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14 ただいま。そして、まだ遠く

「ただいま」

 と、私は言辞(げんじ)に帰って来た挨拶を言ったが返事がない。

 言辞(げんじ)は驚いて固まっている。


言辞げんじ。迷ったんだけど、やっぱり連れてきちゃったよ」

「……」

言辞(げんじ)?」

「あ、うん。お帰り」

「みんなどうしたの? ちゃんと帰って来られたのに」

「あ、いや。リリィが帰って来る時の光景が、とても綺麗で。ちょっと言葉にならなくて。……。感動していたんだよ」

「あ、そう。言辞(げんじ)だって、転移でこちらに来たじゃない?」

「うん。あれは、何か機械的な感じがして。リリィが見せてくれた転移から戻って来る時の光景の方が、とても柔らかくて美しくて」


「リリィ様。良く、ご無事でお帰り下さいました。嬉しゅうございます」

 モイラが話に入って来た。

「うん。帰って来られた。行方不明になる覚悟もしてたけどな」

「ええ?」

 ひとり驚く言辞(げんじ)

「当たり前じゃないか。私は、転移なんて使ったことないんだぞ。それに、自力じゃ使えないんだぞ、言辞(げんじ)

 と、私は言った。

「モイラは驚かないんだな。何度も見た光景だったか?」

「ええ、リリィ様。私は何度も。流石に初めて連れていかれる時は、目をつむっておりましたけど」

 そして、続けて言った。

「プレア様の時と同じだったので、とても懐かしかったです」

「そ、そうか」

 そんなに奇麗な光景だったら、自分も見てみたいと思った。

 ただ、自力でできないし、転移している自分からは見る事が出来ないから永遠に見られないんだが。

「もしかしたらですが、プレア様が御力をお貸し下さったのかもしれませんね」

「そうだとしたら、嬉しいな」

 私は答えた。


「良く、無事で帰って来られた。良かった」

 親方様が、お声を掛けて下さった。

「はい。無事に帰ってまいりました」

「うむ。……」

 そう言うと、親方様は少し沈黙された。

「親方様?」

「いや、すまん。お前の母が、最期に転移して来た時の事を思い出してな」

 親方様の目には、少し滲んでいるように見えた。

「あの時のプレアは、お前を抱いていた。まったく、まったく同じ光景で。そして、今度はお前が同じように転移で現れて来た。ただ、お前の母の時は助けられなかったが」

 悲しい目をされた。

「いいえ親方様、母も覚悟の上かと思います。むしろ、最後に親方様と会えて、ホッとしていたと思います」

 守ってくれていた人達が全て死に、自分さえも命尽きようとしてた時。

 最後に親方様と出会えた母プレアは、どんなにうれしかった事だろう。

 お陰で、私も生きているのだ。


「親方様。その時は、私でしたが、今はガルブンクルスを連れてまいりました。この通り元気です」

「うむ。そうか。では、見せてくれ」


 私は、ガルブンクルスを親方様へ見せた。


「うん。元気そうだな」

「はい。何十年もいたのに、年も取らず、お腹も空いていないようです」

「ふふふ。そうか。乳母(うば)の手配は済んでいる。今日の夕刻には到着するはずだ。シャトレーヌが連れて来る手はずだ」

「はい。ありがとうございます」


 そうそう、まだ赤ん坊なので、普通の食べ物が食わせられなかったのだ。

 昨日言辞(げんじ)と二人で相談してたことだけど、既に手配して下さっていたとは。

 流石、親方様。


「モイラ、この子で合っているな」

 親方様が、モイラに確認させる。

「はい、リーゲンダ様。間違いございません」

 モイラは、懐かしそうにガルブンクルスを覗き込む。

 モイラは、ガルブンクルスを見て言った。


「うんうん。あの時と変わらないのね」

 と、モイラは嬉しそうに微笑んでいた。


「あの時って? 転移させた時か?」

 私は尋ねた。

「ええ、そうです。プレア様と私が、泣きながらお送りした時です。その時に着せた服や、持たせたものも全部同じです。あの時の、あの時のままです」

「そうか、使命はこれで果たせたのか?」

「ええ、使命は()()()果たせました」

「ひとつか?」

「はい。まだ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「道のり、長いな」

「ええ、長いですねぇ」

 

 生まれた時から暗殺者として育てられた私は、女性としての感性があまりない。

 大事な人の子を預かり、ちゃんと連れ戻すまでは、母もモイラも気が気でなかったろうなとは想像はつく。

 我が母上が、一か八かで転異空間に預ける事をした気持ちは、どんな気持ちだったのだろう。


「おいガルブレイス。お前、泣かないんだな。お腹空いて無いのか?」

 私達のやり取りを、キョトンとした目で追っているガルブンクルス。


「あ、言辞(げんじ)!」

「何だい?」

「この子、私と言辞(げんじ)より年上なんだよな」

「……。そ、そうだね」


 こうして、私と言辞(げんじ)は、自分よりも年上の赤ん坊を預かり、育てる事にになってしまったわけである。



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