12 奇麗な赤い宝石の様な瞳
「イメージって、行きたいところへの?」
「はい、リリィ様」
「屋敷の外なんていつも見てるのに。出来なかったよ」
「そうでございますね。う――ん。プレア樣は最初の頃、宿舎から抜け出す為に使われておりました」
「宿舎?」
「はい。少し管理の厳しい所でした。中でもプレア様は、特に大事にされておりましたので、許可なく外には外出出来なかったのです。それで、もともと得意だった転移の力を使いこなされていたのかもしれません」
「ふ――ん」
私は、任務の為ならば何処へでも自由に行けた。
もちろん訓練中は自由など許されなかったが、暗殺の任務は結果が全てだ。
帝国へあだ名す相手に近づく為になら、どこをどう通ろうが自由だった。
「ねぇ」
私は、『カルブンクルス』について尋ねる事にした。
「プレアが預かった『カルブンクルス』と言う赤ん坊は、どんな子だったの?」
「まあ、母上様をお名前で呼ぶとは。他人と同様に呼ばれるのですね?」
そんな事を言われても、私達の仲間は孤児ばかりだ。
そして、闇の仕事という特殊な環境で皆育った。
急に、親がいたと言われても、実感がわかない。
「そうですね」
モイラは軽く目をつむり、そしてゆっくりと顔を上げた。
「カルブンクルス様に初めてお会いしたのは、大神官代理であったアクス様が幽閉されて時でした」
モイラは、懐かしそうな目で話始めた。
「リンド皇国皇帝様から亡命の申し出を受けた時、お母様のプレア様は御悩みになられてました。
申し出を受け入れて亡命するか、このまま”前の国”に留まるべきか。
代行としてのクロス様は、御答えを下さりません。
その権限までは、託されてはいなかったので。
大神官代理としてお勤めされていたアクス様に御相談しに参ったのです。
その時に、お会いしました。」
モイラは、その時用心の為にフライパン等の武器を持っていこうとして窘められたことも話した。
当たり前だよ。
そんなんで、衛兵と戦えないじゃん。
「御部屋に入った時、小さなベッドを見つけました。そこに、カルブンクルス様は寝ておられました。
私達の声で目が覚めたのか、プレア様を私を、奇麗な赤い宝石の様な瞳で見つめて下さいました。
髪の色はアクス様と同じ金色の髪。
とても、可愛らしかったのを覚えております」
幸せそうな顔をするモイラ。
「そこで、アクス様から、この子を預かって欲しいとお願いされました」
「ねぇ。やっぱりカルブンクルスは、あの皇帝の子なの? 前にも聞いたかもしれないけど」
「それには、お答えくださいませんでしたね」
「目の色とか似ているんでしょ?」
「はい。そうです」
「二人とも研修生だったのに、良く引き受けたわね? 私でも、最初に嫌だって答えるくらいのに」
「フフ。そうですね。あの時は何とかするしかないと思っておりました」
すると、モイラの目に、薄っすらと涙が浮かんだ。
「モ、モイラさん。どうされました?」
言辞が心配する。
モイラは、浮かんだ涙を手にした綺麗なハンカチでそっと拭った。
「はい。御免なさい。あの時は二人とも、若い女の子でしたからね。
どうしたものかと、実は途方に暮れておりました。
でも、アクス様からは、これが最後の会話になるという感じがヒシヒシと伝わってまいりました。
次の大神官となるプレア様と、従者神官となる私の最初の使命となるので、避ける訳には参りませんでした」
「そうか、大変だったな」
私は淡々と答えた。
「リリィ。もう少しデリカシーを持って」
言辞から窘められた。
「フフ。リリィ様は、お強いですね。本当にお強い」
モイラが言う。
「ん? 皮肉か?」
少しムッとなった。
「いいえ。褒めております。アクス様もクロス様もプレア様も。そして、私も。戦うなんてことが出来なかったものですからね」
「そうか?」
「ええ。兵士相手にフライパンで戦おうとしていたぐらいですからね」
そう言って、クスクスと笑った。
「私の、母は。……。強かったのか?」
もちろん、騎士や兵士としての強さを聞いているのではない。
モイラは、私の方をじっと見つめ、こう言った。
「ええ。プレア様は、とてもお強い方でした。剣士様の様に戦うことは出来ませんでしたが、大神官としての強さは。その使命の強さは、お傍にいた私から見て、それはそれは凄いものでした。毅然とした態度を取られていて、私は逆に心配でした」
と、モイラ。
「そうか。強かったんだな。我が母上は」
「はい」
モイラは、誇らしげに答えてくれた。




