15 これから先は
「これから、この子を中心に世界が回るのか?」
私は、モイラに尋ねた。
「はい、リリィ様。そうかも知れません。ですが。その子だけでは、私は無理だと思っております」
「それは、そうだけど」
「……。フフフ」
首を軽く傾げ、意味ありげに笑うモイラ。
「な、なんだよ」
「ガルブンクルス様で、前の国の再建は出来るでしょう。ですが、聖導会も再建しなければなりません。プレア様の御力を継ぐものがいなければいけません」
「何を言いたいのだ?」
「こんにちは――! リリィィィ、いるぅぅ?」
「リリィ叔母ちゃん、遊びに来たよ――!」
これから先の事をモイラと話していたら、急に賑やかな声が入って来た。
メイとオルト一家である。
メイが子供連れで、オルトとやって来たのである。
「リリィが赤ちゃんを道端で拾って来たって聞いたから飛んできたよ」
「んん?」
な、何てこと言うんだメイは?
「おい、メイ。子供達が誤解するじゃないか?」
まずは、母親のメイを注意した。
「それに、私は叔母ちゃんじゃないぞ!」
私は、メイの子供達にも「メっ!」という顔をして厳重に注意した。
「うん。わかった叔母ちゃん」
「わかた」
「……」
説得は、諦めた。
私が、メイの子達と戦っている時に、オルトとメイは親方様とモイラに挨拶をしていた。
いくつかの会話が終わり、メイは私のところにやってきた。
「ねぇ、ねぇ。赤ちゃん見せて! 早く、見せて!」
メイが急かす。
「わかった。わかった。じゃ、こっち来て」
ミルクを飲んで落ち着いたばかりのガルブンクスが寝ている小さなベッドに案内した。
「うわぁー。お目々が真っ赤っ赤だぁ。綺麗ぃ」
子供達がキャッキャと騒ぐ。
「こら――、静かにしなさ――い。やっぱり、リリィと違って髪の毛は金髪なのね。瞳は、ほんとに宝石みたいに赤いのね」
「まあな。私と母は、髪の色は銀色だからな」
3人みんなでガルブンクスを覗き込むメイ達。
「こ、これお前達! リリィ様。も、申し訳ありません!」
大騒ぎするメイ達の後ろで、オルトが真っ青になって詫びている。
「ああはは。大丈夫だ。大丈夫」
と言うものの、ガルブンクスが泣き出さないか少し心配であるが。
「この子、本当にリリィより先に生まれて来た子なの?」
メイが尋ねた。
「ああ、そうだ。私が、『時の狭間?』というところから連れてきた」
「じゃ、やっぱり私達よりお兄さんなんだぁ。へぇ――、なんだか不思議ねぇ。へぇ――」
メイは、キョトンとした顔をした。
「年上と言っても数年しか違わないらしいけどな。体は、御覧の通りチッコイけど」
「そんな不思議なことが出来るんだぁ」
「私も、よくわからない。私の母は、大神官としての力を使いこなしていたらしいが、私は違うからな」
「そうよね。私も難しことはわからないわ。だけど、この子が無事に、この世界に戻ってこれて良かったと思う」
「そうか? あの、やらかした皇帝の子だと言われるのだぞ。それに、育ての親が、その”前の国”が送ってきた刺客に殺されたと聞いたら、普通はグレると思うぞ」
「あはは。すごい経歴ね。でも、そんでへこたれるような子には、育てる気はないんでしょ?」
さすが二人も育ているベテランだな。
切り返しが早い。
「ま、まあ。そうだな。そんな意気地なしに育ったら特訓してやる」
「オルトからは全部じゃないけど、聞いているわ。リリィのお母様が必死な思いで、この子を未来に託そうとしたことを」
「ああ、そうだな。私と違って慈悲深い神官さんだったらしからな。自分の身も守れないから、仕方がなかったんだろう。それに、我が母には、それが出来る力もあったしな。私がその立場だったとしても、そうするだろう」
「そう。そうよね」
「だが、若い頃は、とんでもないお転婆だったらしいけどな」
「ふふふ。元気な方だったのね」
「そうらしいな。モイラが苦労したと私に愚痴をこぼしていたよ」
「あはは。やっぱりリリィのお母様ね。お転婆なんて」
しばらくは、ガルブンクスをあやしながら、オルト達に育て方について色々と尋ねた。
オルトは、子どもの夜泣きに苦労したらしい。
私達の前ではカッコつけてるオルトが、夜な夜な叩き起こされ、子供をあやす姿を想像して少し笑った。
「なあ、メイ」
ガルブンクスをあやしているメイに声を掛けた。
「さっきの話の続きになるが。”前の国”は、この子に再建させるとして、”前に国”にあった聖導会の再建に必要な人がいないと言われた。私に言われても知らんがなと思うんだがな」
「どういうこと?」
私は、リンド皇国皇帝やモイラとの間で話し合ったことをメイに伝えた。
「……。うん、そうね」
メイは、少し考えを整理しているようだ。
「でも、少なくとも大神官としての継承は、親子で継承されるんでしょ?」
「う、うん。まあな。そうらしい。そんな特殊な能力が、血だけで繋がるものかよくわからんけど」
「そう。私も、こうした方が良いと言えないけど。今は」
そう言って、メイは床を見つめていた。
そして、ゆっくりと顔を上げて答えてくれた。
「今は、その子を育てながら、時間をかけて考えてみたら?」
そう答えるメイの表情は、とても柔らかく幸せそうな顔をしていた。
騒がしい母と子達は、しばらく我が家に滞在していた。
そして、夕刻になると、オルトと一緒に帰って行った。




