俺と癒菜の偽装婚約者
今回は短い回になります。
予定では3~5話で終わります。
ここは癒菜の家のリビング。
合宿から帰って、俺は次の日すぐに癒菜に呼ばれた。
俺はいつもよりもキッチリした服装で癒菜の家へ足を運んだ。
どうやら本当に今日は癒菜の母親との対面日らしい。
「な、なぁ。本当にいつも通りでいいのか?」
「大丈夫よ。普段のあなたをしらないから」
「そ、そうか」
すると玄関の方からインターホンが鳴るのが聞こえた。
俺の隣に座っていた癒菜が立ち上がって、玄関へと向かっていった。
こう言うとき、グ〇グル先生やヤ〇ーの知恵袋は、いろいろと役に立つ。
「今回も事前に調べたから、大丈夫だ」
俺が緊張に深呼吸していると、玄関が開く音と共に、女性の声がこちらにまで聞こえた。
「癒菜、元気だった?ちゃんとご飯食べてるの?」
「あーはいはい、わかったから、いつも通りよ」
親、らしき人の声は、かなりテンションが高めで、癒菜から聞いた『仲が悪い』なんてイメージはない。
「こんにちは。あなたが風夜クンね」
「あっ。はい、こちらこそ、こんにちは」
癒菜の母は、癒菜ととても似ている。
まぁ親子だから当然なんだけど。
髪は癒菜と同じ金髪。
目は青。
スタイルもよく、普通に大人の女性。
そういったところだ。
「はぁ。お母さん、とりあえず座ってちょうだい」
初めて娘の彼氏を見てテンションの上がっている母を、癒菜が座るように言って座らせる。
癒菜はさっきと同じように俺の隣で、反対側に母。
ドラマとかで見たことのあるお見合いの感じだ。
「えっと。まずは紹介からね、こちらの方が私の彼氏の風夜君よ」
「風夜、この人が私のお母さん」
俺は癒菜の母と、もう一度挨拶を交わした。
「癒菜とはいつからなの?」
「え、えっと・・・・・・」
「三カ月前からよ」
すかさず癒菜が即答。
「出会いの場所は?」
「中学の頃からに友達になったわ」
これは嘘じゃない。
「どっちがどこで告白したの?」
「私からしたわ、場所は・・・・私の好きなクレープ屋さんのある公園よ」
クレープが好きなのか。
「いつ婚約が決まったのかしら?」
「一昨日、合宿先のお祭りのやっている神社の上で決まったわ」
半分あっている。
「といっても、婚約の話は前からしてたわ」
「そうなの?」
母は俺を見た。
俺はコクリとすぐに頷いた。
横では余裕の表情で癒菜がアイスココアを飲んでいる。
「それじゃ最後に風夜クン――」
「は、はい」
俺はどんな質問をぶつけられても答えられる自信がある。
さぁ、どんとこい!
「癒菜との初めてはどうだった?」
「えっ?」
「っ――!?」
なんと言う爆弾発言。
隣で余裕の表情でアイスココアを飲んでいた癒菜が、盛大に吹いた。
なんかもう、いろいろとぶち壊しだ。
「な、ななっ。なんてこと聞いてるのよ!!」
癒菜が口を拭きながら言った。
「あら、シタンじゃないの?」
「してないわよ!」
「そんなことしてません!」
俺と癒菜が必死に否定すると、癒菜の母は『あら、まだだったのね』
といって、なぜか少し落ち込んでいた。
「もうっ。なに言うと思ったら」
「婚約者が決まっていってたから、もうしてたと思ってたわ」
さすがにこの言葉は返せない。
てか返すより否定する。
「それより、そんなこと言うためだけにきたの?」
「そうだったわ。癒菜、あなた帰ってきなさい」
「は・・・はぁ?」
癒菜はありえないと言った感じだ。
「だって婚約者がいるなら、帰る理由も――」
「あるわ。お父さんのしたで秘書として仕事しなさい」
「いやよ!あんな人の下で、それも秘書なんか!」
癒菜は父親が出た瞬間、取り乱して勢いよく立ち上がった。
「落ち着けよ、なっ?」
「あ・・・・そうね、取り乱してごめんなさい」
まぁ、理由はどうあれ、美奈一人じゃ不安だから、美奈には冬の家にでも泊まりに行ってもらおう。
「第一風夜は妹と二人暮らしなのよ?そんなに簡単にOKが出るわけないじゃない」
そういって俺の方を見てくる。
まぁ俺としても、回避できればその方が一番だ。
「そうですね、俺も妹の面倒見たりとかもあるので、それはちょっと勘弁したいですね」
「そうなの?じゃあ、泊まりこみはなしとして、二日間二人でデートならどお?」
次の提案が飛んできた。
まぁ二人でデートなら、見られたところで抵当にごまかすことができる。
「ちょっとまってちょうだいよ。なんでそんなことが、私を連れ戻すのと関係があるのよ?」
「大ありよ、これでしっかりと婚約者としてお父さんにみとめて もらえれば、別に帰ってこなくていいわ」
その答えを聞き、癒菜は少し悩んでいる様子だった。
少しの間黙ったまま考えている。
「・・・・わかったわ。その提案、乗ってあげるわ」
「わかったわ」
そういって癒菜の母は、立ち上がり部屋を出ていく。
そのあとを癒菜がついていき、俺も玄関までついていく。
ここは婚約者としてちゃんと見送らないとな。
「それじゃあ、楽しみにしてるわ」
そういって玄関をでて行ってしまった。
「ごめんなさいね。まさかこんな大事になるなんて思わなかったわ」
リビングのソファにくつろぐ癒菜。
俺もその隣に座る。
「こんなことになるなら、俺じゃなくても幸也でよかったんじゃないか?」
「でもたぶん幸也だとなんかやらかしそうで怖いわ」
「まぁ、それもそうか」
いくら本当に付き合う相手だとしても、幸也がなにか恥ずかしいことをしないことはない。
なにせあの幸也だ。
ド変態な幸也だしな。
「まぁ何はともあれ話は早く終わってよかったよ。今日は俺が夕ご飯の当番だからさ、たぶん美奈がお腹空かせて待ってるとおもうから、そろそろ帰るよ」
「わかったわ。今日はありがとう、また明日。予定はきったら今日中に送るわ」
「わかった」
俺は癒菜の家を後にして帰路にたった。
「あ、お帰り。お腹ペコペコだよ~」
「ごめん、今作るから」
そして美奈がソファにぐったりとして待っていた。
その言葉に後には、お腹が鳴って、顔を赤くしていた。
時間は七時半、うちはいつも早めに食べてゆっくりしてるから、今日は遅い方だ。
「婚約者・・・か」
夕飯の支度をしながらふと美奈とのことを考える。
もしも美奈と付き合って、美奈さえオッケーなら、婚約者になることだってあり得る。
でも次の自分の頭に過った言葉に、現実を知る。
『私は、一年だけ人として生きる事を許されたの・・・・』
婚約のはなしなんて、まだ何年も先。
しかしその頃には美奈はいない。
俺はきっと約束通り冬と付き合っているだろう。
その時俺は、本当に・・・・俺の本当の気持ちで、冬に接することができるだろうか。
楽しい毎日で、忘れていた約束。
いや、覚えていてもそれを現実として受け止めようとしない自分。
この毎日が、この先何年も、ずっと、歳を取るまで続くと思っている自分。
俺は――
「今日の夕飯はなに?」
台所に立って考えている俺の隣に、ひょこっと顔を出してき美奈。
その表情はとても素直で、夕飯が何か考えてもいた。
「今日は素麺だ、もうすぐできるからな」
「夏にはちょうどいいね!」
「あぁ、そうだな」
一年後、俺の隣には美奈はいない。
この部屋は、俺は、どうなってしまうのだろうか。
でもとりあえず今は、今ある現実に向き合おう。
次の回は癒菜先輩との初デートです!




