3-2
門をくぐると、空はもう茜色に染まっていた。遠くで、ヒグラシの鳴く声がする。
「カバン、一つ持とうか」
人気のない道を歩きながら、ぼくは隣を歩く国沢さんに提案した。
「え? ああ、いいよ、いいよ。気を遣う必要ないって」
「遣わせてよ、こんなときくらいは」
固い表情で言い放つ。
「んー。ま、そういうことならお願いするよ。頼もしいね。さっすが、男の子だ」
「……ほっぺた、だいじょうぶ?」
受け取ったカバンを左肩に通してから、聞く。彼女の顔を見ないまま。
「ん? ああ、ヘーキ、ヘーキ。わたし、間違ってた。自分の気持ちばっか口にして、向こうの事情なんてちっとも考えてなかった。そういうとこ、ちょっと反省かな」
「間違ってないよ」
ぼくは前を向いたまま、低くこぼした。
「へ?」
「国沢さんは、ぼくをかばって反論してくれたんだから」
そうだ。そもそもこれは、ぼくの責任だ。ぼくがあそこできちんと反論さえしてれば、国沢さんはたたかれずに済んだんだから。ぼくがちゃんとなにか言って、戦うべきだったんだ。
思えば、ぼくはいつだってこうなんだ。肝心なときに尻ごみして。その結果、周りの誰かを傷つけてしまう。
「陽之上くん」
国沢さんが回りこみ、ぼくの顔をのぞきこんだ。
「ひょっとして、なんか怒ってる?」
許せなかった。その臆病さで、誰かを傷つける。そんな自分が、嫌で嫌でたまらなかった。
眉間に力をこめるぼくを、国沢さんは無言でながめる。
と思ったら、「ほいさ!」ってかけ声を上げて、あずけたカバンをかすめ取ってきた。
そして少し小走りしたところで振り返り、声を快活に張り上げる。
はにかんだ笑顔。栗色の髪が、夕日をバックに輝いていた。
「やっぱりちょっと、走ろっか」




