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クレイジー・マジシャンズ  作者: 鈴木那由多
◆5話 転校生はハンター!?
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転校生はハンター!? エピソード2

 これまた、朝、生徒会室にて。生徒会長である斉藤謙一は、人を魅了するという件のパンティーを机上に置き、それをしげしげと眺め、じっくりと考察していた。

「やっていることは真面目なんですけど、絵面がただの変態なんですが」

 と、冷静に黒岩梓がぼそっとつぶやく。

「私は、自分が行っている事が恥だと思った事はない。なぜなら、自分の行う事こそが正しいと信じているからだ」

「カッコイイような、カッコ悪いような……」

 女性の下着をこれでもかと眺める会長を尻目に、梓は溜息をついた。昨日このパンティーを調べると言ってから、この会長はずっとここで研究していたらしい。

 梓がいつものように早めに学校に来て、生徒会室に顔を出すと、すでにこの会長は居り、パンティーとにらめっこしていた。それからずっとこんな調子である。

「いいんですか、会長? これも確かに大事だとは思いますけど、さすがに家に帰らないのは……」

「ふむ……。家だとどうも落ち着かなくてね。ここの方が静かだし、集中もできるんだよ」

「そうなんですか……」

「そうだ。ところでこのパンティーを私はあれからずっと観察していて分かった事なのだが、どうもこれ単体では効果を発揮しないということが判明した」

「へぇ、そうなんですか?」

 この会長のすごいところは洞察力、推察力どれをとっても人並の数倍上をいくというところである。しかも行動力もある。

「人の心を魅了するというこのパンティーだが、私が長いこと観察していてもその効果が見られなかった。つまり、私は誰かが穿いたときにのみ効果を発揮すると考えた」

「ふむふむ、ということは……」

 ところがその行動力は、時としてあらぬ方向へ転じることもある。

「今日は学校も平常授業。被験者は十分にいるわけだ。女物ではあるが、私が穿いたら駄目ということもないだろう」

「いろいろ駄目です!」

 すかさず梓がそれを否定する。会長は真面目に言ったつもりだったので面食らったらしい。下着だから見えないかもしれないとはいえ、気持ち悪すぎる。

「うむ……。では、君が穿いてみるか?」

「その発言もなかなか問題だと思うんですけど……」

「困ったな……。この下着の効果の研究成果を得るにはどうしたものか……」

 会長は知的探究心を満たすべく、このパンティーに隠された秘密を解き明かそうとしているだけなのだ。それは分かるけど、分かるけども……それでも梓は、

「それはそうと会長。その下着も大変興味深いですが、会長宛ての仕事が今日も山積みになっています。まずは野球部の部室の修繕、サッカー部の女子更衣室覗き問題……」

「いや、しかしこのパンティーが……」

「……ね?」

 どうにかして興味を反らすしかないようだった。

 頑張れ日本。頑張れ梓。




「今日から初仕事ね、泉希?」

 泉希と呼ばれた女子生徒――七瀬泉希ななせみずきは、国語教師である宇佐美光にそう言われると、

「昨日からあれでは先が思いやられるばかりだが……」

 遠慮のない感じで答える。二人は学校へ向かう途中の信号待ちの車内で会話していた。

「あらあら、今私は教師で、あなたはそこの生徒さんよ? 他の生徒に勘付かれない為にも言葉遣いには気を付けてね?」

「うぐっ……。どうして光が先生で、私が生徒なのだ。どうにもやり辛くてしょうがない」

「まあ、仕方ないじゃない。悔しいけどあなたの方が肌も綺麗だし、若く見えるもの。歳のわりに。制服、似合ってるわよ……」

 光は、ぷぷぷと笑ってみせると、逆に泉希の機嫌がすこぶる悪くなる。

「と言っても私達まだ二十歳なんだが……。光、信号青」

「あら、いけない」

 茶化すことに意識の全てが向いていた光が、慌ててアクセルを踏み込む。そのせいか走りだしがきつい。そそっかしい性格はこれから先も直りそうにはない。

 そんなこんなで学校まで到着すると、光はいつものとおり自分の停車位置に車を停めてエンジンを切り、車を降りようとする。

「ん、あいつは何だ?」

 最初に異変に気付いたのは泉希だった。

 車の前方に男子生徒が突っ立っていた。顔を合わせたこともない私に用があるとは思えない。とすれば、光に用件か……。

「あいつの顔に見覚えは?」

「ああ〜……。あの子ね……。前に魅了の魔法を頂戴したときの所有者よ。もしかして、記憶改ざんの魔法が失敗したかしら?」

「はぁ……」

 泉希はさっそく溜息をついた。光はこの辺の処置がかなーりテキトーなのである。光がその失敗を自覚しているということはそうなのだろう。

 光が車から降りて、その男子生徒に話しかける。

「あら、朝からどうしたのかしら? 私に何か用?」

「返してくださいよ、俺の魔法! 盗ったのあなたなんでしょう? 俺覚えてるんですから! そう、あれは数日前の夜の事。ふいにあなたは俺に声をかけ、「ハーイ、そこの発情期ボーイ! 悪いけどあなたのその魔法はこの、魔法少女マジカル光がまるっと全部奪っちゃいまーす!」って、まさにあなたのその声でしたよ!」 

「あはは、ばれちゃった……!?」

 光はどうしようもないといった感じで、苦笑いする。全て記憶改ざんの魔法で忘れるもんだと思って、好き勝手喋ったのだが、こうも全部覚えられていると恥ずかしすぎるものだと思った。

「光のバカ……」

 あとから車から降りてきた泉希が一言そう言った。それから、

「今の事は全てまるっと忘れてもらいます」

 と言って、泉希がその男子生徒の額にデコピンすると、

「あれ……俺は一体ここで何を……?」

 今までの事をきれいさっぱり忘れた少年は、不思議な顔をして校舎へと帰っていくのだった。

「サンキュー、泉希!」

「こんなんでこれからやっていけるのかしら……」

 はぁ……と、また泉希は溜息をついた。

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