に来ていないようだった。

「では、ここの訳を――前田くんお願いできるかしら?」

「は、はい!」

 宇佐美先生は前田くんなる生徒を指名し、古文の訳をさせる。

 ちなみに宇佐美先生は童顔で可愛らしい感じの先生で、学校の男子どもになかなかの人気を誇る。先ほど使命された前田くんが少し言葉が詰まった感じで返事をしたのは、寝ぼけていたからでもなく、くしゃみをしかけた訳でもなく、つまりはそういうことだった。

 でもまあ、そんな事情はお構いなしに、愛理はまだ今朝の話に納得がいってなかったのだった。

 大体、会長も会長でちょっとは手伝ってもくれていいだろうに、全てをまかせっきりというのが腹立たしい。

「う〜ん、ちがうわね〜。じゃあ……結城さんお願いできるかしら? 結城さん? 結城愛理さ〜ん?」

 ……分かってる。やりゃあいいんでしょ、やりゃあ。自ら立候補してなった生徒会だし与えられた仕事はしっかりとこなすべきだと思っている。が、納得がいかないのだ。それを受け入れるだけの器量と正当性を見出すことが――。


 パコーン!


 愛理は突如額に飛来したチョークの衝撃により、上体がのけぞってしまった。

 飛ばしたのは言うまでもなく宇佐美先生。びっくりするほどの正確さとスピードをもってして愛理を圧倒した。

「ナイスです!」

「お見事です!」

 と、これは主にクラスの男子が賛辞の言葉を並べている。

 ついでにさっき問題を間違っていた前田くんの額にもチョークが飛んできて、上体をのけぞらせていたという事実に気付いた者はいなかったようだ。

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