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クレイジー・マジシャンズ  作者: 鈴木那由多
◆7話 えらばれし者
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えらばれし者 エピソード2

 マイクのスイッチを切ったあと、泉希は深く息を吐いた。


「ふぅー」


 隣にいた宇佐美光は、そんな泉希を見て、

「会話の苦手な貴方にしては、なかなか喋った方じゃない? ……これだけ喋れるのなら、こんなことをする前に、私にも一言欲しかったなあ」


「事態は急を要していた。よもや隙に乗じて私の……!」


「あらあら、おぱんてぃーを見られた位で可愛いわね。今度私にも見せてくれるかしら?」


 光の返答を聞いて、自分の発言に間違いがあった事に、はたと気づく。


「……ま、間違った。そのことはともかく……!」


 泉希が言いたかったのは下着の話ではなかった。


「彼には四大魔法の覚醒者としての自覚が無さすぎる」


 そう、これが言いたかったのだ。


「それは仕方ないわよ。だって、この世界では魔法なんて存在は、夢のまた夢のような存在なんだもの。あの子が自分の力の凄さを理解するにはまだ時間がかかるわ」


「光のくせにまともな事を……」


「それより、こんな所に押し込めてどうするつもり? 私達の仲間にでも引き入れようってわけ?」


 こんな所とはつまり、ここは光や泉希がかつて魔法の体得者として戦闘スキルを磨くために通っていた、養成所の事であった。


 泉希は康太を催眠の魔法で眠らせた後、この施設へと連れてきたのだった。


「仲間に加えようとは考えていない。……ただ、彼が今後の困難に立ち向かえるようになるには、これくらいの荒療治は必要かと」


 一応荒療治だとは思っているのか、と光は思った。


 なにせ、ここの施設の訓練はハードだからだ。


「ふぅん……。まあ、私たちがフォローする負担が減ると思えば、これも良い手なのかもしれないわねぇ……。じゃあ、私はこれから各方々への処置をしてくるから、こっちは頼んだわよ」


「……わかった」


「あと一応、忠告しておくけど、彼をあまり甘く見すぎない事。そして、さっきみたいにすぐ思い切った行動は慎む事。泉希は時折、猪突猛進になる所があるから」


「む……」


 光は言い終えるとすぐに部屋を去って行ってしまった。猪突猛進と言ったが、彼女も彼女でそそっかしい所があるくせに、と少しだけ思ってしまった。


 昔からの友人の仲とはいえ、今は彼女がリーダーの立場なので、一応言っておきたいという気持ちも分からないでもない。


「私は常に、冷静だ……」


 さあ、特訓の時間といこう。






 康太はひたすら真っ直ぐな通路を歩いていた。


 どれくらい歩いたかも分からないくらい、果てしなく続く。


 ただただ続く直線に、神経だけが摩耗していく。


「どれだけ歩けばいいんだよ……」


 例えばこれが迷路だったらどれだけ良いだろうか。


 よく映画とか漫画でも主人公が迷宮に入り込むような描写があったりするが、道の途中に分岐点が合って、どっちが正解なんだ? みたいな事を言いながら進んでいく感じの方が、ただ何も考えずに歩くよりも何倍も楽しい。


 ゲームとかでも一本道のものがいかにつらいか、という事が身に染みてよく分かる。


 FF○3とか……。


「もうギブアップかしら?」


 さっきまでだんまりを決め込んでいた泉希の声が再び聞こえてくる。


「……おい! ここから出してくれるって話だったんじゃなかったのかよ」


「さっきは扉を開いただけで、誰も出すとは言ってないわ」


 泉希は淡々と事実のみを伝える。


「じゃあ、特別にヒントをあげるわ。見えているものだけが全てじゃないわ。ここは魔法の迷宮。出口は見えているものの他に……って何してるの!?」


 康太は歩くのを止めて、その場にぐだっと座り込んでいた。


「こうしていれば、ここから出してくれるんじゃないかなーと思って」


「貴方ねえ……」


 相手がスピーカー越しに呆れているのが分かった。


 別に呆れられようと構わない。……ここから出られるのならば。


「何かモチベーションが上がるような事があれば、おのずとやる気もでるんだけどねぇ」


「ふぅん? 例えば……?」


「ここを出たあかつきには、俺にもう一度パンツを見せてくれる、というのは?」


「ば、ば……バカ!」


 

 プツリ



 ここで通信は途切れてしまった。


 だが、これで大体状況を把握することができた。


 まずここに俺が閉じ込められたのは、泉希の何らかの意図によるものだという事。


 そして、この状況の中で俺に何か試しているという事。


 最後に重要な事は、七瀬泉希は――パンツに耐性がないという事。



「しめた……」


 さて、康太がしなくてはならない事は決まった。


 だがそれよりも先に、述べておかなければならない事がある。


 

 至高のパンツとは。



 読者のみなさんは、至高のパンツというものについて考えたことはあるだろうか。



 至高のパンツとは、そのパンツを目の当たりにしたときに心が踊り狂うような高ぶりを与えてくれる存在の事を言う。


 これは私の独断だが、まず前提条件として、パンツは女の子が穿いているものに限る。ということだ。


 男性が女性物の下着売り場で心が躍り狂っていたら、それはただの変質者だろう。


 男性が女性物の下着を盗んでコレクションしていたら、それはただのキモい泥棒だろう。


 つまり、パンツは女の子が穿いていなければならない。


 パンツの定義はそれとして、では至高とはなんだろう。


 それは、女の子のパンツを拝見したとき、これ以上ないくらいに恥じらいを持って拒絶してくる事だ。

 見せたくないのに、見えた! という状況がこの世界においては至高なのである。



 その至高のパンツを持っている可能性がある存在が、七瀬泉希だと康太は判断した。


 俄然やる気がみなぎってくる。



 最低? 変態? 知った事ではない。


 神が創造せし物が、そのように出来ていただけの事。


 俺の預かり知る所ではない。



「俺は! 今からお前の所へ行くぞ! スカートをめくりに!」


 おそらく、彼女はここからそう遠くない所から、常にこの俺を観察しているはず――。


 康太は精神を集中させた。


 

 ドクン、ドクン、ドクン。

 


 尋常ではない程の速さで心臓が脈打つ音を、感知した。


 間違いない。……効いている!



 ほほほーい!

 康太は駆けだした。

 至高のパンツが待っている。

 これがテンションが上がらずにいられるだろうか!



 ……そうしてようやく脱線した話は元に戻る。


 この直線の迷宮であるが、からくりはなんとなく想像がついていた。


「この辺だな」


 視角で見える通路の先とは別に、妙な風の流れを感じていた。


 泉希の言っていた、出口は見えているものの他に、という言葉とも合致する。


 一見そこはただの通路の壁だったが、手を当ててみると、ホログラムのように壁はするりと抜けて、壁の先に通路が続いていることが分かった。


「パンツが……待っている」


 おそらく彼女は、マイクのスイッチは切っているが、こちらの音声は聞いていることだろう。


「パンツが! 俺を! 待っている!」


 きっと今の俺は狂気に満ちた変態でしかないのだろうが、こんなつまらない場所に閉じ込めた彼女にも一端の責任はあるはず。


「うおおおおおおおお!」


 康太は尚も勢いを増していく……。

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