スキューバとスケボーとドローン
3人の容疑者を確認、調査は本格的に。盾原の鋭い洞察力が容疑者達の心を揺さぶる!
〇相模原ABCマンション・7階共用廊下
廊下の壁を背にして横一列に並ぶ3人の女性。3人とも悲しそうな顔で俯いている。
左から、体操教室講師の犬飼弥月(37)、スポーツ用品店勤務の柏萌奈(40)、探偵事務所勤務の千堂沙良(31)。
シバ「…ここにいるお三方は被害者とどんなご関係で?」
名倉「もう一度 犬飼さんから順にお願いします」
犬飼「…601号室の犬飼です 氷見秋さんと交際してました……」
犬飼「…………」
犬飼が何もしゃべらなくなり、
名倉「では柏さん そして最後に千堂さん…」
柏「702号室の柏…磐瀬さんと大学時代同じサークルの後輩で…とても優しく頼れる人だった…」
千堂「801号室の千堂です…磐瀬さんの元同僚で署に勤めてた頃 よく面倒見てもらってました」
犬飼達三人に怪訝な視線を送る盾原。
盾原「ほう?なぜあなた方三人は今になって磐瀬さんとの関係性をカミングアウトする気に?」
盾原「事件発生から1時間以上経ってますよ?」
盾原に食ってかかる勢いで、涙ながらに反論する犬飼。
犬飼「だって!!パトカーのサイレンがやたら聞こえてたけど氷見秋さんが死んだなんてついさっき知らされたから仕方ないじゃない‼」
泣きじゃくる犬飼に追従するかのように柏と千堂も続く。
柏「…アタシも犬飼さんと同じでほんの少し前に警察が部屋に訪ねてきて知ったの どうやらマンションの管理人がアタシ達と磐瀬さんの仲をベラベラしゃべったらしく……」
千堂「…私も 磐瀬さんが死んだのをもっと前に知らせてくれたら事件現場のここの部屋に誰よりも早く駆けつけてます!」
柔和な笑みを浮かべ、謝る盾原。
盾原「皆さんの個人的な事情を知らずすみません ですが1つ気になる点が……」
盾原の疑問に名倉が口を挟む。
名倉「――出来すぎた偶然じゃないぞ 探偵 3人の部屋がちょうど磐瀬さんの部屋の真下・隣・真上なのは」
盾原「あっ?耳を疑いますがホントなんですか?」
瑠子「えっ 盾原先生?…701号室の隣の702号室の柏さんの部屋はともかく どうして犬飼さんと千堂さんの部屋が磐瀬さんの部屋の真上・真下だと?」
ドアの部屋番号(701)に視線をやりながら、盾原。
盾原「だってさ このマンションは全階 1フロアに部屋が2つしかない上 部屋番号の先頭の数字は階数で 3桁目の数字は1と2しかない」
盾原「すると犬飼さんの601号室は磐瀬さんの701号室より先頭の数字が1つ下だから ちょうど真下の階になる」
盾原「千堂さんの801号室は701号室より1つ上で真上の階に位置するじゃん!」
瑠子「なるほど わかりやすいです!」
シバ「でも 部屋の位置の状況は……」
名倉が一つ咳払いし、
名倉「亡くなった磐瀬さんはこのマンションの6階から8階までの部屋を所有する…つまり区分所有者だ」
名倉「んで 犬飼さん・柏さん・千堂さんは6階から8階の部屋を磐瀬さんに勧められて入居した 3人ほぼ同時期に」
盾原「だからなのか…」
涙を拭い切った犬飼。
犬飼「それより!氷見秋さんはなんで亡くなったんですか⁉」
柏「そうよ!かれこれ1時間以上捜査してるんだから事件は解決に向かってるんでしょうね⁉」
千堂「まさか殺人ですか?あの磐瀬さんが人に恨まれるなんて……」
3人に責め立てられ、たじろぐシバ。
シバ「いや…殺人だとしてもまだ容疑者は把握できてませんし 密室でしたので自殺である可能性も……」
柏「ったく!なんで曖昧な情報しか言えないの⁉」
盾原「――いえ 容疑者についてはつかめそうです」
名倉「お おい 探偵!」
盾原、自信あり気に言い放つ。
盾原「間違いないです!!あなた方三人はSNSのアカウントで磐瀬さんと繋がってますよね?」
盾原「もしそうならばあなた達を容疑者としてみるべきです!」
柏「はぁっ⁉確かに磐瀬さんとアタシ達 アカウント共有してるけどなんでそれだけで容疑者なの⁉」
盾原、手を大きく広げて怪しげな笑みを浮かべる。
盾原「リビングにあったウェブカメラなんですが‼」
盾原「カメラの映像に死ぬ間際 磐瀬さんがスマホでメッセを受け取ってる場面が映ってて その直後 磐瀬さんはバルコニーに向かい 飛び降りました!」
静かに反論する千堂。
千堂「…そのメッセ 送ったのが私達とは限らないじゃないですか」
盾原「いいえ!転落死した磐瀬さんのスマホがまだ見つかってません」
盾原「ということは犯人が殺害後か前に 磐瀬さんのスマホを奪った証拠です!」
盾原「となると該当するのはこのマンションの住人で尚且つ磐瀬さんとSNSで繋がってるあなた方三人しかいません」
盾原「まあこのマンションでほかに磐瀬さんと繋がりが深く SNSのやり取りをしてる人を捜しても時間の無駄だと思いますが」
沈黙に包まれる共用廊下。
犬飼&千堂「…………」
柏「…ッ!」
盾原がにこやかにほほ笑み、
盾原「では皆さんの部屋を順番にチェックしてもよろしいですね?」
犬飼「部屋をチェックって…?家宅捜索ってこと?」
千堂「捜査令状がないから強制は無理よね?」
柏「ていうか何も出てこなかったらどうすんの?」
盾原「ご安心を 確認するのは各部屋のウォークインクロゼットとリビング・バルコニーだけで十分です」
盾原「何もヒントが出てこなかったらあなた方三人を強く疑ったお詫びとして土下座でもなんでもします!」
黙って顔を見合わせる犬飼、柏、千堂。
〇相模原ABCマンション601号室・ウォークインクロゼット
盾原がドアを開ける。両脇にぎっしりと並ぶ洋服を盾原と瑠子がじっくりと観察する。盾原の背後にはこの部屋の住人の犬飼弥月。
盾原「流行りものの服が多いですね」
犬飼「…あまりジロジロ見ないでくれます?」
奥の棚にスキューバダイビングセット。
盾原「…ん?ほう珍しい」
空気が満タン状態のタンクを両手で掲げる盾原。
盾原「スキューバおやりになるんですね?」
犬飼「ええ 長年の趣味で…」
瑠子「でも 犬飼さんの交際相手でもある磐瀬さんのクロゼットにはスキューバの道具ありませんでしたね?」
犬飼「だって…スキューバデートする際 氷見秋さん 私と違って毎回道具をレンタルしてたので」
〇相模原ABCマンション601号室・リビングダイニングキッチン
リビングの真ん中に小さいクッションソファ、それと向かい合うように左手の壁際には小型液晶テレビ。
盾原「あまりものが置いてない簡素なリビングですね…ベッドもない」
犬飼「私 布団を敷いて寝る方なんです」
盾原「…ん?」
盾原、リビングの隅に折り畳んで重ねて置かれたマットを発見。
盾原「4メートルぐらいのマットですね 4枚もありますけど何に使うんですか?」
犬飼「私個人で使う練習用の体操マットです 生徒達の前で技を披露するんで」
瑠子「生粋の体操講師なのですね」
盾原が掃き出し窓を開け、
盾原「バルコニーもチェックしま~~す」
上階のバルコニーを見上げる盾原。
盾原「高さは3メートルぐらいか…」
バルコニーの柵に視線をやり、
盾原「……にしても何も置いてないな」
〇相模原ABCマンション702号室・ウォークインクロゼット
両脇に洋服やビッグシルエットTシャツ、パーカーが並ぶ。
柏「言っとくけどアタシの部屋見ても 特別に変わったものなんにもないから」
盾原「見てみないとわかりませんよ…おっ?」
奥の棚にスケートボードが飾られている。
盾原「スケボーおやりになるんですね」
柏「小学生の頃からね 今はたまに姪っ子にレクチャーしてるわ」
瑠子「磐瀬さんはスケボーの方は?」
柏「やるわけないでしょ ガラにもない」
〇相模原ABCマンション702号室・リビングダイニングキッチン
リビング中央あたりの左の壁際にテレビスタンド、それと向かい合うように設置してあるテーブル付きのリクライニングソファ。
柏「どう?何かおかしいところでもある?」
盾原「えーっと…」
反対側の壁際には、花瓶やウィスキー瓶がまばらに置かれたディスプレイ棚。
盾原「現時点ではないですね……」
バルコニー側の窓際にフロアベッドが配置されている。
盾原「んじゃ バルコニーをチェックしますね」
柏、険しい表情で盾原を制止させる。
柏「ちょっと入らないでよ!!まだ干してる洗濯物あるんだから!」
急いでバルコニーに出る柏。
盾原「…仕方ないね 瑠子ちゃん調査頼むよ」
瑠子「了解です!」
洗濯物を取り込もうとする柏の傍らで、瑠子が右隣のバルコニーに視線を向ける。
瑠子「バルコニーパーテーション……」
柏「…言っとくけどそのパーテーションがある限り 磐瀬さんの部屋のバルコニーに侵入するのは無理だからね」
顎に手を添え、考え込む瑠子。
瑠子「ふーむ 無理難題……」
〇相模原ABCマンション801号室・ウォークインクロゼット
両脇に洋服やパンツスーツが並ぶ。
千堂「…あのっ こんな時に言うのもなんですが 盾原さんが警察と一緒に捜査してるのはそれほど優秀だからですか?」
千堂「…未熟者ながら羨ましいです…」
フッと笑みをこぼす盾原。
盾原「優秀なのは事実ですね 俺は幾多の事件をすべて解決に導きましたから」
盾原「でも当然ながらちゃんとした信頼関係も築かないといけません 言うなれば捜査中に人を見下す態度は慎むよう徹底してます」
盾原「俺は探偵+警察で事件を捜査しているスタンスを常に心掛けてますので」
瑠子「立派でしょ?盾原先生はとても堅実で洗練された名探偵なのです!」
千堂「へぇ……」
盾原がクロゼットの奥に目を向ける。
盾原「おっ すごいな」
奥の棚に大型ドローン。
盾原「最新鋭のドローン!カメラの性能もよさそうですね!」
千堂「買ったばかりの最新式なんです 探偵業に就いてからドローンが欲しくて先週奮発して買いました」
瑠子「張り込み調査とかに便利ですね!」
〇相模原ABCマンション801号室・リビングダイニングキッチン
リビング左手の壁際にオールインワンPCを載せたパソコンデスク。窓際まで敷き詰めた広いカーペットの上には、テレビボードと向かい合うソファベッド。
千堂「一応忠告しときますが パソコンの中身は同業者とはいえ見せられませんからね」
盾原「わかってますって 瑠子ちゃん バルコニーを」
瑠子「了解です!」
バルコニーに出た瑠子。
瑠子「プランターが並んでいますね…」
瑠子、大声でリビングにいる盾原に報告する。
瑠子「植えてあるのはマリーゴールドです!盾原先生‼」
盾原「オッケー!んじゃ 被害者の部屋に戻りますか」
盾原「そろそろ補給の時間だし!」
〇相模原ABCマンション701号室・リビングダイニングキッチン
ダイニングテーブルの椅子に座り、膝の上に載せたバスケットの中のお菓子、ラングドシャをむしゃむしゃと頬張る盾原。
盾原「ラングドシャ イケるね‼シバくんも休憩して一緒にど~だい?」
瑠子「最高級品の焼き菓子ですよ!おいしくて頭も冴えて一石二鳥です!!」
シバ、リビングのストレートソファーに座ってうなだれる。
シバ「お約束の時間ね…糖質不足でわがまま言うよりかはマシだけど……」
盾原「「お約束」…?ああっ 忘れてた!!」
ボイスパーカッションを瑠子が披露し、その横でフィンガーシンバルを奏でる盾原。
瑠子「♪♪♪♪♪……」
盾原「ナイスボイパ‼瑠子ちゃん‼」
さらにうなだれるシバ。
シバ「お菓子の次は隠し芸…勘弁してよ……ほかにやることないの?」
リビングダイニングキッチンのドアを開けて、中に入る名倉。
シバ「はっ!ちょうどよかった 名倉警部‼」
シバが強い目で、
シバ「あのリア充アピールしてる探偵コンビにガツンと一言お願いします!」
名倉「…なんの時間帯だ?一体……」
シバの上着の右ポケットからスマホの電話着信音。
シバ「出ますね…」
スマホを耳に当てながら、
シバ「…あ どうも はい…管理人室ですね……」
通話を終えたシバ。
シバ「警部!すぐに1階の管理人室に向かってください 確認したいことがあるそうです」
名倉が不満げな顔で、
名倉「おいおい 今 地下駐車場から戻ってきたばっかなんだぞ…シバが代わりに行ってくれよ」
盾原を横目に見ながら、
シバ「…そうしたいところですが 私は管理人に一度も会ってないのでここは警部が行くべきでしょ…」
後頭部を掻きながら、
名倉「あーっ 1階までショートカット出来たらな!」
盾原が名倉の言葉に過敏に反応し、
盾原「「ショートカット」⁉」
名倉「冗談だよ 冗談」
バルコニーへ駆け出す盾原。
瑠子「先生?」
盾原、バルコニーの柵に手を突いてニヤリと微笑む。
盾原「なるほどね!警察や探偵の盲点を突く大胆不敵な殺害トリックってワケか!」
盾原の背後に、シバ。
シバ「もしかして事件の謎が全部解けたとか…?」
盾原「シバくん…被害者のシューズってあまり汚れてなかった?」
シバが警察手帳を開き、
シバ「ええ 外履きのシューズというよりかまるで内履きのように 砂や泥は付着してなかったです」
盾原「やったね!俺の見立て通りだ‼」
盾原永海の土下座は正直見たくないです(笑)。




