3 モイラ・フルロス
「改めまして、”前の国”では、聖導会従者神官しておりましたモイラ・フルロスと申します。リリィ様の母上様であるプレア様にお仕えしておりました」
モイラは丁寧に頭を下げて名前を名乗った。
「はい。こちらこそ始めまして。僕は、枇々木言辞と申します。ご存じと思いますが、リリィの夫です。どうぞ、よろしく」
「はい。存じております。こちらこそよろしくお願いします」
そう言うと、モイラはニコリと笑った。
「あの、モイラさんには、色々聞きたいことが沢山出来まして」
言辞が言う。
「はい。そうでしょうね」
「モイラさんの事は、幾つか聞いてました。ずっと、大神官だったリリィのお母様の下で補佐をされていたと」
「はい、その通りで御座います」
「今まで何処で何をされていたのですか?」
「ご存じの事もあるかと思いますが、改めてお話しします。国が倒れる前、私は研修の名目で大事な経典を預かり、他国に逃れておりました。国が倒れた時、大神官のプレア様が亡くなられたと聞いた時。身を割く様な気持ちでした」
「モイラさん。リリィのお母さんのプレアという名前は、愛称のような呼び方ですよね?」
「はい。言辞様。プレアと言うのは、あだ名の様な物です。お名前は、”プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム”と申します」
(やっぱり、長っ!)
思わず、口に出そうになった。
「ふふふ。長い名前とお思いですか? そうですね。ですから皆様から”プレア様”と略称でお呼びしておりました」
「あ、いやいや、そんなことは」
言辞が慌てる。
「リリィ様。緊張されてますか?」
モイラが言う。
「い、いや。そんな事ないぞ」
私は強がって言った。
しかし何故、こんな普通の女性神官に、私が異常に緊張するのだ?
「リリィ様は、長らく”人外”達の支配下の影響を受けていたと聞いております。恐らく、それのせいかと思います」
「え? ”人外”?」
言辞が尋ねる。
「まあ。”人外”と言う名は、初めて聞く名前でしょうか?」
「はい」
そして、言辞は私に尋ねてきた。
「リリィも知らないよね?」
「う、うん。知らないな。親方様からも、聞いたことが無い」
親の事について、親方様に尋ねる事はしてこなかった。
帝国時代の暗殺者の子達は、みんな孤児だ。
だから、私の親の事に付いて、親方様は詳しく話すことが無かった。
恐らく知ってはいるだろうとは思っていたけど、私も遠慮した。
尋ねても、答えてくれなかっただろうし。
「弱りましたね」
とモイラ。
「私から全てを、どこまで話して良いのか? その親方様も理由があって、リリィ様に話されなかったことでしょうから」
困った様子のモイラ。
「モイラさん、ちょっと待っていてもらえますか?」
言辞が言う。
「はい。構いません」
とモイラ。
「リリィ、ちょっとこっちに来て」
言辞は、私を連れて応接室の外に連れ出した。
「ねえリリィ。フェイスを呼ぼうか? フェイスなら王子としての立場で知っている事を、話してくれるかもしれない」
「そうだな。フェイスは一応王子だしな。そうだな」
「よし、じゃ呼ぼう。モイラさんには、しばらく屋敷に泊まってもらおうか? 良いよね?」
「うん。言辞が、それで良いのなら」
しかし、私は一抹の不安を感じ、言辞に伝えた。
「フェイスは良いけど、ローズには黙ってよね? ローズが来るとみんなに伝わる」
「あはは。そうだね。フェイスだけに伝えて来てもらおう」
ローズが来れば、根掘り葉掘り聞くに違いない。
目をキラキラさせて。
「モイラさん、私達を助けてくれた方で、フェイスと言う方がいます。その人にも来て話を聞いてもらって良いでしょうか」
「はい。構いません。サーフェイス殿下の事ですね?」
「え? ご存じだったのですか?」
驚く言辞と私。
「ええ。お二人の小説も読ませていただきました。その本の出版にリンド皇国の皇太子殿下が関わっているとお聞きしておりますので」
「あ、いや、あの小説は……」
私は、ポッと顔が熱くなった。
私の顔を見て、モイラはまた微笑んだ。
「なるほど、殿下の事もご存知と。でしたら話が早いですね。では、モイラさん。この屋敷でしばらく滞在する事はできますか?」
「はい。野宿は流石に体に堪えるので、泊めていただけるのならよろしくお願いいたします」
「いやいや、野宿をさせるだなんてとんでもない」
使用人さんに言辞は声を掛け、空いている部屋に案内させた。
「リリィ。親方様にも伝えた方が良いよね?」
と言辞。
「いや、フェイスの話を聞いてからにしたい」
私は、親方様へは遠慮もある。
後回しにしようと提案した。
この日私達は、私の出生の秘密を知っているであろうモイラ・フルロスに出会ったのだった。




