スターチス
「わたしは今、このとき、ここに立っていることをを後悔したことはありません」
わたしは、静かに、述べる。
「あなたに愛されてしあわせでした」
髪には、溢れるほどのベルガモットの花。
「悲鳴など上げません。泣いたりなんて、しません」
目の前には、悲痛な顔をするノエル。
そんな顔はさせたくなかったのだけれど。
「今までお世話になりました。支配人様」
振り返って、深々と頭を下げる。
黒い服に身を包んだわたしと、同じような格好のノエルが、向き合う。
そっと目を細める。
「……奪ってください。わたしを。あなただけの、ものに」
囁くように、唸るように、告げる。
ノエルの指が、右目を掠める。
ノエルの唇が、右目に触れる。
「――耐えてみせましょう」
最期の一瞬まで、あなたを見ていてあげる。
目を開き、ノエルを見る。
ノエルは、苦しそうに、痛そうに、辛そうに、腕を振り上げ、――そして、
「―――――――っ‼」
視界が血に塗れる。
赤い血液が、落ちていく。じんわりとあたたかい。
「ごめん、ごめんなさい、レティ」
わたしの右目をくりぬいた刀は、左脚へ向かう。
「ごめん――……」
涙を流しながら、ノエルはそれを振り上げ、太腿へおろした。
激痛に歯をくいしばって耐える。
口腔から血が流れる。其れでも声は出さない。出せない。
「さあ、次は君の番だ。ローゼ」
まともに力が入らないわたしの右手に刀を持たせる。
涙と血で、よく見えない。
けれど、差し出された腕を、切り落とした。
「……っごめんなさい、ごめんなさい……」
ぼとりと音を立てて落ちた腕と、それを見るノエルを、交互に見つめて。
そうして、わたしは意識を手放した。
*
「俺は今このときを後悔したことは無いよ」
「……ええ、わたしもです」
車椅子の上で、囁く。
欠けた脚は、目は、補えばいいのだ。
彼がわたしの脚にも、目にもなってくれる。
それに、わたしも。彼の右腕に、なってあげることはできる。
「愛してる。一生。誓うよ」
「あなたと生涯を共にしたい。……そう、誓えます」
それでいいのだ。
辛苦と共に、生きていこう。
――――あなたと。
スターチス――――――永遠に変わらない心、変わらない誓い
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。




