16 ややこしい家族
「ふふふ。随分賑やかでしたですわね。リリィ様」
モイラがニコニコしながら言った。
「うん。メイが友達になってくてたお陰で、だいぶ助かってる。私は女性としての常識無いからな」
すると、モイラも答える。
「まあ。そう言われますと、私も普通の女性としては、リリィ様の御役には立てないですね」
「そうかぁ。ローズは、将来の皇后様だからな。普通の女性としては頼りにならん」
「まあ、それは大変でございますね」
そう言えば、二人とも女性としての、まともな人生を歩んでこなかったのだなぁ。
「なあ、モイラ」
「何で御座いましょう?」
「私が、モイラに剣を突き付けた時の事、覚えているか?」
「ええ、鮮明に」
ニッコリと笑顔で答えるモイラ。
「いや、あれはな。直感的になんだが、モイラが恐ろしく感じたんだ」
「まあ、ただの女性神官の私にでしょうか?」
「うん。それはな」
「はい?」
「初めて会った時は分からなかったんだがな。その後、モイラと色々話して来て分かって来たんだ。大切な人を何人も目の前で見送っても尚も使命に準じる姿が、戦士のそれに似ているように思えたんだ。油断してはいけない人だと」
「そうですか、初対面だったのに?」
「それを直感的に感じたんだ。モイラに今まで辛くはなかったかと聞くのも野暮だけど、良く耐えて来たな」
「……。ありがとうございます」
モイラは軽く目を伏せて、お礼をした。
「従者神官って、大変なんだな」
「はい。そうですねぇ」
ニコニコしながら答えるモイラ。
「でも、こうしてリリィ様とガルブンクルス様の幸せな御姿にお会い出来ました。決して辛い事ばかりでは御座いませんでしたよ」
「うん。そうか」
「剣を突き付けられた時は、確かにビックリしましたけれども、懐かしくも思いました」
続けてモイラは言う。
「プレア様と同じ気持ちを体験できたことを、少し嬉しく思いましたよ」
「へえ。そうか」
妙な事で感動するんだな、この人は。
「では、私もここで失礼いたします」
夜も更けて来たので、モイラは帰るようだ。
「うん、わかった。お――い! 言辞! モイラが帰るって」
書斎で小説を書いていた言辞に伝えた。
「あ、はい。今行きますよ」
軽く原稿にメモを残し、言辞がやって来た。
「いろいろお構いできなくて」
言辞が謝る。
「いいえ。リリィ樣をお救い頂けたこと、とても感謝しております。言辞様の書かれた小説のお蔭で、私達は首の皮一枚繋がった状態から挽回できました。そして、こうして平安を取り戻せたのです。決して疎かにしてはいけない仕事でございます」
「僕としては、好きになった人に再び会いたい。ただ、その一心だっただけですよ」
「でも、言辞様は、それの意味する所を知った上で、あの本を書かれて世に出されたのですよね?」
「え、まあ。それは」
と言って私の方をちょっだけ見て、モイラにこう言った。
「何しろ、最初の出会いが暗殺のターゲットでしたからね」
「それは、それは。最悪で御座いましたね」
「全く。こちらの世界では、女性からはこうして告白するのかなと思いましたよ。アハハ」
そう言い、二人して笑っている。
「む――」
少し私は剥れた。
「ごめん。ごめん」
言辞は、慌てて謝ってくれた。
「言辞様。強制的に連れて来られたとはいえ、リリィ様を救って頂いた事には感謝しかありません」
「いえいえ。私の、ひ……、一目惚れなんで」
と、頭をカリカリとかきながら、ほおを赤らめる言辞。
「きっと御二人は、何処かで御約束されて来られたのだとモイラは思いますよ」
「そ、そうですかね?」
不思議がる言辞。
「プレア様の事です。それを察した上で、何かを仕掛けられておられたかもしれません。あの方は、そう言うのが好きな方でしたので。私は、その様に思っておりますわ」
「それは、嬉しいですね。リリィの母上様には、御礼を言わないと」
「では、今日はこの辺で失礼します」
「はい。門の外までお送りします。おい! 馬車の準備をしてくれるよう伝えてくれないか?」
言辞は、使用人にモイラと一緒に来た人達へ伝えるよう御願いした。
「言辞様、ありがとうございます」
馬車に乗るとモイラは小窓を開けて、挨拶をしてくれた。
「じゃ、またな。何かあったら、いつでも来てくれ」
「はい。では失礼いたします」
その言葉を合図に、馬車は出発した。
初めて来る時のモイラは一人で来た。
今日は、何台も警護が付いてる。
モイラの馬車を見送ると、私達は部屋に戻った。
「なあ、言辞」
「何だい、リリィ」
「当面は平和なんだろうけど、私達は大変だな」
「え? 何で?」
「だって、妻は元大神官の娘で元暗殺者。旦那は、異世界人で今まで存在してなかった小説家。息子は、私よりも少し年上だし。父や母はアレだし」
「アレって、失礼じゃないか?」
言辞が笑う。
「もし、”前の国”が平和な国でいられたら、ガルブンクルスは、誰と結婚していたのかな?」
「さあ、どうだろうね?」
「リリィのお母さんのプレアさんだって、”前の国”の王家の方と。もしかしたら、ガルブンクルスはリリィのお兄さんだったかもね。いや、もしかしたらリリィと結婚していた?」
”私と結婚していた?”と言った時、言辞は少し不機嫌な顔をした。
「そうかな?」
「まあ、そうかも知れないってだけだけれども」
「まあ、そうだな」
こうして『ややこしい家族』が誕生したのである。




