1 前触れもなく
帝国は滅んだ。
”前の国”を滅ぼし、”後の国”とも呼ばれた帝国は滅んだ。
フェイスは、残っていた”後の国”の帝国の重鎮達と交渉し、何とか戦いを終わらせたのだった。
フェイスと言う人は、皇太子殿下サーフェイス・ウヒジニ・バルデマーという人だ。
私を帝国から助け出す為と帝国への介入の為に、私達の世界に異世界から連れてこられた言辞(枇々木言辞)に小説と言うものを書かせた奴だ。
言辞は、異世界から転移の実験の為に連れてこられた人だ。
転移前の世界では、小説を書いてたらしい。
残念な事に、売れてなかったらしいけど。
私と言辞は、暗殺者と対象者という関係だった。
出会いは最悪、最低。
この人に、帝国からの暗殺指令が出た。
今思えば、何で暗殺だったのだろうと思う。
それに、選ばれたのは考慮の末とはいえ、この私が選ばれた。
もちろん私は、帝国からの暗殺指令が出たので、いつもの通りターゲットを殺しに行った。
そう、いつもの通りに。
それが、まあ、何と言うか。
運命に振り回されたのかもしれない。
今まで完璧に遂行してきた暗殺を、私は失敗してしまった。
さらには、言辞をリンド皇国に逃してしまうという大失態をしてしまった。
ショックだった。
生涯初の失敗だった。
普通ならリベンジをする所なのだろうが、その時の私はとても変だった。
そんな状態で当てもなく探しているうち、フェイスが書かせ世界中にばら撒いた言辞の小説を手に入れた。
それは”恋愛小説”と言うものだった。
言辞は、ラブレター代わりに書いたという。
こうして、異世界から連れてこられた悲運の若者と、帝国で暗殺者に貶められたヒロインの物語を世界中が注目することになってしまう。
そして、リンド皇国との外交に絡んでの大きな話になって行った。
でも、ちょっと恥ずかしい。
こういったことは、普通は二人だけの間の秘密だろうに。
言辞の馬鹿!
だけど、言辞が私宛に書いた恋愛小説のお蔭で、私と親方様達の状況が一気に変わった。
世界に、闇に落ちていた帝国の現状が広まることとなった。
彼女を何とか助けなければと世論が傾いていった。
建国後の途中から行方が知れずとなっていた”後の国”帝国の皇帝は、今も行方知れずとなっていた。
デュコ・アウローラ・ステルラこと前の国の王位継承・第六王子だった男の行方は、皇国や”前の国”の残党や他の国々で必死に探しているが行方がつかめないでいた。
この男が再び私達の前に現れ、リンド皇国の行為を非難し、停戦を認めないとしたならば再び厄介な事なる。
だが、その心配は今の所必要ないだろう。
リンド皇国を始めとする周辺諸国への脅威がなくなり、人々は取り戻した平和を喜んでいた。
暗殺部隊を送り込まれていた各国の要人達は、皆安堵していた。
その後事は、親方様など”前の国”時代の事を知っている人達から、それらの顛末を私は知ることになった。
私の母の正式な名は、プレケス・アエデース・カテドラリース・ミーラクルムという人だそうだ。
見習いで聖導会神官に入り、大神官になった人だった。
終焉の大神官として呼ばれ、”前の国”の最後の大神官になるだろうと、前任のアクス大神官代理から言われていたそうだ。
ちょっと失礼な人だな、アクスと言う人は。
母の名前は、この時の私はまだ知らない。
親方様が私を庇う為に、そのまま帝国に留まる事を選んで下さったと私は教えられた。
当然ながら聖導会の後継者になるのは無理な話、暗殺者として育てることしか出来なかった。
しかし、私の母親のプレアは、「それでも、構わない」と言ったそうだ。
酷い。
何て母親だろう。
しかも、大神官なのに。
今まで親方様が、こうした話をして下さらなかったのは、帝国建国が建国された頃、”人外”という化け物を警戒してとの事だった。
大神官プレアの力を継承している可能性のある私を、第三者から狙われない様にする為、私の出自を隠して下さっていた。
もちろん、”人外”との取引条件でもあった。
プレアの娘であることを隠すこと。かつ、留まって役に立つのであれば大目に見ようとの事だろう。
アルキナが私に拘ったのも、その「力」を欲しての事らしい。
アルキナと言うのは、帝国暗殺部隊予備隊隊長アールキナーティオ・ディーレクトゥスという奴だ。
帝国に居る時も、何故か付きまとって来て嫌な奴だった。
隊に居る時は、しかたなく我慢していた。
先の戦いでは、その鬱憤も含めて、思い切り引っ叩いて伸してやった。
スッキリしたわよ。
こうして、”前の国”と”後の国”こと”帝国”の方が付いて、私は自分の生まれた時の経緯をようやく知れた。
私は別に気にしてはいなかったが、状況はそうもいかないらしい。
そして、”前の国”や”聖導会”に付いて、これからどうしていこうかとフェイス達が中心に話を進めている。
その様な話が裏で動いていながらも、私達はようやく平和な日々を取り戻していた。
だが、その時。
その人は、私と言辞の住む屋敷に、前触れもなく尋ねてきた。




