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いちばんの人

作者: coyuki

3月の末日。街のあちこちから、桜関係の曲が流れている。

そういや……もう春か。

いろんなことがありすぎて、去年の夏から一気に過ぎていった。でも長かった。そんな矛盾した感覚。

事故、喪失、初恋、失恋、自棄、希望。いろんな出来事があったな。

やっと落ち着いて周りを見たら、もう春の陽気。

暖冬のせいか桜も咲いていて、目の前をひらひら舞っていた。

この人と付き合い始めてから……もう、2ヶ月が経ったんだな。

2月が短かったのか、はたまた別のせいか……すごく早く感じる。

そして、今日は……

「そういえば蒼井君、背伸びたよねー。去年会ったばかりの時は同じぐらいだったのに」

「え?そっかな。なかなか実感ないんだけど」

「いやいや、伸びたって!私の頭のてっぺんがやっと蒼井君の肩ぐらいだもん」

そう言い、彼女は頭の先にやった手をスライドさせて俺の肩に当てる。

「いーねー男子は。成長期いっぱいあって」

先輩はにこっと笑った。

ほんと……動作といい、笑顔といい、めちゃくちゃ可愛い。

周りは“美人”って言うけど、可愛い面も知ってる男が俺だけっていうのも、すごく嬉しいことだ。

「……まぁ、個人差があるから男子はみんな背が高いわけではないんだけどね」

にやけそうになる顔を少し逸らしながら、いかにも冷めたことを言った。

こういうとき……どんな風にしたらいいか分からない。

素直ににやけるべきか、クールに振舞うべきか……

「あ、そっか。小城とかはもう成長期で伸びましたレベルじゃないよね。巨人化しましたレベルだもんね」

小城というのは、バスケ部の小城先輩のこと。

直接身長いくらか聞いてみたところ……

『おりゃー(俺は)、1メーター90センチだ!蒼井も俺ぐらいデカくなるよう頑張れな!技術はお前の方がデケーけどな。ガッハッハ!!!』

……と、背中をバンバンたたかれながら言われた。

いつも陽気な雰囲気は、部長として部を盛り上げてくれる。

「あれ?さーや先輩だ!久しぶりです!」

前からやって来た、春という季節に合わない……ゴロリスファッションとやらを身に纏った女子が、先輩を見るなりそう言い駆け寄ってきた。

そう言い、いきなり抱きつく。

女子はいーよな。素直に行動できて……そう思いながら見てると……

「久しぶり、“拓哉君”。元気してた?」

「はいっ!」

ふーん。拓哉って名前なのか。見た目通り派手……じゃない。

つーか、ちょっと待て!

「杉浦先輩、これ男!?」

「うんそーだよ」

しれっと答える先輩。

「あ、彼氏さん?ごめんねーくっついちゃって!」

その拓哉とやらはパッと離れた。

ていうか、拓哉って、どっかで聞いたような……

「あれれー?彼氏さん、」

「……蒼井ですけど」

「んじゃ、蒼井さん、どっかで見たことあるよーな感じするんですよね私……」

ずずいっと近寄る拓哉とやら。

反射的に一歩下がる。

「……あっ!1のDで、多分学校でいちばんモテる男子!そうでしょ?ね?ね?」

「ま、まぁ、D組ですが……」

「拓哉君、まず落ち着こっか」

拓哉の腕を先輩が引っ張り、俺と離れさせた。

ホッとしている間に、小原先輩が現れ……4人集合。

立ち話もなんだし、ということで、当初予定していた場所を変更し、喫茶店に入った。


「へーえ。“春休みの課題を片付けちゃいましょーぜ会”ねぇ……」

当初予定していた場所。それは、図書館。

小原先輩が復唱していた通り、図書館で春休みの課題を片付けちゃいましょーぜ会を開催(?)する予定だった。まぁ、杉浦先輩と2人だけだけど。

そんな会をわざわざ開催……いや、一種のデートに誘ったのにはある理由がある。

宿題の入ったカバンと一緒に入れている、あるものをカバンの上から触り、ちゃんとあることをこっそり確認した。

ちなみに、拓哉のことは今さっき思い出した。

東郷先輩の誤解が解けたお祝いとして、サーティーツーでアイスを食べに行ったとき、小原先輩の隣の席にいたツンツン頭の同級生らしい。

しかも、女装マニアで咳払いひとつで声も変化できるという……

生まれてから会ってきた人の中で、トップクラスのびっくり人間だ。

いや、正しくは数ヶ月の中で……かな。思い出せば、まだまだいるかもしれない。

「図書館以外にもどっか行く予定あんの?」

「ううん。お昼だし、勉強して帰る頃にはもう暗くなってるかなーと」

「ふーん。俺なら夏姫と夜の街ぶらつくけど」

「あのねぇ……高校生ならさっさと帰ろーよ……」

どことなく大人な雰囲気を醸し出す小原先輩は、東郷先輩の彼氏。

……なんで、若いとこう、1学年の差がでかく感じるんだろ。

実の父親と母親の年齢差はたったひとつ。それを知ったとき、「ほぼ同い年じゃん」って思ったのに。

なんて、今センチメンタルな気分になってどーすんだ。

「そーいや、拓海……だっけ?」

「んーん。私は拓哉。内藤拓哉だよ!拓海はこっちの方!」

あ、そうなんだ。“たっくん”としか呼ばれてないから知らなかった。

「んじゃ内藤、学校でもそんなゴロリスファッション?」

「あのねぇ、これはゴスロリ!何そのだらだらしたリスみたいな名前ー」

キャハキャハ笑う内藤。本当、中身が男だとは思えない。

内藤は、俺のおもしろいらしい言い間違いを小原先輩に報告していた。

「蒼井君……さすがにゴロリスはないっしょ」

「そう?探したらどっかにありそうじゃない?」

特に、女子である先輩にはウケていた。

他愛無い会話をしながら、ティラミスを1口食べる。

コーヒー豆を練りこんだスポンジ、ビターチョコ……が幾層にも重なっていて、少々苦味が強いけど美味しいイタリアドルチェ。

ちなみに先輩はチーズケーキ、内藤は苺のショートケーキ。小原先輩はモンブランをセレクトしていた。

「……あ。紅茶なくなっちゃった。注ぎに行ってくるね」

「あ、さーや、俺のもお願い!」

「やだよ。こぼすかもしれないじゃん」

小原先輩は「ちぇー」と言いながら、杉浦先輩と一緒に席を立つ。

「今思ったけど、さーや先輩って女子の中では背高い方だよねー。俺、意外とちっちゃいからうらやましー」

確かに、東郷先輩やギャル先輩(桃花)に比べると、杉浦先輩は格段と背が高いように見える。

おまけに細いから、同じ身長の人と並んでも背が高くみえるのかな……と、小原先輩と並んで歩く後姿を見て思った。

「ていうか、内藤、なんで一人称“俺”になってんの?そのファッションじゃムリあるんじゃん?」

「んー……まぁ確かにそーかぁ。今はたっくんいないから、男にちょっと戻ってるの」

オレンジジュースを啜り、「ぶっちゃけるとさぁ、」と続けた。

「俺、たっくんのこと好きなんだよね。昔っから。だから、女の子みたいなカッコして、女の子みたいな喋り方して振り向かせようとしてるんだけどね」

「ふーん…………え?」

それは、もしや……

「内藤、もしかしてゲイなの?」

「あったりぃ!あ、でも女の子もOKだからバイかな?」

んな笑顔で言われても……

「でも、蒼井さんはタイプじゃないから安心して!俺、結構特徴的なおもしろい顔の人が好みだから!」

「……悪かったね。普遍的でつまんない顔で」

世の中、いろんな人がいるもんだな。

それはそれでいいと俺は思うから、別に差別意識なんかは生まれない。

「でもさー、そもそもたっくんには彼女いるしなぁ。実らない恋ってやつよ。フッ」

「……まぁ頑張れ」

どっちの味方をする気もないから、一応そう言っておいた。

「その話はさて置き……さーや先輩って、あの時どーなるの!?」

「は?どの時?」

急にワクワクした目で見られるから、返答に困った。

「やっぱ乱れるの!?それともずーっとあんな感じ!?」

「えっと……」

「俺的に、やっぱずっとあんな感じするんだよねぇ。んでもって、やっぱさーや先輩がリードしてる感じ!蒼井さん、モテてそーだけど意外とあーゆーのは奥手そうだし!」

「いや、だから……」

「お待たせー……って、どしたの拓哉君。そんなに近づいて」

話の趣旨が全く掴めないまま、内藤の質問攻めは終わった。


結局、夕方まで喋りこんでしまい……

「んじゃーなさーや、蒼井!」

「またねー!」

喫茶店を出て、小原先輩と内藤と別れた。

「うひゃー……日が傾き始めてる……こりゃ勉強会できないなぁ」

オレンジ色に染まりつつある空を見ながら、杉浦先輩が呟いた。

「せっかく誘ってくれたのにごめんね。さっさと切り上げればよかったものを……」

「いやいや。それより、図書館のほかに行きたいとこあるんだけど、付き合ってもらっていい?」

「え?いーけど……」

「よかった。んじゃ、こっち。そう遠くないから」

ここで断られたら、パァになるとこだった……

無意識に、先輩の小さい手をひく。

「ちょ、歩くの速いー!」

「あ、そか。ごめんごめん」

笑いながら、彼女も手を握る。

……1学年っていう、結構デカい差があるけど……周りからはちゃんと、恋人同士カップルに見えてるかな。

「……だったらいーな」

「え?何が?」

「内緒」


着いた場所は、この街でいちばんよく夕日が見える、西之崖。

「うわーっ!キレーッ!!!」

「あんま身ぃ乗り出すと危ないよー」

ちなみに朝日がよく見えるのは、反対側にある東之崖。

そこには行ったことがないから……いつか、行こうと思う。

「いやー、16年間暮らしてきてこんな綺麗に夕日が見える場所があるなんて知らなかったー!」

「先輩、目つむって」

杉浦先輩は、「え?なんで?」って言いながら、目をつむる。

バッグからあるものを取り出し、先輩に1歩近づく。

「まだー?」

彼女の首のうしろに手を回しながら、「まだ」と呟いた。

夕日の光を受け、チェーンごと光る……ネックレス。

その中心にある、一際輝くチャームに、キスをした。

「はい。いーよ」

長いまつ毛をした目が、徐々に開く。

「これ……ネックレス?」

すぐに、その存在に気づいた。


「今日で、17歳でしょ?」


先輩は、疑問の表情を浮かべ……やがて、ハッと気づいたような顔になった。

「誕生日、おめでと」

「あ、ありがと……」

そう言い、浮かべた先輩の笑顔は……夕日にも負けず、輝いていた。


帰り道、見慣れた歩道を杉浦先輩の歩調に合わせてゆっくり歩く。

「でも、今日が誕生日って誰に教えてもらったの?」

「……秘密」

「えー何それー」

本当は、東郷先輩にこっそり教えてもらったんだ。

「このチャーム可愛いね。ティアラ?」

「うん。2時間ぐらいは迷ったかな」

「え?ほんとに?」

そう言うと、先輩は笑い出す。

「まぁおかしいよな……16歳の男子が女もののアクセショップで2時間迷っている画は」

「いやいや、確かにそうだけど……それぐらい慎重に選んでくれたものだから、一層嬉しいわ」

「……そっか」

……また、ここでも迷う。素直ににやけるべきか、隠すべきか。

そして、結局先輩に見られないよう、顔を逸らし、自然と顔の緩みが直るのを待った。

多分、先輩には気づいてない……だが。

「あっ!蒼井君、もしやにやけてる?」

まんまと見破られた。

「え?な、なわけないっしょ!」

「うっそだぁ!んじゃこっち向いてよ!」

「……やだ」

「えー!それ矛盾!」


去年の夏から、2ヶ月前まで……こんな、幸せな日常がやってくるなんて思わなかったな。

だから、ずっとこの日常を大切にして行きたい。ずっと守っていきたい。手離さないように。

たとえそれが、他の人の気持ちを考えないワガママなものだとしても……素直な願い。


ティアラ。俺の中で、いちばんの人に贈るもの。

君が、ずっと俺のいちばんの人でいてくれますように……あのキスには、そんな想いをこめた。




いかがでしたか?季節外れの番外編(^^;)

今日はクリスマス!クリスマスといえばプレゼント!プレゼントといえば誕生日!……あ、誕生日エピソード、本編ですっ飛ばした……(・v・;)

ってことで、パッと思い浮かんだのがこの番外編でした。

拓海と拓哉。この2人が何故東野市にいたのかというと……単なる、拓哉が企んだ無理矢理デートってことで(笑)

いつか、大翔の誕生日編も書きたいなぁ。できれば、本編で(^^;)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ティアラ渡すときの情景が 映画のように想い浮かんだのがよかった 「16年間暮らしてきて…」と沙綾が言ったことと ハッと気づいたような顔を沙綾がしたことが 矛盾しやすい場面なのに矛盾してなく…
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