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夜、人影に潜む  作者: 影人
第4話:それでも花は、日向に咲く
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4-6

 半ば強制的にデートの約束を取りつけたあと、急に照れくさくなったのか、唐田は逃げるように森永家から退散した。

 日もかたむきかけてる。ぼくらもそろそろ、学校に戻らなくちゃいけない。玄関で靴を履いて、「お邪魔しました」

「む。ちょいと待ってくれい」

 声と同時に、廊下の奥からお爺さんが歩いてきた。

 ん? なんだろう。クッキーの入った袋を、両手に二つ抱えている。

「娘が亡くなる直前に、千尋が作っていたものだよ。きみたちに渡してほしいんだそうだ。きみたちや亮くんへ、『ありがとう』って言っていたよ」

 お爺さんはシワの刻まれた目尻を優しく細めながら、クッキーの袋を一つずつぼくらににぎらせた。

「わしからも、お礼を言わせてもらうよ。今日は、孫のためにありがとう。どうかまた、遊んであげてくれんかねえ」

「はい、もちろんです。ありがとうございますっ」

 国沢さんは深々とお辞儀した。ぼくもハッとし、彼女を見習って頭を下げる。

「きみたちは、とてもいい子だね。そうか。千尋にも、こんないい友達ができたのか」

「とんでもないです。ドアを蹴破るようなことしちゃって……。後日、必ず弁償します」

「弁償なんてされたら、逆にこっちが申し訳ないよ。きみは、千尋のためを思ってドアをやぶったのだろう? そこまでしてくれる友達は、千尋の周りにはいなかった。あの子は昔から、友達を作るのに不向きな性格でねえ。父親は休みの日でも働きづめで、遊び相手といえば母親くらいだった」

 なるほど。

 森永さんのさびしさが、ほんの少しだけ理解できた気がする。ぼくも小さいころ、兄だけを遊び相手に育ったから。

「だというのに、母親は――わしの娘は、逝ってしまいおった」

 お爺さんは、静かに息を吐き出した。

「親に自分の死に顔を見せないことこそ、最大の親孝行だとわしは思う。しかし娘は、それを叶えてくれなかった。だからね。せめて孫だけでも、わしは守ってやりたいんだ」

 国沢さんは口をはさまなかった。真剣な表情で、次の言葉を待っている。

「おっと、いかんいかん。年を取ると、どうも感傷的になってしまってなあ。それじゃ、気をつけて」

 お爺さんはふと表情をくずして、快活に笑いながら頭をかいた。

 ぼくらはもう一回、深々と頭を下げる。国沢さんが、ドアノブに手をかけた。そこでふと振り返って、森永さんの自室へ呼びかける。半開きになったドアの隙間からは、相変わらず陰気な薄暗闇が漏れ出ていた。

「ちぃちゃんっ。クッキー、ありがとう」

 国沢さんは微笑んで、

「また、月曜ね」

 返事は、やっぱりなかった。


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