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手伝った。
唐田は意外にも、根気よく探してくれた。
だけど、もう時間も遅い。
一時間くらい捜索したところで、その日は解散することになった。
またねと手を振り、森永さんが歩き出す。そのうしろを、唐田が面倒くさそうについていった。聞くとこの二人、家が隣同士らしい。
「さて。じゃ、陽之上くん。部室に行くとしますか」
日も落ちたところで、ようやく保健室にGO。
白く照らされた保険室内には、誰もいなかった。岳人先生は、まだ外出中のようだ。
「時間も時間だし、ちゃっちゃと着替えちゃお」
ウィンクしつつ、机の引き出しにカギ穴を差しこむ国沢さん。
取り出されたのは、黒いボディスーツとチョッキ、ベルトにヘルメット。『夜』と戦う際に着る、戦闘用の服だ。
『夜』はいつ、どういった日に現れるのかわからない。突然の出現にも対処できるよう、毎夜、戦いに備えておく必要がある。
ぼくと国沢さんの主な任務は、朝になるまで、この保健室で待機をすることだ。
成長した『夜』は、毎夜この校舎を目指して移動してくる。さまざまな青少年たちの悩みや葛藤が染みついたこの校舎に、『夜』たちは自然と引き寄せられるらしい。早い話が、誘蛾灯に誘われる夜光虫だ。夜光虫たちを迎え撃つために、ぼくらは毎晩、保健室で待機をしているんだ。
ちなみにこの間の一件以降、ぼくは『夜』と戦っていない。怪物たちの出現頻度は、ずいぶん不規則なものらしい。
「さてと」
ベッドの周りをカーテンで囲み、その中で服を脱ぐ。
ぼくは胸元を開けた。卍の印が、鎖骨の間で黒々と異彩を放つ。兄が残した、守りの印。こいつがまた、この間みたいに光ってくれたらいいんだけどな……。
上下を脱ぎ、スーツを着た。チョッキを羽織る。
「陽之上くーん。そんなせまい所で、着替えにくくない?」
国沢さんの声が、布の向こうから響いた。
彼女には、カーテンの外でのびのびと着替えてもらっている。普段とは逆だ。いつもは、彼女のほうがカーテンに収まっている。「ポジションを変えよう」って提案したのは、ぼくのほうだった。岳人先生がいないときくらい、国沢さんには広い空間で着替えさせてあげたい。
でも……。着替えくらいは、やっぱ別々の部屋でやったほうがいいと思うんだ。
だって、声が――それに、音が。服と服のこすれあう音が、布越しに聞こえてくるんだ。
脱いでいる。国沢さんが、服を。布一枚へだてた、その先で。
……。
いかんいかん。ぼくってば、なにを考えてるんだ。
頭を振り、悶々とした感覚を払う。耳たぶの先までが、熱くなっていた。
国沢さんは、恥ずかしくないのかな? カーテンで仕切られてるとはいえ、同じ室内に男子がいるんだ。同年代の女子なら、普通は嫌がりそうなもんだけど。それとも単に、ぼくを男として見てないだけ? なんだかなあ。それはそれで、あんまりな話だ――
ドアの開く、音がした。
「おい、あの女子はいるか。夕方お前たちが連れていた……」
めずらしくあせりの混じった、岳人先生の声。それを、狂ったガメラのような叫びがかき消した。その声はかろうじて、国沢さんの面影を残してる。
ばっしーん!
かわいた音が、室内に響いた。




