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クレイジー・マジシャンズ  作者: 鈴木那由多
◆1話 風の魔法使い
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風の魔法使い エピソード1

「で、できた」


 小さな少年は右手を真っ直ぐ前に突き出した状態で満足げに言う。


「すごい、ちょっと教えただけでマスターしちゃうなんて!」


 その隣でその様子を見ていた長いとんがり耳の少女が歓喜の声を上げる。


 少年の目先には、これまた長いとんがり耳をした老人が居り、先ほどまでてっぺんに乗っかっていた銀色のもじゃもじゃしたもの(※要はカツラ)が定位置から離れ、ふぁさっと地面に落ちる。


「コ、コレ!わしを実験体に使うでない!」


「ごめんなさい!おじい様、でもこの子すごいんです。ちょっとやり方を教えただけで風の魔法を使えるようになったんです!」


 金髪で長い髪のその少女は目を輝かせて言う。


「確かにこの少年の魔法のセンスには類まれなる才能を感じるかもしれんのう。もしかすると彼ならばあの……」


 ちょっと渋めに言ってみた老人であったが、二人の子供はそんなことはまるで聞いていなく、


「ね、ね、今度は泉の方で遊びましょうよ」


 少女は少年の手を引き、新たなる遊び場へと向かおうとする。


「ワシの話聞いてくれてもいいじゃん……」


 老人ががっくり肩を落としていると、突如少年の体が光を放つ。


「あ……」


 みるみるうちに少年の体は光とともに半透明になっていく。


「今日はもう時間みたいだ」


「ね、また来てくれるよね? 絶対だよ?」


「また来るよ、絶対に」


 そうして、少年の体は光とともに消失していった。




 福島康太ふくしまこうたは高校生だ。そして厨二病(※激しい妄想癖を所持する者)でもある。


 今日も右手を真っ直ぐ前に突き出してみる。


「はぁ……」


 当然のことであるが、なんの意味も無い行動だ。


「あら、今日は言わないのね?」


「なんだよ」


 登校中の康太の後ろから声をかけてきたのは、結城愛理ゆうきあいり。康太の幼馴染である。学校での男子からの人気はなかなかであるが、性格に難があるのが問題でもある。


「風の英霊よ、今我が右手に集え! 契約者福島康太に大地をも切り裂く風の力を与えたまえ、だっけ?」


「うっさいなー」


 そっけない返事を返す康太。自分で言う分には楽しいが、いざ他人に言われてみると思いのほか恥ずかしいものだ。


「いい加減やめなさいよね、そんなセリフ今どきの小学生でも言わないわよ」


「そうかなー? じゃあこの人間社会において一定量排出されている俺たち厨二病という存在は一体どこから現れるというのだろうな」


「はいはい、馬鹿な事言ってないでとっとと学校へ行きましょうか」


「馬鹿にしやがって……」


「馬鹿じゃないとでも?」


「うぐ……」


 何も言い返せないのが悔しい。

 



 授業中。


「えーと、つまりこのエックスがワイであって、ワイというのはつまり……えーっと、あとは参考書を参考にしなさい」


 気の抜けたゆるい感じの数学教師の授業を受けながら、康太は退屈していた。ところで漫画や小説の主人公の席は窓際が多いが、福島康太の席もまた窓際であった。


(あいつぜってーカツラだよなぁ……)


 定年間際の老いぼれ教師を見て、康太は思った。


 風の魔法が使えればすぐにでも判明するんだが。


 メールの着信。もちろんサイレントモードにしてあった。


 ――間抜け面してないで授業真面目に受けなさい!


 愛理からだ。今日も教室の中央らへんの席でいい子ちゃんモードで授業を受けている。


 ――優等生様が授業中にスマホいじるなんて感心しないな!


 せめてもの反撃とばかりにメールを返信。すぐに返事が返ってくる。


 ――失せろ


 言葉の選択に躊躇がない。辛辣な言葉を浴びせてくるのが結城愛理の十八番だ。もうすっかり慣れてしまって耐性が付きまくっているが。


 特に用もないので、返信をしないでいると、しばらくして再び向こうからメールが来る。


 ――今日は特に居残る用事もないから一緒に帰りましょ


 なんてことはないメールだ。愛理とは帰る方向が一緒だから、こうして愛理の生徒会の用事がなければこうして二人で帰っているというだけの話だ。


 了解、とだけ文字を打ち込み返信。今日もなんてことのない学校生活が流れていく。




「ふー、ようやく昼休みだ」


 12時のチャイムが鳴り、休み時間突入と同時にもともとだるだるモードの康太の体がさらにだるだるになる。


 他の生徒も待ってましたとばかりに弁当を机に広げ食べ始めたり、購買へ行ったり、午後からの課題をせかせかと急ごしらえしたり、えとせとらえとせとら。


 康太はなんとなく愛理の方を見ていた。どうやら仲の良い女子グループで昼ごはんを食べるようだ。


「愛理ちゃん一緒に弁当食べよーよ!」


 女子グループの元へやってくるちゃらめのクラスメイト。完全モブキャラなので敢えて名前は出さないが、後に描写する機会があるかもしれない。


「いいよ」


「ちょっと、完全愛理目当てじゃんそれー!」


「いや、たまたま一番近くにいたから声かけただけだしー! そんなわけないしー! 俺優子狙いだしー!」


 その持前のちゃらいノリで自然とその集団に混ざるその能力。自分には真似できない技だなーと、康太は妙に感心していた。


「え、うそ!?」


「うっそー!」


「もー! そういう冗談やめてよー!」


 ここで康太にメールが来る。


 ――あんたもここに混ざりなさい。


 あ、これ絶対怒ってる。と康太は確信していた。絶対に行きたくない。康太はしばらく思案した後、


 ――学校でいい子ちゃんぶってるのが仇となったな。それはお前がその化けの皮を被っている限り、貴様が乗り越えなくてはならない壁であり業だ。


 というメールを送っておいた。火に油を注いでいることは承知だが、今後の展開に注目だ。


 メールを確認する愛理。ここからだと愛理の背中しか確認できないのだが、


「な、なに!?」


 体から発せられる怒りに染まった真っ赤なオーラ。この現状に対する怒りの発現が康太には見えた……ような気がした。




「あいつ引き離すのすげー疲れた」


「お疲れさまー」


「あんたのせいよ!」


「え!?」


 下校中。学校にいるときの愛理とは打って変わって、悪態をつきまくる愛理の姿がそこにはあった。どうやら昼休み中の康太の対応が気に入らなかったと見える。


「しょうがないだろ。大体、俺そんなに女子と仲良くないし、あいつみたいなノリで絡むってのも性に合わないんだし」


「じゃあ出来るようになりなさいよ」


「はい、むちゃくちゃー」


「うっさい、死ね!」


「むしろ声量的にうるさいのは愛理の方だと思うんだけど……」


 近所の井戸端会議しているザ・おばさんズが二人を見てなにやら、ぺちゃくちゃとおしゃべりしている。なかなかに居心地が悪い。 


「やんなっちゃうわね、どうせ大方最近の若者は言葉遣いが悪いだの、スカートが短いだのと言ってんだわ」


 おばさんに聞こえない程度の声量で文句を述べる愛理。すごい、彼女はこの帰宅中、文句しか言ってない。


「すごいな、わかるのか?」


「そんなもん勘に決まってんでしょ。いいからさっさと帰るわよ」


「先入観による決めつけは良くないと思うが」


 などといいつつ、すたこらとその場から去る二人。


 ある程度距離が離れたところで、康太の耳に歳食った女性の声が聞こえてきた。


「ホントよね、最近の若い者ときたら、言葉遣いも悪いし、スカートは短いし……」


 かすかな声量だったが、それはたしかにそう聞こえてきた。


 さっきのおばさん達の声……?


 とは言え、先ほどのおばさん達からはそれなりに距離は離れている。あの時声が聞こえなかったというのに、今になって聞こえるというのも考えにくい。


「……?」


「何ぼけっとしてるのよ、帰るわよ」


「……ああ」


 ぼけっとしていた康太は愛理の言葉で我に返り、帰路の先に立っている愛理の元まで歩み寄る。


「何か言いたそうな顔してるわね?」


「うん。言葉遣い悪いのも、スカート短いのも思えばそれは、俺たちっていうより愛理一人が悪いってことだよな。俺まで恥ずかしくなるから、今度からは気を付けてくれよ?」


「……さんという数字を10回言って」


「は?」


「いいから」


「さん、さん、さん、さん――さん、さん、はい、十回言った」


「さんの次の数字は?」


「よん!」


「四ね!(死ね!)」

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