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美しい貴女  作者: 川木
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可愛い貴女

「佐知、ノート見せて」


 昼休みになるとすぐに真由がやってきた。またか。


「いい加減授業中に寝るのやめなよ」

「仕方ないじゃん。ほら早く早く。写すだけだし。教えてってわけじゃないんだしいいじゃん」


 手間ではそうだけど、教えた方が気持ち的に楽なんだけどな。ノート貸して悪い点をとられるの嫌なんだよね。


「もう。テスト前になってから言っても教えないからね」

「大丈夫。このノートがあれば赤点回避くらい余裕余裕」


 ぎりぎりのくせに。あーちゃんよりはマシだけどさ。お腹も減ったし、仕方ないからノートを貸した。


「さて、あーちゃん、ご飯食べようか」


「うん」


 振り向いて後ろの席にいるあーちゃんの机に鞄から取り出したお弁当を置く。あーちゃんもお弁当を出していた。


「いただきます」

「いただきます」


 お弁当箱を開ける。早く出る都合上、私のお弁当は手作りだ。小学校では給食があったから非常に面倒で、つい手抜きしてしまう。


「また?」


 スクランブルエッグに昨日の晩御飯であった煮物を詰めただけ。ご飯にはふりかけをふりかけてる。


「またとか言うな。この間はきんぴらで今日はカボチャの煮物だし全然違うわ」

「似たようなものだし」


 あーちゃんのお弁当は目玉焼きにウインナーとかが入ってる。半分は冷凍食品だけど、チンしたり種類選ぶのすら面倒な私には羨ましい限りだ。お肉が食べたい。明日からウインナーくらいつめようかな。


「あーちゃん、佐知ー、あたしもまーぜーろっ」

「わっ」


 背中から覆いかぶさられて、思わず声が出た。肩から顔を出してるのは隣に住む幼なじみの浩子だった。


「浩子…、びっくりしたぁ」

「なんでいるの?」

「そんな邪険にしないでよ、あーちゃん。今日は昼ミーティングないから。教室なのよん。はい、隣とっぴー」


 中学にあがってから始めた部活で、やれミーティングだなんだといなかった浩子だけど、今日は大丈夫らしい。浩子とご飯食べるのは久しぶりだから地味に嬉しい。

 隣の無人の席を借りて、横から机に張り付いた浩子に笑いかける私とは対称的に、何故かあーちゃんは不機嫌そうだ。

 お弁当に嫌いな具でもあったのかな? とりあえず久しぶりの浩子なので一旦あーちゃんは置いておく。


「いただきまーす」

「そういえば浩子のお弁当見るのって遠足以来だね。相変わらず凝ってるね」

「ママの趣味だしね。美味しいからいいけど」


 ガツガツと食べる浩子はお弁当の可愛さに毛ほども価値を見出だしていないらしい。前からだけど、勿体ない。


「ね、ちょっとそのロールカツ一口ちょうだいよ」

「やだよ、佐知の野菜しかないし。これちょー好きだし」

「けちけち。ねぇ浩子、一口だけ。一口くらいいいでしょ?」

「もう、しょーがないな。一口だけだからね。ほい」

「あーん。ん、美味しい!」


 浩子が箸でぶらさげたロールカツに食いつく。浩子はにっと笑う。


「とーぜん。あ、あーちゃんも食べる?」

「いらない」

「あーちゃん冷たい。佐知にはでれでれなくせに」

「……」

「あ、無視だ。佐知ー、佐知のまな娘が冷たいんだけど?」

「娘じゃないし」


 ご飯を食べてるあーちゃんは、何だかご機嫌ナナメ? いつもより言葉数少ないかな?


「あーちゃん、ご飯美味しい?」

「…まぁまぁ」

「そっか、美味しいんだ。よかったね」

「………ん」


 うーん? うむむ。いつも通りの気まぐれな気もするけど、やっぱり大人しい気がする。


「あーちゃん、なんか体調悪い? 大丈夫?」

「大丈夫だし」

「そう? ならいいけど。何かあるなら言ってね?」

「…うん。ありがと」


 まあ、本人が大丈夫って言ってるんだし大丈夫か。あんまり追求しても仕方ないしね。


 しばらく様子を見ることにした。


 そして、やっぱりあーちゃんの様子は変だ。そう確信を持ったのは放課後になってからだった。


「ゆ、由真」

「ん? え、あーちゃん!?」

「うるさい」

「あ、ごめ、え? ど、どうしたの? あーちゃんから話かけてくるなんて珍し、いや、佐知がいるのに話かけてくるとか初めてじゃない!?」

「……」


 由真の言葉にあーちゃんは睨みだしたけど、普通に私も驚いた。

 私がいない時までは知らないけど、少なくとも私と一緒の時、あーちゃんが自分から誰かに話かけるなんて滅多にない。業務連絡くらい? それすらだいたい私にやらせるし。


「ごめんごめん。怒らないで。本気で驚いたんだから。どうしたの?」

「今日……一緒に帰る」

「え…いいけど。いいけどホントにどうかしたの?」


 あーちゃんに聞きながら由真は私に視線で聞いてきたけど、私にも心あたりがないから首をふる。

 どうなってるんだろう? いつものあーちゃんからは考えられない態度だ。突然の変化。理由も見当つかない。


「うるさい。何もない。さっちゃん、帰ろ」

「う、うん」


 とりあえず戸惑いつつも三人で帰ることにする。と、何故かいつもと違いあーちゃんは由真の隣を歩きだした。

 えー、どういうこと? いつもあーちゃんの隣は私の指定席だったからもやもやする。でも、ふと理由に気づいた。


 あ、そか。これあれか。恋人ごっこと同じで、大人ごっこ、というか大人になりたくて頑張ってるのか。それで頑張って私以外に交遊関係広げようってしてるんだ。朝から私におんぶさせないのも自立した大人になろうとしてるのか。


 理由に気づいてしまうと、とても単純で微笑ましくていいことだ。あーちゃんも成長したんだ。すごくいいことだ。

 ……いいことだとは、わかってる。でもなんかすごいやだなぁ。あーちゃんのことならいつまでもおんぶに抱っこしていたかったのに。あーぁ、まだ子供でいてほしかったなぁ。

 とか考えちゃうけど、まあ仕方ない。嫌な顔は我慢してださないことにした。


「さっちゃん」

「ん? なにかなあーちゃん? 私に何か用?」

「……」

「どうかした?」

「……別に」

「?」


 え? なに今の。てゆーか、不機嫌顔だし。?









「……」

「あ、あーちゃん?」

「……」

「あーちゃーん」

「……」


 どうしよう。なんか凄い不機嫌。不機嫌過ぎてハムスターばりにほっぺた膨らましててちょープリティだし。


 由真とは普通に別れ、いつも通りあーちゃんの部屋で二人になった。由真と別れた途端、私の袖を掴んだっきり一言も話さないあーちゃん。


「あーちゃん、どうして機嫌悪いの? ねぇ、意地悪しないで教えて? 私が悪いなら直すから」

「……別に。悪くないし」

「えぇ? いや、悪いでしょ」

「じゃあ、手くらい繋いだら?」

「は?」


 目茶苦茶投げやりに言われた言葉はよくわからない。手を繋ぐ? そういやこないだ……あ、そういやまだ恋人ごっこって続いてるんだよね。 で、手を繋がないから不機嫌だったの?

 ……なーんだ! なんだ。もう。自立関係ないじゃん。もー。よかった。あーちゃんたら可愛いなぁ。


「あーちゃん、お手を拝借してもよろしいですか?」

「…許す」

「ありがとう」


 手を大袈裟に両手で握ると、あーちゃんはちょっと照れたようにはにかんだ。可愛い。


「あーちゃん、気づかなくてごめんね。私って鈍いから、もし何かあったらどしどし言ってね」

「……はぁ」


 あれ、ため息つかれたぞ?


「そうね。うん、まぁ……さっちゃんが鈍いとかわかってるよ。わかってるけど……鈍すぎ」

「ごめんねー」

「…許してあげる。かわりに…」

「ん? なになに? なんでもするわよ?」

「……ぎゅって、して」

「ぎゅー」


 可愛いあーちゃんを抱きしめる。お詫びがぎゅってしてとか、可愛すぎ。あーちゃんが幼児化してる気もするけど可愛いからよし。恋人ごっこに思う存分付き合うよ。


「……さっちゃん」

「なーに?」

「好き…」

「うん、私も好きよ。大好き」

「ん」


 あーちゃんは可愛いなぁ。









 それからあーちゃんと極力手を繋いだまま生活すること3日目。正直、他の子と話をしてる時もご飯食べる時もずっと繋いでいるのは、やや疲れる。というか飽きてきた。

 回りには最近べたべたしないねーと言われるし私も同意だ。前の方が膝にのせたりなんだかんだでくっつけたのに。手を繋ぐだけとか、あーちゃん分不足でガスケツになりそうだ。


「ねぇあーちゃん」

「なに?」

「ちょっと、トイレ行ってくる」

「私も行く」


 むーん。さすがに個室や授業中の物理的に無理な時を除いて、あーちゃんは私にくっついてきて手を繋ぐ。嬉しいような、なんだかなぁ。さすがに一分一秒ずっと一緒だと疲れるような気まずいような気がするのは、私だけ?

 いつも通りに友達と話してるだけなのにいらだってるのか睨んでくるし。いつもよりたくさん立って歩くから、疲れて気がたってるんだろうけど、先に席についててくれればいいのに。


 手を繋ぐとか、一緒にいる時間が増えるのはいい。むしろWelcomeなはずなのに。なのに、あーちゃんは何だか前より不機嫌で、不機嫌なあーちゃんと一緒にいるとはらはらしてしまって、気持ちが落ち着けないのだ。

 だから少しだけ、うざい。こんなこと思いたくないし、あーちゃんのこと大好きだけど、理由もわからない不機嫌なあーちゃんがずっと隣にいると気疲れしてしまう。


「お、佐知、に、あーちゃん。連れションなんて珍しいじゃん」

「まぁね」


 トイレで浩子と遭遇した。トイレで浩子と会う自体珍しいからそう思うのは当然だ。浩子はいつもあちこち走り回ってるから一緒にトイレなんかいかないしね。


「トイレまで手を繋ぐなんて、あーちゃんは相変わらず可愛いなぁ。よし、佐知を待ってる間は私が繋いでてやろう」

「私もトイレするし」

「あれ、そなの?」


 そりゃそうでしょ。タイミングを合わせてるだけで、あーちゃんだってトイレしたくないのについてきたりはしない。


「んじゃ、私は先に…あ、ハンカチ忘れた。佐知、貸して」

「はい」

「ん、さんきゅ」


 言いながらも手を洗った浩子にハンカチを貸し、返されたハンカチはポケットに。


「んじゃ、また後で」

「はいはい」

「あーちゃんもね」

「……」


 あーちゃんは無視したけど浩子は相変わらずだと苦笑だけしてトイレを出た。

 最近は頑張って私以外にも話してたのに、また戻った? 友達増やしたいならそれじゃダメってわからないのかな? 切羽詰まってる訳でも他に人がいるわけでもないし、とりあえず注意するか。


「あーちゃん、ちゃんと返事しないと、友達増えないよ」

「うるさい」

「……あーちゃん、怒らないで? 最近機嫌悪いけどどうしたの?」

「……さっちゃんの馬鹿。大馬鹿」

「え?」


 思わず聞き返したけどあーちゃんは私の手を離すとトイレに入ってしまった。


 え、なんで今怒ったの? しかも自分から手を離しちゃうし。私変なこと言った? 言い方偉そうに感じちゃった?


「……」


 とりあえず私もトイレを済ます。手を洗ってあーちゃん用ハンカチを渡してもあーちゃんは無言で、手を繋ぐ間もなくトイレを出てしまった。


 どうしよう。今までの不機嫌なんか目じゃないくらい怒らせちゃったみたいだ。どうしよう。あーちゃんに嫌われちゃった? そんなのやだ。あーちゃんに嫌われたら私生きていけない。でもどうしたらいいの?


「あ、あの、あーちゃん?」

「……」


 ううぅ無視だぁ。よくあることだけど、泣きそう。どうしよう。どうしたらいいのか、わかんないよ。











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