10 特訓の前に
「リンド皇国の皇帝陛下。リリィ様が転移の力を使える修行を成される間、各地に散らばっていた聖導会の神官達を呼び寄せたいのですが、御許可頂けますでしょうか?」
「このリンド皇国にか? うむ、構わぬ。周辺諸国には、世の方で調整しておく」
「はい。ありがとうございます」
モイラは、深々とお辞儀をした。
「まずは、我が王宮に来させるが良い。滞在する場所は、それから決めよう」
「はい、陛下。ご配慮ありがとうございます。その様に伝えておきます」
モイラは謝意を伝える。
「モイラ樣。大変長い研修でしたね」
フェイスがモイラに言う。
「はい本当に。長い長い研修でした。私達は、みんな身を切るような思いで大神殿を後にしました。生きて他の神官達を会えるとは思っていませんでた」
「それは、それは」
「研修? 身を隠したんじゃ無くて?」
研修と偽る理由がイメージできない私は尋ねた。
「リリィ様。プレア様が、名目だけでもと研修として、皆を送り出したのです。それを押し通せるぐらいの権威は、まだありましたので。それに、プレア様以外は眼中に無かった様なので、相手も見逃してくれたのでしょう」
「へえ。そう」
「きっと、大神官のいない私達では、何も出来ないだろうと見下していたのでしょうね」
と、モイラは静かに答えた。
「父上。早速大神殿の再建の準備を、私の方で勧めておきます」
「うむ、フェイス。そちらの細かい事は頼む」
「フェイス樣、ありがとうございます」
モイラが礼を述べた。
「さて、場所ですが、大神殿のあった同じ場所が良いと思っております。ただその場所は人外達によって荒らされてしまい、正直不安はあります。ですが候補地としては、あの地しかない。他に選択肢がないしね。歴代の大神官が納めて来たそのお力と、"後の大神官"のお力に期待するしかありません」
「フェイス殿下。私も、それが良いと思います。私達元大神殿の神官も納得する事でしょう」
モイラも了承する事を伝えた。
「ねぇ、フェイス」
「え? 何だい、リリィ?」
「"後の大神官"って、誰のことなのだ?」
「えっっと、それは」
フェイスは、言辞の方をチラリと見て私に言った。
「ん――、リリィちゃんが頑張ってみる?」
「じょ、冗談じゃない。私は、大神官の力とやらと真逆にいる人間じゃない。無理でしょ?」
そう言い返すと、フェイスは言辞をまたチラリと見て。
「いや、そうじゃ無くて。……。きっと、良い人が見つかるかもって期待かなぁ?」
フェイスはニコリと笑て答えた。
「……。変な奴だな」
「り、リリィ。今は、その辺で」
言辞が、私を諫めた。
「では、これで引き上げるとするか。リリィ殿、あの戦の後も苦労を掛けてすまぬな。言辞殿も、苦労を掛ける」
「いいえ、陛下。とんでもない」
言辞が改まって応えた。
リンド皇国皇帝は、そう言った後席を立った。
皇后陛下達も後に続いた。
「リリィちゃん、何かあったら呼んでね?」
ローズが帰り際に声を掛けて来た。
「何だ? 魔法の習得の練習手伝てくれるのか?」
「まあ、魔法ですって」
ローズがケラケラと笑う。
「何で笑う?」
「だって、ねぇ言辞」
まあ、魔法じゃないのか?
どうせ、何かにつけてローズもやって来るのだろう。
皇后陛下、皇后陛下、フェイス、ローズ、ガルド達が屋敷を後にした。
モイラも、王宮でのあいさつと今後の計画の話を詰める為、一緒に付いて行った。
「では、明日来る」
「はい。お待ちしております。親方様」
「リリィちゃん。あまり、気張らないでね。気楽にね」
シャトレーヌ婦人が心配してくれた。
「簡単にやってたそうだから、大丈夫だよ」
私は答えた。
屋敷に残ったのは、言辞と私だけとなった。
「……」
「急にしんみりした顔して、どうしたの言辞」
「……。うん。転移の力の事でね」
「やっぱり嫌か?」
「いや、そうじゃなくて。リリィと会えるようにと、リリィのお母さんが呼び寄せてくれたのかなと思えてさ」
「そう。そうだな。きっとそうだ」
「急に静かになって。ちょっと寂しいね」
と言辞。
「そうか?」
私は、一人で闇の中に潜むことなど日常茶飯事だったから気にならなかったけど、そんなものなのか?
「これから、騒がしくなるよ。きっと」
私は言った。
「そうだね。思わぬ形で預かって、子供が一人増えそうだしね」
と、言辞。
「お、そうだな。乳母とか言うの、ちゃんと探してもらわないとな」
「う、うん。……」
少し顔を赤くする言辞。
「どうした? 顔が、赤くないか?」
「え? い、いや。何でもない。じゃ、明日に備えて休もうか?」
「う、うん?」
言辞は、いったいどうしたのだろう?
まあ、良いか。
明日からは、転移の力とやらを身に付ける特訓がある。
親方様が来るから、頑張らないとな。




