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「ちょっと『夜』を討ちに行ってくる」
そう言い残したきり、兄は帰ってこなかった。八年前の、夏の夜のことだ。
兄は、強い人だった。いつも笑顔で、周囲の不幸を吹き飛ばしていた。
「ともー。小腹すいたろ。冷凍庫にアイスあっから、いっしょに食おうぜ」
ぼくと兄は、アイスが大好きだった。ソーダ味の、かじると背筋が「ひええっ」てなるやつだ。兄と並んでアイスをほおばるのが、ぼくの日課になっていた。
失踪したとき、兄はまだ高校生だった。その夜のことは、いまでもはっきり覚えている。いつもと違う兄の様子に異変を感じたぼくは、兄を引きとめようと泣きじゃくった。
「そうグズるなよ。朝には絶対帰るって。アイス買ってくっから、いい子で待ってろよ」
兄はぼくの頭をぽんぽんとたたき、夜の闇へと消えていった。
そして、あくる朝。若い男の人が訪ねてきた。
その人は傷だらけの体を引きずりながら、持っていたアイスを無言でぼくに手渡した。ソーダ味の、かじると背筋が「ひええっ」てなるやつだ。
どろどろに溶けたそのアイスを、ぼくは食べることができなかった。