恋人な貴女
あーちゃんとキスしてしまった。
「きゃーー!!」
思わず叫ぶ。恥ずかしさが限界突破してしまった。ん? 誰か来−
「ゴキブリどこっ!?」
「‥‥」
「ゴキブリは!?」
「に、逃げた」
「ちっ。春先に出るとは図太いやつね」
興奮のあまりお母さんを召喚してしまった。失敗失敗。というかいくら夏場はゴキブリの度に悲鳴あげるからって勝手にドア開けるのは‥‥いいか。本当にゴキブリの時に困るし。
お母さんが出て行ったので改めて、ベッドに転がって回想する。柔らかかった。ドキドキした。なんか体がふにゃふにゃした。
「っ〜〜!」
うわぁぁぁぁぁっ! は、恥ずかしいっ。やばい。しかも最初は私からキスしようとしたあげく失敗したし。うぅ。
「‥‥‥はぁぁ」
あああ‥あーちゃん好きだよぅ。あーちゃん好きすぎて頭おかしくなりそう。あーちゃん愛してるー!
○
「おはよう、あーちゃん」
「‥‥あ、うん」
「?」
朝、いつものようにあーちゃん宅を訪ねると、普通に起きてご飯食べてたいたけど反応が鈍い。
不思議に思ってるとお母様が家を出てから、あーちゃんは頬を染めながら私に聞いてきた。
「あ、あのさ」
「ん? なに?」
「昨日‥‥の、夢、じゃないよね?」
「えっ、ち、違うよっ。私の大事なファーストキスを夢にしないでよ!」
「だ、だよね。よかった‥‥うん。ちなみに私も、初めてだから」
「う、うん」
思わず全力で否定したけど、恥ずかしい。ファーストキスとか言ってしまった。キスて、キスて‥‥。
「さっちゃん、顔、真っ赤だよ」
「う‥‥い、言わないで」
顔が熱いから自覚はしてるけど、指摘されると恥ずかしさはひとしおだ。
二人してなんだか照れちゃって、無言のまま家を出た。
「‥‥」
両思いだとわかっているし、心の距離は今まで以上に近くなったと思う。
でもどうしても照れくさい。隣にいるだけで昨日のキスを意識してしまう。だからいつもより5センチくらい離れてしまう。
「さっちゃん」
「え、な、なに?」
「声裏返りすぎ」
「う‥‥」
恥ずかしい‥‥というか、あーちゃんもほっぺた赤い癖に。何で若干余裕気なの。
「さっちゃんはさ、意外に照れ屋なんだね。知らなかった」
「そんなこと‥‥」
あるけど。自分でも意外だと思うけど。あーちゃんが余裕気とかなんか悔しい。
「いいよ。これからは私が、リードするから」
あーちゃんはそう言いながら、私の手を握った。あーちゃんの手なんて何度も握ったのに、あーちゃんからは初めてで、私のドキドキは治まるどころか、ひどくなるばかりだ。
ますます赤くなるのを自覚して、私は俯いてしまった。
あーちゃんにひかれて歩くなんて以前と逆だ。
あーちゃんも照れくさいのか、黙って学校に向かう。沈黙はいつも以上に嫌じゃなくて、むしろ嬉しいくらいだった。
「おっはよー」
「おはよう」
「おはよう、由真」
「‥‥? なんか二人、変じゃない?」
校門の手前で追い越し様に挨拶をした由真が、珍しく立ち止まり、そんな鋭い事を言うからドキドキしながら慌てて誤魔化す。
「えっ!? そ、そうかな。別に、普通じゃない?」
「うーん? そう? まぁいっか。んじゃ、また後で」
「うん。またー」
由真が単純で助かった。由真を見送ってほっと息をつく。
「由真、何か気づいたかな?」
「いや、大丈夫でしょ。由真ってそういうのに疎そうだし」
「そうかなぁ」
不安そうなあーちゃんを励ますように、そっとあーちゃんの手を握る力を強くした。
「大丈夫だよ。それに、もしばれたって問題ないでしょ。だって私、あーちゃん大好きだもん」
「‥‥さっちゃんの馬鹿」
「えっ、何で!?」
思わず顔を覗き込むと、あーちゃんは片手で顔を隠して小さな声で毒づくように言う。
「そんなこと言われたら、益々好きになるでしょうがっ‥‥馬鹿」
隠しきれない耳は真っ赤で、私もまた赤くなってしまう。朝から赤くなってばかりだ。
ドキドキしすぎて倒れそう。
○
「あーちゃん」
「うん」
いや、うんじゃなくてね。その‥‥おかしいよね?
何で私、ベットに寝転がってあーちゃんに覆い被さられてるの?
じょ、状況を整理しよう。
えーと、放課後になりました。あーちゃんが可愛く『一緒に勉強しよっ』と言われた。もちろん返事はイエス。あーちゃん家へどーん。何故かベットにどーん。あーちゃんもどーん。
‥‥‥何故!?
いつもより格段に近いというわけでもないけど体勢的にドキドキしてしまう。
「あの、勉強‥‥は?」
「うん、するよ」
「じゃあ、どいて欲しいな、みたいな。とりあえず、机につかないと、勉強出来ないよね?」
「‥‥さっちゃん、キスしたい」
「‥‥‥な、い、う‥うん。‥‥うん、いい、よ?」
ゆっくりとあーちゃんの顔が近づいてくる。あーちゃんの顔は赤く、緊張にかややこわばっている。
鼻がぶつかりそうなくらいの距離であーちゃんは一旦停止し、瞳を閉じた。ドキドキしすぎて飛び出そうな心臓を押さえるように、私も目を閉じた。
暗い世界に目が慣れる前に唇に温かくて柔らかいものがあてられる。
キスしてる。目を閉じてるのにパチパチと光がはじけてる気さえした。気持ちよくて、とろけそうだ。
ずっとこうしていたい。ずっと‥‥‥い、息が、苦しくなってきた。
「‥‥」
でも気持ちいいし、あーちゃんとキスしてたい。このまま、この‥‥っ、も、限界!
「っはあっ、はあぁ、はぁはぁ」
「っはあぁっ、はぁぁ、はぁ」
思わずあーちゃんの肩を押したのと、あーちゃんが勢いよく起き上がったのはほぼ同時だった。
「はぁぁ、し、死ぬかと思った」
「え、そ、そこまで? 私も苦しかったし、あーちゃんも苦しいなら止めてよ」
「はぁはぁ‥‥はぁ。だって、さっちゃんとのキスが、気持ちよすぎて、止めたくなかったんだもん」
それを言われると、なんとも言えない。私も同じだし。というか、全く同じこと考えてたなんて、嬉しいかも。
「わ、私も‥‥気持ち良かった、よ」
「うん。一緒だね」
「うん」
「‥‥ねぇ、もう一回、いい?」
「べ、勉強は?」
私もキスをしたいのは山々だけど、あーちゃんが勉強すると決めたことの邪魔をしたくない。
なのにあーちゃんはまた私に覆い被さって、私を見つめてくる。私からももちろん、あーちゃんを真っ正面から見つめることになる。
「今日は、一緒にキスの勉強しよ」
あーちゃんは美人だ。その美しい顔をよせられ、可愛い笑みを見せられ、愛らしい声で囁かれたなら
「ね? いいでしょ?」
「‥‥うん」
私があーちゃんの誘いを断るなんてできるわけがない。
初めて出会ったその時から、私はあーちゃんが大好きなんだから。
「さっちゃん、大好き」
「私も、大好きだよ」
目を閉じた。
○
完結です。
読んでくださりありがとうこざいました。
最終話の前に携帯電話を変えまして、…‥•・の四つしか点々がないので、今まで三点だったのを二点に変更しました。