表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

4 母・プレア

 突然のモイラの訪問の翌朝、空は晴れ渡り澄み切っていた。

 

 「モイラさんが落ち着いたら、こちらに来てもらうように伝えてください」

 言辞(げんじ)は、使用人に伝えた。


「はい、旦那様。お呼びしてまいります」

「着替えは、家にある物で大丈夫だよね?」

「はい。お客様用のは用意してありますので、それを使って頂くつもりです」

「じゃ、それで」


 そして、私達はリビングで待つことにした。


「旦那様、奥様。お連れしました」

言辞(げんじ)様、リリィ様。お気遣いありがとうございます」

 モイラはにこやかな顔でリビングに入って来た。

「どうぞ、ささ。こちらに」

 言辞(げんじ)が席に案内する。

「失礼します」

 静かにモイラは腰かけた。


「リリィ様。緊張しておられます?」

 モイラが話しかけてきた。

「い、いや。別に」

 私は、その様に返事をした。

 しかし、そんなに緊張して見えるのかな?

 

「あの。今までは、どこに居たのでしょうか?」

 言辞(げんじ)が尋ねる。

「まあ、アチコチと。支援者の方を頼って移動しておりました。私が襲われるという事はないと思っておりますが、()()()()()()()がありましたので」

 淡々とした表情で答えるモイラ。


「”前の国”が倒れて”帝国”が樹立したと聞いた時は、どうなることかと心配でございました。最悪の事が起きてしまうのではないかと」

 モイラは語る。

「最悪?」

「すいません。これも、皆様が来てからが良いですね」

 微笑みながら、言辞(げんじ)の問に答えないモイラ。

「先ほど申しました()()()()()()()ですが、明日にはこちらに届く手はずとなっています。その時は、取り次ぎをよろしくお願いいたします」

「ええ、見張りの者にも伝えておきますよ」


 私は、自分の母親の事について聞こうと考えた。

「わた……」

 急に私が話しだしたので、同じタイミングで二人が私の方を振り返る。

「!」

 その振り返り方に、私は少し戸惑った。

 

「何でしょうか? リリィ様」

 とモイラ。

「私の母親は、本当にプレア何とかという人なのか?」

 目をキョトンとするモイラ。

「ええ。プレア様です。”前の国”の聖導会の偉大な大神官です」

 モイラは嬉しそうに答えた。

「そ、そうか」


 うう。この後、何を聞けば?


「すいません。私達も不勉強なので、”前の国”や聖導会や帝国などの歴史に詳しく無くて」

 と言辞(げんじ)

言辞(げんじ)様は、異世界から来ていらっしゃるし、リリィ様も出自を隠さなければならなかったのでやむを得ない事です」

 モイラが答える。

「今やっと、落ち着いたところでしょうからね」

「ええ、そうなんです。モイラさん」

「そのあたりの話も、皆様が来てからお話しましょう。理由は、”人外”という怪物が、常にプレア様を狙っていたのがあるのですからね。その娘がリリィ様である事を、なるべく隠しておきたかったのでしょうから」

「そう、なんですね」

「ええ、言辞(げんじ)様。誰も、悪意があって話さなかったのではないと思っています。あれを見て、正気保つのは大変かと思いますので」

「そんなに」

「ええ。そうですね」

「見たことがあるんですか?」

「……。はい。プレア様と一緒に、最後に対峙した時に」

「そうなんですか?」

「はい」

「他の神官の皆さんも大丈夫だったのでしょうか?」

「常に覚悟をしておりますので。騎士の皆様が戦いに備えるようなものです」


 言辞(げんじ)は、私の代わりに色々とモイラに尋ねる。


「リリィ様」

「ん? 何だ?」

「こうして改めてお顔を拝見しますと、リリィ様のお嬢様だと実感しますわ」

「お、お嬢様なんて」

 お嬢様と呼ばれるのは初めてだ。

「私の顔。そんなに、母親に似ているか?」

「ええ。そっくりです。やっぱり親子なんですね。外でリリィ様の御顔を拝見した時、『ああ、プレア様は、幸せな時を過ごせたのだな。希望を繋いでくださったのだ』と実感し、嬉しく思いました」

「そ、そうか」

「ええ、そうです。リリィ様。良くぞ、良くぞ無事に生きていて下さいました」

 そう言うと、モイラは目に涙を浮かべた。

「え? 急に泣くなよ」

「モイラさん。大丈夫ですか?」

 ほら、言辞(げんじ)も慌てているじゃないか。

「すいません。取り乱しまして」

 モイラは、綺麗なハンカチを取り出して涙を拭いた。

「小さい頃は知らない。だけど、暗殺者として生きる様になった頃には、私は自分で自分の身を守れるくらい強くなっていた。そんな心配は無用だ」

「ええ、存じております。”冥府の舞姫”とお呼びされていたんですよね」

「お呼びされてって。まあうん、そうだ。そんな風に呼ばれていたな」

「それとですね」

「なんだ?」

「剣を突き出された時、プレア様も同じような御経験をされていたのを思い出しました」

 とモイラ。

「あ、あれは、済まなかったな」

 自分でもわからない行動だった。

 何故、あんなに警戒しなけえればならなかったのか?

「って言うか、同じ様な目に私の母親も合ったのか?」

「ええ。それも2回もですよ」

 そう言うと、モイラはニコリと笑う。

「剣を突き出されても、プレア様は恐れもせずに向き合っていらっしゃいました。何と気の強い方なのだろうと私は思いました。あの頃が懐かしいです」

「そ、そうか」


 こんな風に、母だというプレアについて、私達はモイラから話を聞いた。

 流石に親方様も、神官見習いの頃の母プレアの事についてまで知らないだろう。

 だから、モイラは沢山話してくれた。


 お転婆だったこと。

 転移が得意だったこと。

 あ、転移(これ)は秘密らしいけど。

 一緒に連れまわされて、色々と小さな冒険をしてきたこと。


 言辞(げんじ)は、我が母の武勇伝を聞いて、腹を抱えて笑っていた。

 私は自分の母親だと聞いた後なので、その武勇伝に対しては複雑な心境だ。

 

 そして、”人外”には、断固とした態度で一歩も譲らなかったことを。

 その”人外”の一匹を、撃退してしまったことも。


 それから、当時の”前の国”では、その国の人達から孤立させられていたことを。

 殆どと言っていいほど、誰も守ってくれていなかったことを。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をエイッと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!

執筆の励みになります。ぜひよろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ