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半ば強制的にデートの約束を取りつけたあと、急に照れくさくなったのか、唐田は逃げるように森永家から退散した。
日もかたむきかけてる。ぼくらもそろそろ、学校に戻らなくちゃいけない。玄関で靴を履いて、「お邪魔しました」
「む。ちょいと待ってくれい」
声と同時に、廊下の奥からお爺さんが歩いてきた。
ん? なんだろう。クッキーの入った袋を、両手に二つ抱えている。
「娘が亡くなる直前に、千尋が作っていたものだよ。きみたちに渡してほしいんだそうだ。きみたちや亮くんへ、『ありがとう』って言っていたよ」
お爺さんはシワの刻まれた目尻を優しく細めながら、クッキーの袋を一つずつぼくらににぎらせた。
「わしからも、お礼を言わせてもらうよ。今日は、孫のためにありがとう。どうかまた、遊んであげてくれんかねえ」
「はい、もちろんです。ありがとうございますっ」
国沢さんは深々とお辞儀した。ぼくもハッとし、彼女を見習って頭を下げる。
「きみたちは、とてもいい子だね。そうか。千尋にも、こんないい友達ができたのか」
「とんでもないです。ドアを蹴破るようなことしちゃって……。後日、必ず弁償します」
「弁償なんてされたら、逆にこっちが申し訳ないよ。きみは、千尋のためを思ってドアをやぶったのだろう? そこまでしてくれる友達は、千尋の周りにはいなかった。あの子は昔から、友達を作るのに不向きな性格でねえ。父親は休みの日でも働きづめで、遊び相手といえば母親くらいだった」
なるほど。
森永さんのさびしさが、ほんの少しだけ理解できた気がする。ぼくも小さいころ、兄だけを遊び相手に育ったから。
「だというのに、母親は――わしの娘は、逝ってしまいおった」
お爺さんは、静かに息を吐き出した。
「親に自分の死に顔を見せないことこそ、最大の親孝行だとわしは思う。しかし娘は、それを叶えてくれなかった。だからね。せめて孫だけでも、わしは守ってやりたいんだ」
国沢さんは口をはさまなかった。真剣な表情で、次の言葉を待っている。
「おっと、いかんいかん。年を取ると、どうも感傷的になってしまってなあ。それじゃ、気をつけて」
お爺さんはふと表情をくずして、快活に笑いながら頭をかいた。
ぼくらはもう一回、深々と頭を下げる。国沢さんが、ドアノブに手をかけた。そこでふと振り返って、森永さんの自室へ呼びかける。半開きになったドアの隙間からは、相変わらず陰気な薄暗闇が漏れ出ていた。
「ちぃちゃんっ。クッキー、ありがとう」
国沢さんは微笑んで、
「また、月曜ね」
返事は、やっぱりなかった。




