26-4・本体出現~2つの意思
-文架駅北側踏切の更に北の高架橋下-
乗り捨てられてサビだらけの自転車に上空の闇が降り注ぎ、妖気に包まれて片輪車に進化!半田好代の気配を追って、優麗高に向かって走り出した!
「好代ハ僕ノ物ダ~」
駆け付けてきた麻由が、片輪車を発見!すかさずHスマホを取り出してセラフに変身!Hスマホに指で「弓」「蜘蛛」と続けて書いて、絡新婦のキーホルダーを梓弓にセット!片輪車目掛けて矢を射る!矢は花火のように広がり、光る蜘蛛の巣に変化!片輪車に絡み付いて動きを止めた!
「スキヨ~!」
「えぇっ!?私をっ!!!?」
妖怪の望みを叶えてやれば、念は晴れて妖怪は実態を維持できなくなる。妖怪の依り代は誰だろう?好みのタイプ(ご年配)だったら、愛を受け入れるべきか?片輪車を生け捕りにしたまま思案していたら、周辺のあちこちで妖気が発生して、不法投棄をされていた軽自動車用の廃タイヤ4本と、普通車用の廃タイヤ2本が宙に浮かび上がって巨大で黒くて禍々しい渦に包み込まれ、6匹の片輪車に変化した!
「スキヨ~!」 「スキヨ~!」 「スキヨ~!」
「スキヨ~!」 「スキヨ~!」 「スキヨ~!」
「・・・・えっ!」
妖怪の気持ちを受け入れるべきか迷って闘争心をオフにしてたので、対応が出来ない!マスクの下で表情を引き攣らせて尻込みするセラフに対して、片輪車×6が愛の告白(?)をしながら一斉に向かってきた!
「ま、待って下さい!アナタ(片輪車)の気持ちは解りました!
先ずは話し合って、お互いを知るところからっ!」
「スキヨ~!」 「スキヨ~!」 「スキヨ~!」
「スキヨ~!」 「スキヨ~!」 「スキヨ~!」
「きゃぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっ!!!」
-数秒後-
モウモウと立ち込める砂煙。そして、片輪車×6が通過した後に、タイヤ痕だらけになったセラフが転がっている。
どうにか起き上がろうとしたら、蜘蛛の巣が消えて自由になった一匹目の片輪車が動き出し、セラフを踏んづけて、先に行った6匹と同様に優麗高の方向に突っ走って行った。セラフは、一定以上のダメージを受けたので変身解除。
「ま、麻由ちゃん、大丈夫?」
「うぅぅ・・・な、何とか」
構造物の影に隠れて様子を見守っていた真奈が寄ってきて、麻由を介抱する。
「愛の告白をしながら、大量発生して踏み潰すって・・・
なんて、非道な妖怪なんでしょうか」
「そう言えば、みんな、『すきよ~』って言ってたね」
「妖怪はどちらに行きましたか?」
「皆、何か目的があるって感じに、あっち(東)の方に行ったよ。
どうしよう?ジャンヌさんや美穂さんも呼ぼうか?」
「そ、そうですね。ですが、それは妖怪の足を止めてからにしましょう」
「んぉ~~~い!マユ!マナ!」
「ばるっ!2人も来ていたばるかっ!」
空から声が聞こえて、紅葉を背に乗せたバルミィが降りてきた。紅葉の片手には中身がパンパン入ったレジ袋が握られており、もう一方の手ではヒレカツ棒を握りしめて貪り食っていた。着陸と同時に、からあげパックとオニギリを麻由に差し出す。
「むしゃむしゃむしゃ・・・体力補充して、直ぐに追うよっ!」
紅葉と麻由は特殊体質の為、食事をすれば直ぐに体力が回復をする。
「ありがとうございます。取り逃がしてしまって申し訳ありません。
妖怪に愛の告白をされて、戸惑ってしまいました」
「むしゃむしゃむしゃ・・・
んぁっ!?ァタシも『すきよ』ってコクられたよっ!」
「もぐもぐ・・・同じです!
誰にでも告白をするプレイボーイなのでしょうか?」
「ん~~~~・・・変な妖怪だなぁ~」
「もぐもぐ・・・紅葉が1匹倒したのを含めると、計8匹。
妖怪に告白されるのは初めてですが、
同じ妖怪が、同時に複数体も出現するなんて初めてです」
「むしゃむしゃむしゃ・・・ァタシも初めて。
ん~~~・・・なんで、8匹もいるんだろ?」
「もぐもぐ・・・ただ倒すだけではなく、根本的な何かが違うのでしょうか?」
「ところで、美穂とジャンヌは来てないばるか!?」
「ぅん、呼んでないっ!
あんなヨーカイくらい、全員集合しなくても、
ァタシとマユで、何とかしなきゃねっ!」
上空に広がった闇の雲を見上げる紅葉と麻由。悠長に味わって食べてる暇は無いので、食料を口の中に押し込む。
おバカさんな紅葉だけど、お腹が満たされてきたので脳ミソにもちょっとくらいは血流が回り始める。倒しても新しい片輪車が発生するのでキリが無い。漠然と倒し続けても終わらない。今回の妖怪は、いつもと違う。今まで、こんな特殊なパターンあったっけ?『一思念一妖怪』の今までの常識を逸脱している。今まで倒してきた妖怪を思い出してみる。
「・・・んぁぁっ!」
火車と絡新婦は際限なく子を産んだ。弱くて倒しやすい代わりに、いくら倒してもキリが無い。あの時と同じだ。
「うそっ?・・・ァタシ達が戦っていたのゎ子妖?本体ゎ別にいるの?」
「こよう?・・・ですか?」
麻由は子妖を生む妖怪との戦闘を経験した事が無い(てか、麻由が本体だった)ので、子妖の存在を初めて知った。
「ぅんっ!」
「『こよう』と『ほんたい』って何の事なの?」
「んぁ・・・本体ゎ本体だょ。妖怪のこと。
んで子妖ゎ、本体が生み出す分身・・・戦闘員みたぃなもんかな」
「え!?ボク達が戦ってたのは、ただの兵隊だったばるか!?」
それなりの図体と攻撃力あって一丁前な姿してたので、てっきり親玉だと思っていた。子妖なんて相手にしても、消耗をするだけで、いつまで経っても終わらない。片輪車への対処方法そのものが間違えている。本体を見付けなきゃ、何も始まらない。
紅葉と麻由が食糧補給を終えて一定の体力を回復させたので、4人は片輪車の追走を再開する。
―御領町(優麗高付近)―
路肩に停車したザックトレーラーから、赤ザック1+緑ザック5の編成の2パーティーが降りてきて、迫り来る片輪車×7匹に向かって小銃を構える!
「停まれっ!!」
だが、「停まれ」と言われて「はい、解りました」と停まる相手ではない。ザック部隊が銃を構えるが、片輪車はお構い無しに突っ込んでくる。
「スキヨ~!」 「スキヨ~!」 「スキヨ~!」
「スキヨ~!」 「スキヨ~!」 「スキヨ~!」
「なにぃ!?誰に告白をしているんだ!?」
「私は妖怪を恋人にするつもりは無い!」
片輪車の強烈な体当たりが炸裂!ザック×2(秋川と冬條)は「うわあああ!!」と叫んで暫し宙を舞い、地面に叩きつけられて、討伐どころか足止めも出来ずに今回の役目を終えた!
ザックトレーラー内で戦況を見ていた司令官の雛子は大きな溜息をつく。
「早いところ、後継機を開発しなきゃね。
それまでは、申し訳ないけど、貴女達に頼るしかないわ」
ザックトレーラーの真上の空を、紅葉を背に乗せたバルミィが通過!前方を走る片輪車(子妖)の群れを発見した紅葉がゲンジに変身!バルミィが急降下して、低空飛行で片輪車(子妖)の群れに追い付き、ゲンジが先頭の片輪車(子妖)にハリセンの一撃を叩き込んだ!邪気が払われたが、一撃では完全には浄化できないようだ!しかし、移動速度が急激に落ちたところに、後続の片輪車が激突して、群れの足が止まる!
「スキヨ~!」 「スキヨ~!」 「スキヨ~!」
「スキヨ~!」 「スキヨ~!」 「スキヨ~!」
「またコクってるっ!でも、もう、ぷれぇぼ~いヨーカイにゎ騙されないよっ!」
バルミィの背から飛び降りてたゲンジが、清めのハリセンを振り上げて片輪車(子妖)に突進!バルミィがハイアーマードを装着して、右手甲の砲門からジェダイト弾(光弾)を連射!弾き飛ばされた片輪車(子妖)の落下点で待ち構えたゲンジがハリセンを振り回す!1匹につき、5~6回叩くと妖気が剥がれてタイヤに戻った!本体ではないので、比較的簡単に倒せるようだ!
しかし、その辺にある「大切にされていない自転車」や、「雑な運転で消耗した自動車のタイヤ」に、上空の闇の雲から妖気が注がれ、片輪車(子妖)が出現!
ゲンジ&バルミィは、再び戦闘開始!そこへ、麻由と真奈が追いつきてきた!
「また、復活しています!キリがありません!」
「麻由ちゃん、あの黒い雲を倒せないの?」
「・・・えっ?妖気祓いですか?」
「麻由ちゃんの神様の力なら出来るんじゃないの?」
「なるほど、やった事はありませんが、
確かに、そちらの方が効率的かもしれませんね」
麻由はセラフに変身をして、梓弓を装備して、鏃を闇の雲に向けて射る!矢は、上空で光球に変化して闇の雲の一部を散らす!光の力で片輪車への供給源そのものを消せるようだ!
「スキヨ~!」
「くっ!懲りもせずに告白をっ!」
闇の雲から、子妖と同じ声が聞こえる!そして、一箇所に集まって濃い闇になり、中から“不気味な女を乗せた片輪の牛車”が出現をした!
「また、子妖?・・・いや、違う!これは本体!?」
片輪車の本体出現!一方的に浄化される事を拒んだ本体が実体化をしたのだ!雄叫びを上げて、セラフに向かって急降下をする!セラフは一瞬戸惑ったが、慌てずに梓弓を構えて光の矢を放つ!矢は蜘蛛の巣に変化をして、片輪車に絡み付いて動きを封じた!
戦いが苦手とはいえ、リベンジャー達との激戦を経験したセラフにとっては、下級妖怪などもはや敵ではない!「これでトドメ」と言わんばかりに、片輪車に向けて番えた矢を、力一杯に引き絞りつつ理力を送り込む!やがて矢が貯えられる限界を迎え、理力をバチバチと散らせた!
「スキヨ~!」 〈帰ってきて!〉
「スキヨ~!」 〈帰ってきて!〉
「スキヨ~!」 〈帰ってきて!〉
「えっ!?」
妖怪の声を聞いたセラフの動きが止まる。今までとは違う声。「スキヨ」は片輪車から直接発せられているが、〈帰ってきて〉は片輪車の周りから聞こえる。妖怪本体の意思の他に、妖怪を守っている別の意志がある?戸惑った隙に、片輪車は全身から炎を発して蜘蛛の糸を焼き切り、セラフに体当たりをした!
「きゃぁぁっっっ!!!」
「マユッ!」 「敵を目の前にして、何を戸惑ってるばるかっ!?」
セラフは弾き飛ばされて地面を転がり、ゲンジがセラフ庇うようにしてフォローに入り、バルミィが右手甲のジェダイトソード(レーザー剣)を振るって片輪車を退ける!ゲンジが片輪車に突進をしようとしたその時!
「待って、紅葉っ!ミーメさんも攻撃をやめてっ!」
背後からセラフがゲンジの腕を掴んで突進を止めた!ゲンジだけでなく、声を聞いたバルミィも驚いてセラフの方に振り返る!その間に、片輪車は闇の霧化をして、空気中に溶け込むようにして消えてしまった!
「ん~~~~~・・・逃げられちゃった」
妖怪の気配は完全に消えた。ゲンジ、HAバルミィ、セラフが、次々と変身を解除する。何故、麻由は、片輪車への攻撃を躊躇ったどころか、庇うような事をしたのか?紅葉とバルミィだけでなく、真奈も呆気に取られている。
「麻由っ!どういう事か説明して欲しいばるねっ!
まさか、また、提灯や田んぼ妖怪の時みたいに
『妖怪の望みを叶えたい』なんて甘い事を考えてるばるか!?」
「私も、バルちゃんと同意見だよ!」
「どぅしたの、マユ?」
妖怪に街中で散々暴走されたあげく、場当たり的な情緒で戦いを止められて、しかも逃げられてしまった。当然、バルミィは不満だ。紅葉や真奈も同じ気持ち。3人は麻由の発言を待つ。
「た、確かに、依り代の思いを叶えてたい意志はあります。
あの妖怪には“本体の声”以外に“もう一つの声”がありました。
“もう一つの声”は“妖怪本体の声”と繋がっていました。
“妖怪本体の声”に応えたいのに、応える事の出来ない嘆きが、
依り代の闇を増幅させていました。
おそらく、いくら片輪車と戦っても
“もう一つの声”を解消しない限りは、倒す事は出来ません。」
「どう言う事ばる?」
「ん~~~・・・ァタシ、マユの言ってんのが、ちょっと解ったかも。
“もう一つの声”と“妖怪本体の声”ゎ、
真奈とジャンヌの関係みたいな感じって事だね?」
「そう言う事です。
それぞれが別々なのですが、表裏一体で、繋がる事で強くなる・・・
そんなイメージです。」
「ばるっ!前に、麻由がリベンジャーの本を読んだ時に言ってたばるね?
召喚主を先に倒せば、リベンジャーは存在を維持できなくなるって・・・。」
今回の妖怪は下級クラスのザコだが、単純に“倒して終了”の今までとは違って、少し複雑な状態らしい。しかも、依り代を破壊して、念が溜まらない状態にすれば妖怪は実態を維持出来なくなるが、麻由は“力業”を望んでいない。
紅葉&バルミィは、麻由の甘すぎる考えに納得をしたわけではないが、どのみち、妖怪が消えてしまったので何も出来ない。
「あっ!やっべぇ~!利幕町に自転車を置いて来ちゃったっ!」
「ボクが自転車の所まで送っていくばるよっ!」
「それでは、私と真奈さんは、これで・・・」
「バイバ~イ!また明日ね!」
「んっ!また明日っ!ふぇ~・・・お腹減っちゃった」
「まだ食べるばるか?」
「大技使ったら、一瞬で消耗だょっ!」
「私も同じです。それではお疲れ様」
紅葉を背に乗せたバルミィが空を飛び、麻由と真奈は、雛子やザック部隊に挨拶をしてから、自宅に向かう。
立ち止まり、背後を振り返る真奈。まだ、片輪車を倒せたわけではないし、ヌリカベも何処かに存在をしている。妖怪が2匹も同時に存在するなんて驚いた。
片輪車は「すきよ」と叫んでいた。今朝、センキチとぶつかった時に、「半田さんを独り占めしたい」って声が聞こえた。妖怪の事は、よく解らないが「すきよ」とは、告白ではなく、好代の事で、もしかしたら「半田さんを独り占めしたい」って声とも関係しているのだろうか?
「まさか・・・ね。
朝の声だって、空耳なのか何なのか解らないんだから、そんなワケないか」
真奈は、「妖怪退治の専門家ではない私に解るわけがない」と脳内で直ぐに否定して、数歩先を歩いている麻由を追い掛ける。




