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大ピンチ ~無慈悲なトレード~

 カノア、バーレン、リリアの三人はギルド内でチームを組んでいる。


 チームとは仕事をするときの単位で一緒に仕事をこなすのが基本であり、人数はさまざまである。もちろんソロ専門の人だっている。


 カノアとバーレンは四年前にこのギルドに同時に入った。二人共鳴り物入りでギルドに入って即戦力として周囲の人々から期待されていた。

 

 しかしその期待に答え続けたのはバーレンだけだった。カノアは伸び悩んでいて、一部では「期待外れ」とバカにされていた時期もあった。


 そしてもう一人のチームメイト、リリアはカノアたちより二つ年上だがこのギルドに入るのは後だったためチーム内で先輩後輩の関係は特になかった(ただし立場の違いはあったりなかったり)。


 ピーンポーンパーンポーン


 チームバーレンは今すぐギルドマスター室に来てください。あと一分で来ないと貴方たちの眼球にナイフが突き刺さるそうです。繰り返します、チームバーレンは今すぐギルドマスター室に来てください。


 そんな物騒なアナウンスを聞くと三人は機械のように椅子から立ち上がりダッシュで四階を目指すべく階段へと向かっていった。

 受付の方から「階段で転んだらおしまいだねー(フラグ)」という鬱陶しい声が聞こえてきたが三人は特に気にしない。


「し、失礼します」


 ギルドマスター室に着いた三人。彼らは階段を全力ダッシュで登って来たため、息切れしていた。


 さっきと同じようにギルドマスターはカーテン越しにソファに深く座っていた。息切れして苦しんでる彼らを見て少し楽しんでから、身につけている腕時計をチラリと見た。


「ちっ、五八秒か。惜しい。非常に、惜しい! 階段の途中にバナナの皮でも置いとけば良かったな」


 マスターは本気で悔しがっていた。


 できればもっと部下の身体や命を大事にしてください、と三人とも言いたかったがそんな事言っても何も改善されないとわかっているのでその事は黙っていた。


「それで何の用でしょうか?」


 またしてもバーレンが代表して尋ねる。


「さっき言い忘れてた事があってな、さぁ出てこい」


 マスターの合図でマスター室の奥から長い赤髪の愛想の悪そうな青年が出てきた。顔つきからしてカノアよりは年下らしいが、彼よりは闘志が溢れている。どちらかと言うとバーレンと雰囲気が似ているかもしれない。


「知ってると思うがこいつはウィルロッテだ、二ヶ月前に入ってきたルーキーだ」


 ウィルロッテは即戦力としてギルドに入ってきた実力なので、三人とも当然知っている。


「こいつはまだルーキーだが相当な実力を持っている。だから早いうちにいろんな経験を積ませたいと思っている。そこでカノアをウィルロッテと一時的にトレードすることにした」


「……えっ!?」


 叫んだのは当然カノアだった。ずっと前からいる自分とこの前入ってきたばかりのウィルロッテがトレードされるのだから驚いて当然である。


「そ、そんな。なんでですか!? 確かに僕はこの三人の中では一番ダメですが、このチームじゃなきゃ僕はやっていけないんです!」


 トレードの理由を必死に問い詰める。

 トンッ、トンッ

 しかし返ってきたのは二本のナイフだった。今度は両方の頬を少しかすって、血が流れた。


「黙って話を聞け、次喋ったら目に刺すぞ」


 マスターは左右に四本ずつナイフを握っていた。

 人事に情なんてない、そんな世界だった。カノア自身もそれは分かっていたが認めたくなかった。そしてトレードされる理由をきちんと問い詰めたかったが、自分の命あっての抗議があるので何も言えなかった。


「一時的なトレードだから心配するな、まぁ結果次第では完全トレードになるかもしれないが」


 カノアは完全トレードになってしまう、と予感していた。なぜならウィルロッテの方が自分より強いからだ。


 彼はすでにソロで実績を積み上げている。たぶん直接戦っても勝てない、彼はカノア以上のゴールデンルーキーなのだ。


 弱い人間はいらない、弱い人間は邪魔、当たり前のことだ。


 一時的なトレードとはいえ、カノアはしばらくチームで仕事が出来ないということになる。他のチームに入れてもらうのも一つあるが、可能性は低い。チームはチームの中で連携が固まっているからそんなところに入れる器用さなんて彼にはなかった。


 だからソロで仕事をこなすしか選択肢がないのだ。


「まぁそういうわけだ。バーレン、リリア、頼むぞ」


「「了解しました」」


 バーレンもリリアも三人でやりたいと思っているだろう。しかし上司の命令は絶対、離れ離れになるのを受け入れるしかないのだ。


 新チームバーレンは軽い打ち合わせをするということで別室へと行った。そのためカノアは一人マスター室に取り残された。

 マスターと二人きり、不思議な緊張が走っていく。


「もう喋ってもいいぞ」


 カノアはナイフが飛んでくる事を恐れて息まで止めていたらしく「ぷはぁー」と苦しそうに息を再び吸い込んだ。

 マスターも握っていたナイフをようやくおろした。


「お前、悔しいか?」


「……はい」


 彼はすでに半泣き状態だった。自分が情けなくて情けなくて自然と涙が流れているのだ。


「お前はほかの二人より劣ってるからな。チームはバランスっていうのも大事だ」


「……はい」


 事実なので何も言い返せなかった。大粒の涙がボロボロと足元に落ちていく。


「実力で成り立っている世界だから仕方ない事だ、それを承知してこの世界に入ってきたんだよな?」


「……」


 はい、とすら返事できなくなっていた。何度も何度も溢れてくる涙を服の袖で拭う。


 ストン


 ナイフが一本、飛んできて壁にささった。


「ハンカチだ、それで拭きな」


 カノアはナイフの先に刺さっていたハンカチを手にとった。


「ありがとうございます……。できれば、普通に渡して欲しかったです……」


 泣きながらもしっかりとツッコミを入れていた。


「まぁ私も魔王であっても鬼ではないからな、お前にチャンスをやろう」


「!?」


 チャンスと聞いて彼はすぐさま反応した。魔王であると断言したところにはツッコミを入れられなかった。


「実はどうしてもお前と組みたいと言うやつがいてな。だからタッグ組め」


 これでソロで仕事をすることは回避された。またとないチャンスであった。しかし一つ疑問がある。


 カノアをどうしても必要とする人が都合よくいるだろうか?


 そして彼はあることを思い出した。


「もしかして、あの人ですか?」


 彼には思い当たる節があった。そしてトラウマでもあった。ギルドに入った頃から何故かカノアに一目惚れして求愛し続ける人物が存在した。


「勘がいいな、たぶんそいつだ。おい、入っていいぞ」


 そしてドアが勢いよく開いた。余程待ちきれなかったのか前のめりで部屋に入ってきた。そこに現れたのはショートカットの黒髪をした中性的な女性だった。


「カーノーアーくーん!」


「ぎゃああああああああ!」


 カノアを見るなり彼女は彼に抱きついた。そして彼は抱きしめられて発狂した。


 こんな可愛い女性に抱きつかれて、なぜ発狂するのか。


 そんな疑問はすぐに解消される。


「ところでロニー、お前の性別はどっちだ?」


「ボクは男であって女なのです。今日は男ですねー」


 彼女、いや彼の唯一の問題点、ロニーは性別不明であった。性別不明、わかりやすく言うと男か女か判明していない。

 ロニーは思う存分抱きしめてニヤニヤしていた。


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