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「兄貴っ」
どしゃ降りの下、ぼくは墓の前で膝をつき、両こぶしで地面をたたいた。雨でぬれたカッターシャツが、冷たく背中にはりついている。
兄の、嫌なことに遭っても笑顔でいられる強さに、憧れていた。自分よりも強い奴に向かっていける姿勢を、すごいとすら思った。
そんな兄の墓前で泣きくずれる自分は、なんてぶざまで、みっともないんだろう。
「ぼくも、兄貴のようになりたいよ」
雨の冷たさに打ち震えながら、叫ぶ。
そのとき、近くで、泥を踏む音。
「小さいな」
一瞬。
雨音がやんだ。
「それが、兄にたむける弟の顔か」
胸を突き刺す鋭利な声色が、大雨の中、たしかな存在感を放つ。
「弱い自分が嫌なのなら、ひたすらに強さを求めることだな」
ぼくは這いつくばったまま、声のしたほうを見た。
墓石六つ分ほどへだてた右側から、一人の男の人が歩いてくる。まだ若い。二十五歳くらいだ。細い体に白衣を着こみ、片手でこうもりガサを差していた。
顔には見覚えがある。校医の国沢岳人先生だ。
岳人先生は少し眉にしわを寄せ、感情を感じさせない声色でつぶやいた。
「陽之上。お前には兄と同じく――『夜』を討つ者の血が流れている」
遠くで雷鳴が響いた。
「どういう意味ですか」
ぼくは上体を起こし、その場にお尻をつけた。垂れた前髪が、ぺとりと鼻先につく。
そんなぼくを岳人先生は無表情で見つめながら、やがて陽之上家の墓石の横に立った。
目を閉じ、墓石に向かって手を合わせる。
そして、ゆっくりと開眼した。
改めて見ると、異様な目だ。黒目ばかりが大きく、そのくせ一点の光も宿していない。まるで白目の中心に、暗い穴が開けられているようだ。
「知りたければ、そうだな。今夜にでも学校へ来い。恐らくは、この言葉の意味もわかるだろう」
先生はくるりときびすを返し、もと来た道を引き返していく。
「どうせじきに、夜はくる」
立ち去る先生を呼び止めることもできないまま、ぼくはぼうぜんと空を見上げた。
ほのかに闇に包まれた雨空は、じょじょに夜の気を帯びてきていた。