13 「勝利の石」
「ガルブンクスちゃんの瞳は、赤い宝石の様なのか? ルビーみたいだね?」
言辞が言った。
「ん? ルビーって何? それは、赤い色の宝石なの?」
「ええ? 知らないの?」
「知らないも何も、宝石なんて身に付ける様な生活して来てないし」
「あ、それもそうか?」
「貴族が赤い色の石を身につけていたな。あれがそうだったのか?」
そして、言辞が悩み始めた。
「宝石かぁ? 僕も気にしてなかったな。家に無いなぁ」
と残念がる言辞。
「それどころじゃなかったからな。それに、私もお洒落なんて縁遠い人種だし」
王女様のローズみたいに着飾ることはなかったしな。
「リーゲンダ様。やはり、これが必要でしたね。用意して置いて良かったです」
とモイラが言った。
親方様は、頷いていた。
「親方様、その中身は何でしょうか?」
すると、モイラは、持ってきた小さな箱を開けた。
そこには、奇麗な赤色で透明な石が入っていた。
「あ、これだ、こんな石だ。これがルビーだよ。ほらっ、奇麗だろ?」
と言辞が言う。
そこには、キラキラと光る、透明な赤い色をした綺麗な石があった。
「へぇ。こんな瞳をしている奴がいるのか?」
「ええ。このような瞳をした人が、この世に二人。ディコ様の母上も入れれば三人おりました」
なるほど、こんな瞳をしていたら、確かに回りは不気味がるだろうなと思った。
しかし私は、その赤い瞳の赤ん坊に会ってみたいと思い始めた。
「それからリリィ様、今まで控えておりましたが、プレア様は、シャトレーヌ婦人に似ておりますよ」
と、爆弾発言。
「え? そうなんですか、親方様?」
私は思わず親方様を見た。
「まあ。少し、……。似ているかな」
気難しそうな顔をして、ボソリと御答えになる親方様。
それで。それで親方様は、シャトレーヌが結婚する気になったのか。
私はやっと納得がいった。
「リリィよ、これで何とかなるのではないか?」
親方様が尋ねられる。
「はい。会って見たくなりました。こんな目をした赤ん坊って、どんな子なんだろうと」
「そうか、物理的な距離じゃないんだね。そうか、そうか」
と言辞が一人勝手に納得している。
そして、私と親方様は、転移を行う為の準備を始めた。
「では、今一度行うぞ」
「はい! 親方様。お願いいたします」
親方様にも強い影響を与えた銀色の髪をした我が母上。
終焉の大神官と呼ばれた人、プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルム大神官。
その母上が、身を切る思いで隠した赤ん坊。
そして、その恩人で前大神官代理のアクス・マグネティカ。
金色の髪の綺麗な人らしい。
私達の敵でもあるが、カルブンクルスの父親で、同じ赤い瞳を持つデュコ・アウローラ・ステルラ。
恐らく母であろう、アクスの金色の髪と父と同じ赤い瞳の赤ん坊。
金色の髪と赤い瞳の子。
その子に、猛烈に会いたくなった。
宝石のような目をしてるって、どんな赤ん坊なんだろう。
不気味なのか? そうでないのか?
「リリィに、命じる。転移の力を使い、カルブンクルスの所に向かえ。そして、ここに連れて戻れ」
意識が遠くなっていく。
「ハイ。カシコマリマシタ」
そして、再び私は意識を失った。
「……。リ……。……ィ――! リリィ――! リリィ――!」
遠くから女性の声がする。
「こっち。こっちよ!」
「誰? 何なの? 今、わたし、忙しいの」
と私は答える。
誰が私の方に手を伸ばしてきた。
「これ、誰の手だ?」
おかしいな。
モイラは、屋敷に居るはずなのに。
しかし、このままじっとしている訳にもいかないので、私はその手を取る事にした。
その手を引かれながら、光の中を私は進んで行った。
辿り着いた先には、小さな籠があった。
その中に、眠っていたのは赤ん坊だった。
その子は、幸せそうに寝ている。
とてもスヤスヤと寝ている。
気持ちよさそうに。
その寝姿を見て、私は少し迷った。
元の世界に、連れてこない方が良いのではと。
連れ戻したら、この子はきっと言われるだろう。
あの皇帝の息子だから、お前も同じ事をするのだろうと。
お前の母は、誰なのだと。
敵対してた女性の娘に育てられて、お前は平気なのかと。
「でも、私達と関わり合ったからには、もう諦めてもらうかないね」
私は思い直し、その子を抱き上げた。
抱き上げられて、目を覚ます金色の髪の子。
見開いた目は、赤い瞳。
「間違いない。ガルブンクルスだ」
母親かもしれないアクスという大神官代理も、金髪の綺麗な女性だったという。
会った事はないが、皇帝のディコというの目が、この子と同じ赤い瞳だったらしい。
「良し、家に帰るぞ。ガルブンクルス」
私は、ガルブンクルスの赤い瞳に語りかけた。
キョトンとした目で、不思議そうにガルブンクルスは私を見ている。
元来た道へ引き返そうとして、私の手を引いた奴を確認しようした。
でも、もうそこには誰もいなかった。
「えっと。このまま、元来た方向に進めば良いのかな?」
私は、来た方向に向かって進むんだ。
歩くと言う感じではなく、フワリと飛ぶように。
そして、そこには眩い光の渦が広がっていた。
私とガルブンクルスを中心に、光の渦が出来る。
金と銀と白と黄色、それらの光が入れ替わり、時に互いに混ざり合い、渦を巻く。
ここに来た時は意識を失っていたから、見なかった光景だ。
「転移って、こんな風に奇麗な感じで移動してたんだな」
力強く、優しい風が周りに広がり、その光の渦に私達が包まれて行く。
見慣れた屋敷の庭が見えて来た。
「あそこだな」
私は、そこに着地しようとイメージする事にした。
そして、しっかりと足が地に付いたことを確信した時、周りの光の渦が少しづつ薄くなっていく。
そこには、言辞、親方様、モイラの姿が見えてきた。
無事に、戻って来られたんだ。
言辞が、やけにビックリした目をしている。
あ、親方様は?
親方様は、目に涙を浮かべられていた。
初めて目にする、親方様の涙。
そんなに、心配かけたかな?
モイラは、散々見慣れた光景だったのだろうか、懐かしそうな顔をしていた。
私とガルブンクルスは、光と共に姿を現わしたのだ。
周りを見回し、手に抱いたガルブンクルスを確認した。
私をじっと見ているガルブンクスがいた。
良かった、ちゃんと連れてこれたな。




