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クレイジー・マジシャンズ  作者: 鈴木那由多
◆5話 転校生はハンター!?
15/21

転校生はハンター!? エピソード3

「えー、ではホームルームを始める」

 おじいちゃん担任教師がゆったり口調で話す。

 それとは対照的に、生徒はただのホームルームだというのに目がかなりぎらついていた。

 それもそのはずで、朝の佐竹を筆頭に、このクラスに美少女が転校してくるという噂が瞬く間に広まっていたからだ。この手の噂の伝搬速度に関しては、我が校はかなりの上位校として名を馳せるかもしれないほどだ。

「では、入ってきなさい」

 クラスの中は、その噂の転校生の登場に合わせて、静寂な空間と化した。

 黙々と授業をするよりもそれは静かな瞬間だったかもしれない。

 皆の視線が扉に注目される中、その少女は姿を現した。

 すらりとした体型に、気持ちの良い程真っ直ぐ伸びた姿勢。髪は長めで後ろで束ねている。噂の通りのかなり整った顔つきだが、その眼光はどことなく鋭く、見るものを圧倒する力を秘めていた。

 少女は入ってくるなり、黒板に自らの名前を書いた。かなりの達筆で、綺麗な文字で書き連ねられていた。

「七瀬泉希です」

 と、少女が自分の名前を述べると、生徒から怒涛の質問ラッシュがスタートした。

「好きな食べ物は何ですか?」

「焼きそばです」

 泉希は即答した。それほど焼きそばが好きだということだろうか。

「彼氏はいるんですか?」

 という定番の質問。これに対し、

「いません」

 これまた即答。おお、という男子の歓喜の声が沸く。康太はというと、反射神経のテストしてるわけじゃないんだが、というようなどうでもいい感想を抱いていた。

「じゃ、好きな男子のタイプ教えてください」

 当然こうなるだろうとは思った。泉希はやはり考えるアクションをとらず、

「私より強くて頼りになる人が好きですね」

 と答えた。泉希は体格こそ普通の可愛い女の子にしか見えないが、康太にはそれ以外の強さのオーラのようなものを感じるのだった。こいつはただものではなさそうだ、と康太の中の直感がそう告げていた。

「……では、質問はこの辺でいいかな。じゃあさっそく七瀬の席だが……」

 と言って、担任は辺りを見渡す。空いてる席は無い物かと思案しているようだが、急の転校生に対応して机が用意されているはずも……いや、そういえば。

「窓際の一番後ろが空いているな。あそこにしなさい」

「あ、先生この席は……」

 と、康太は言いかけたが、

「わかりました」

 即答して泉希が、てくてくと机に来て荷物を降ろしてしまったので、何となく言いづらくなってしまった。そして、その数秒後には、

「まあいいか」

 と思うのだった。どうせ佐竹が持ってきた机だし。

「七瀬の隣はいないから福島、何か困ったことがあったらお前が協力してやれ」

「え、あ……はい!」

 急に指名されて慌てて返事をする康太。そうなのだ。佐竹が無理やり教室に置いた机なので、そりゃ隣の席などあるはずがない。となると、やはり一番七瀬に近いのは康太ということになる。


 

 ビリビリビリリ……



 そんな事を思っていると、電気が走るような感覚の集中砲火を受ける。

(貴様、おいしいポジションをとりやがって……!)

(まさかこのために、机をあらかじめ用意したというのか……)

 というテレパシーにも近い無言の圧力を感じる。

 別に何も狙っていないというのに、メンドクサイことになってしまったようだ。佐竹めぇ……。

 男子からの痺れる視線もさることながら、なぜか一番恐ろしい視線を向けていたのは愛理だった。……なぜだろう。

 ともかく康太は担任に、世話係を任された身として、一言挨拶しておくことにした。

「七瀬さんこれからよろしく、困った事があったら言ってね」

「ああ、よろしく」

 という無機質かつ、事務的な返答。よく思われないことでもしただろうか……?

 とまあ、こんな感じで転校生はやってきた。康太の後ろの席に。

 メンドクサイ事に巻き込まれなければいいが。 



 宇佐美光による国語の時間。

 康太はめずらしく授業をふつうに聞いていた。

 普段なら、寝てるような時間なのだが、これが今日は寝られない。

 男子からの圧力を常に感じていたからだ。

(…………)

 康太はこの日無言の圧力というものの怖さを知った。

 空気の中に漂う、目には見えないピリピリとした感覚。触れることすらできないがそれは確かに存在し、康太の眠りを妨げる。

 いい迷惑でしかないな、と康太は思った。

 しかし、それ以上に気になる事があった。後ろからも無言の圧力をかけられているような気がしたからだった。

 康太の後ろといえば、今日転校してきたあの子しかいないわけだが。

 ただもし、何か用があって、話しかけづらさを感じていて躊躇していたとするならば、こちらから歩み出ることが紳士というものだろう。と、勝手な結論に至ると康太の行動は早い。

 康太は後ろを振り返る。そこにはやはりというか、当たり前だが七瀬泉希がいて、何やら難しそうな顔をしてこちらを見ていた。やがて、康太の視線に気付くとハッと我に返る。普段は隙のないような表情をしているが、この時だけはどことなく自然な感じに見えた。

「もしかして何か用だった? 教科書がないとか?」

「いや特にそういうことは……」

 と泉希は否定した。机を見ると、確かに教科書もノートも筆記具もあり、なにか物が不足して困っていたということではなさそうだ。これ以上無駄に会話を続けることもないだろう。

「そっか、ごめん。俺の気のせいだったかな」

 と言うと、康太は再び黒板の方を向き授業の続きを聞いた。が、

(意味もなくイチャコラしてんじゃねえぞ、コラ)

(テメェの命が明日まであると思うな) 

 康太の些細な行動は逐一監視されており、テレパシーの内容も時間経過につれて悪化していた。これはどこかで自身の弁明をしなくてはならないかもしれない……。




 昼休みになると、康太は逃げ込むように生徒会室にやってきた。

「ふむ、君が昼休みという自由時間に、退屈極まりない生徒会室にやってくるとは珍しいこともあるものだ」

 と、すでに生徒会室に居た会長の斉藤謙一は、弁当を広げ中身をつまみながら、今日もまた岡野麻由美の穿いていた例のパンティーをしげしげと眺めていた。

「この光景、誰にも見せられないな……」

「はい……。どうにか止めるように善処はしてみたのですが」

 と書記の黒岩梓。あまり表情を変えない彼女だが、その様子からどことなくしょんぼりしているような気がした。

「会長も飽きないですね。そんなもの眺めていたところで何も分かりやしませんよ」

「知識とは、飽くなき探求の結果。ならばその探究心こそ学問の礎である。だから私はこのパンティーに秘めたる力の謎を解明するまで、いくらでも研究するつもりだ」

「はぁ……そりゃ立派なことで」

 天才の考える事はよく分からんとおもった。それより、今はお腹が空いていると思った。そういえば今日は弁当を持ってきていない。

「ここにいてもしょうがないし、購買行ってパンでも買ってこようかな」

「それでしたら、早く行かれた方がいいと思います」

 と、康太を促す梓。

「どゆこと?」

「今朝、福島さんのクラスに編入された、七瀬泉希さんが発言された焼きそばが好きという言葉を受けて、男子が購買の焼きそばパンを買い、献上品として差し出そうとして焼きそばパンの特需が起こっています。それに伴い、その他のパンもなぜかつられて凄まじい売れ行きで売れているようです」

「な、なんだって!?」

 さすが我が高校。美少女の為ならばなんでもするこの精神。さすがという他なんと表せばいいだろうか。

「パンの特需か。これが続くようであれば、購買と協議してパンの追加発注をしなければならないかもしれんな」

 等と会長は暢気な事を言っている。かと思えば、

「くそう、転校生め。平和な俺の昼休みでさえ狂わせれくれるとは。侮りがたし! ああ、昼飯どうしよ……」

 康太は困難そうな食糧の入手に、焦燥の表情を浮かべている。

「そんな事言っている間にパンなくなりますよ……?」

「あ、やべ……!」

 そこへ、生徒会室の扉を開けてやってくる一人の人物。

「いやね〜。なんだか知らないけど手荷物がいっぱい……」

 と言いながら、両手にどっさりパンを抱えて宮川秋穂が入ってきた。

「秋姉そのパンは……?」

「私も知らないわよ。よく分からないけどいろんな人からパンを渡されたのよ。不思議な事もあるものねぇ……。よかったら康ちゃんも食べる?」

 秋穂の両手にはさまざまな種類のパンが抱えられていた。一人では食べ切れそうには無い程に。

「は、はい……」

 パン特需の恐ろしさを感じつつ、康太はありがたくそのパンを頂くことにした。




「2年3組福島康太。風の魔法覚醒者……」

 時を同じくして昼休み、屋上にて七瀬泉希はもらった焼きそばパンを一口ぱくついた。

「どう、間近で見た感想は?」

「感想も何も……、あんな冴えない感じの少年が四大元素の風の魔法を操るなんて……信じられない」

「ふふ、見た目で判断しようとしたら物事の本質を捉えることはできないわよ? 見てくれだけだと、だれもあなたが高校生だと疑わないようにね?」

「それは……そうかもしれないけど」

「まあ、いずれ私達にもわかる時が来るのかもしれないわ。ともかく潜入はうまくいってるみたいだからこの調子で監視を頼むわね」

「光に言われるまでもないよ」

 フフン、と鼻を鳴らし余裕の笑みを浮かべる泉希。

「喋り方も可愛かったら100点満点なのに、ほんとざんねんよねぇ〜」

 学校の生徒には見せないような崩れた表情で泉希をからかう。

「やっぱり光はなんか大人として残念な気がする」

「も〜、ほんと可愛げないんだから!」

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