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第一部 夜の交差点に佇む、微笑む交通の神様

夜の街の片隅に、

もし少しだけ変わったものがあったら――

そんな想像から生まれた物語です。

気軽にお読みください。

あの像を見つけたのは、新宿の、オフィスビルが立ち並ぶ裏通りの人気のない交差点だった。ごく普通の交通指導員の像――色褪せた黄色い体、少し傾いた小さな警察官の帽子、通る車もないのに白く塗られた手を上げて誘導するポーズ。だが、何かが違った。口元だ。


東京の交通指導員の像はみな、表情が平板で、無機質だ。二十年も昇進の見込みのない公務員のよう。でもこいつは?笑っている。社交的な笑顔ではない。薄っすらとした、ほとんど慇懃無礼な、あやふやな笑みだ。まるで、あなたについてとても滑稽な何かを知っていて、あなた自身のために、あえて教えないと決めたかのような。


気づいたのは、とある厄介な月曜の夜だった。四半期報告はぐちゃぐちゃ、目を瞬きさせるばかりで笑わない上司(仮に田中課長と呼ぼう)からは長ったらしい「改善点」メールが届いたばかり。そして雨が降り出した。情緒的な霧雨ではなく、ズボンの裾をすぐに濡らし、気分をずぶ濡れにするような、うっとうしい降り方の雨だ。


駅に向かってうつむきながら歩き、明日という、今日とそっくりの一日の前に何時間眠れるか数えていた。その交差点で、信号の赤は異様に長く感じた。顔を上げて、像と目が合った。


その笑みに。


「マジかよ」像に向かって呟いた。錯覚に違いない、と思った。薄暗い街灯のせいか、隣の古びた看板の影だろう。だが、じっと見つめても、笑みは消えなかった。それどころか、剥がれかけたペンキの口角が、ほんの少しだけ上がったようにさえ見えた。まるで言っているようだった。「ああ、本気だ。お前の有様が面白くてな」


気にしないようにした。誰にだって悪い日はある。像だって皮肉な顔をする権利はあるだろう。


翌日、オフィスで奇妙なことが起きた。


いつも明るく、母親手作りのお菓子を持ってきてくれる同僚の莉奈が、パントリーで突然泣き出した。忍び泣きではない。コーヒーマシンを震わせるような嗚咽だ。「弁、弁当に…入ってた」と、彼女は息を詰まらせながら言った。


私たちは彼女を取り囲んだ。普段は彼女が楽しそうに食べているアニメキャラの絵が描かれた弁当箱の中、ご飯の上に、小さな旗のように爪楊枝が刺さって立っていた。人参でできたミニチュアの交通指導員の像。目は黒胡椒。そして口元――丁寧に彫られて――あの交差点の像とそっくりの笑みを浮かべていた。


「私が作ったんじゃない!」莉奈は叫んだ。「いつものように駅の下の弁当屋で買っただけなのに!」


黙々と三つの画面を見つめ続ける、物静かなIT担当の裕介が鼻を鳴らした。「誰かの悪戯だな。パントリーのカメラは先週から壊れてる。記録はない」


田中課長が来た。瞬きがいつもより速い。「汚い。不衛生だ。捨てろ。仕事に戻れ。莉奈、大袈裟にするな」。そして去って行った。


しかし、あの人参の笑みが頭から離れなかった。細部が完璧すぎる。こんな早朝に、そんな悪戯をする時間――そして人参を彫る技能――を誰が持っているというのだろうか?


その夜、疲労を凌駕するほどの好奇心に駆られて、僕はまたあの交差点に戻った。像はまだそこにあった。笑みも。だが今、像の足元に何かが置かれていた。莉奈が買ったのと同じメーカーの、空の弁当箱。洗ったようにきれいで。整然と置かれ、供物のようだった。


夜風がざわめき、ビニールをひらつかせた。鳥肌が立った。もはや偶然ではない。


「おい、いい加減にしろ」像に言った。声は都会の騒音にかき消されそうに小さかった。「何が目的だ?」


もちろん答えはない。ただ、秘密を宿した沈黙の笑みだけがそこにあった。


水曜日、ターゲットは田中課長になった。


彼は秩序の人だ。始業は8時59分30秒ちょうど。定時退社は、恐れるべき存在がいない限り19時00分00秒ちょうど。机は清潔で整頓され、唯一の個性は妻(噂によれば、彼の瞬きのパターンを変えられる唯一の人物らしい)が買ったという「エネルギークリスタル」のブレスレットだけだ。


午前10時17分、ひとつの叫び声が個室の静寂を破った。恐怖の叫びではない。純粋な当惑の叫び、まるで物理法則が通用しないことに気づいた時のような。


田中課長が自分のコンピューターの前で突っ立っていた。普段はスプレッドシートとメールで埋め尽くされている画面には、たった一枚の画像が表示されていた。あの交差点の交通指導員像のクローズアップ写真。誰かがフォトショップ(か何か)で、像に薄い口ひげを付け加えていた。田中課長の口ひげにそっくりな。そして像の笑みは今や…憐れみを含んでいるように見える。まるで言っているようだった。「あらまあ、お気の毒に」


「誰だ!?」彼は怒鳴った。目はストロボのように瞬いた。「裕介!ウイルスか?ハッカーか?」


裕介は手際よくタイピングし始めた。五分後、首を振った。「痕跡はありません。不正アクセスのログもなし。このファイル…まるで最初からデスクトップにあったようです。日付は…2005年になっています」


「それは私がこの会社に入る前だ!」田中課長は顔を真っ赤にして叫んだ。初めて、彼の表情が平板ではなくなった。それは混乱し、怒り、そして少し恐れている、人間の表情だった。


僕はうつむいて、こぼれそうになった笑みを隠した。これは恐ろしい。異常だ。しかし、完璧な田中課長があの口ひげを生やした像の笑みのために動揺するのを見るのは…否定しがたいダークコメディの要素があった。


その夜、僕はまっすぐ帰らなかった。自動販売機でコーヒーを二缶買い、交差点の向かい側のバス停のベンチに座り、「微笑み像」を観察した。


街はその周りで生きていた。ネオンサイン、歩く足音、小さなバーからの音楽。しかし、その小さな島、台座の上で、彼はただじっとしていた。黄色く。微笑んで。


「お前がやったのか?」僕は呟いた。「莉奈に。課長に」


それに応えるように、像の真上の街灯が突然二回点滅し、元に戻った。心臓が高鳴った。偶然だ。きっとそうだ。


突然、携帯が震えた。見知らぬ番号からのメッセージ。


知らない番号: アイツ、構ってもらうのは好きだよ。でもコーヒーはご馳走するな。緑茶の方が好みなんだ。 -T


息をのんだ。T? Tって誰だ?周りを見回した。誰も僕に注意を払っていない。酔っぱらいがベンチで寝ている。老婦人が小さな犬を連れて歩いている。


それから、目が道路の向かい側の小さな店に留まった:「太郎のリサイクル&骨董」。窓は暗いが、薄暗い「営業中」のサインがある。ガラスの向こう、木彫りの像や古いラジオの間に、一人の老人が座っている。彼はこちらの方を見た。そしてゆっくりとうなずいた。


考えもせず、僕は横断歩道を渡った。


ドアのベルがけたたましく鳴った。店は古い木、ほこり、それに線香のような甘い何かの匂いがした。


老人――髪は白くぼさぼさ、分厚い眼鏡、ほこりっぽいエプロンを着ている――は、修復中の陶器の碗から目を離さなかった。


「いずれ来ると思っていたよ」前置きもなく彼は言った。声は、紙やすりのようにかすれていた。「座れ。あいつの椅子を使え。気をつけろ、脚がぐらつく。我々の人生のバランスと同じだ」


僕は腰を下ろした。「あなたが…Tさんですか?」


「太郎だ。店主で、観察者だ」。彼はようやく僕を見た。目は小さいが鋭い。「君はアイツに気づいたな。『微笑み』に」


「あの像のことですか?ええ…何が起きているんですか?」


太郎は碗を置いた。「あれは普通の像じゃない。少なくとも、もはやな。あの場所――あの交差点――は昔、小さな祠があったんだ。とても小さな。ただの道案内の神様を祀るための。街が大きくなるにつれ、祠は取り壊された。だがその基礎、場所の気…は残った。80年代に政府があそこに交通指導員の像を設置した時、何かが…憑りついた」


「幽霊…ですか?」僕は息を殺した。


太郎は顔をしかめた。「そうとも違う。どちらかと言えば…人格だ。場所の記憶の名残が、無機物に魂を与えた。アイツは交差点の守護者になった。だが、自分なりのやり方で。人間を…愉しみにする守護者だ」


「愉しみに?」


「アイツは人間のやるあらゆる滑稽なことを見ている。慌てふためく姿、ストレス、弁当のことで泣き出す奴、コンピューターの画像で怒り狂う奴。そしてアイツはそれを面白いと思う。だから時々…一緒に遊ぶんだ」


「莉奈の弁当を改造したのも?課長の画像も?」


「改造。いい言葉だ」。太郎は薄く笑った。像の笑みを思い出させたが、もっと温かい。「ああ。それがアイツの交流の仕方だ。悪意はない。ただ…退屈なんだ。そしてちょっと変わったユーモアのセンスがある」


「でも気味が悪いです!」


「君にはな。アイツには、スラップスティック・コメディだ。君も上司の顔を見ただろう? アイツにとっては良い見ものだったんだ」


僕は黙って、言葉をかみしめた。悪趣味なユーモアのセンスを持つ、交通の神様兼幽霊が、退屈しのぎにサラリーマンを弄ぶ。今まで聞いた中で、最も理不尽で、最も狂った話だった。


「なぜ僕に教えてくれたんですか?」


「君が気づいたからだ。そして…アイツが君を選んだかもしれないから」


「選んだ? 何のために?」


「次の…遊び相手に。あるいは、助手に」。太郎は立ち上がり、棚の方へ歩き、小さな木箱を取った。中には、いくつかの古びた紙、手描きのスケッチが入っている。「アイツは以前、他の人間と『協力』したことがある。よく道に迷う郵便配達員。売れない役者。アイツは奴らに…ヒントをやった。ジョークをな。時には役に立つが、大抵は恥をかかせるものだった」


彼は一枚のスケッチを見せた。同じ像だが、手に小さな地図を持ち、ある住所を指している。下に書き込みがあった:「試しにここに小包を送ってみろ。信じろ」。


「それで?」僕は聞いた。


「配達員は市長の家に小包を送った。中身は…賞味期限切れのフルーツタルト。彼はクビになった。だが一週間後、なんと市長の妻が経営するケーキ屋で仕事を見つけた。生活は良くなったよ」。太郎は肩をすくめた。「アイツのユーモアは不合理だ。だが、独自の論理はある」


めまいがした。「僕はどうすれば?」


「それは君次第だ。無視することもできる。だが一度選ばれたら、アイツは諦めない。あるいは…」。太郎は僕をじっと見た。「アイツのジョークを受け入れることもできる。君なりのジョークで返すんだ。交差点に座る、奇妙な――非常に奇妙な――同僚だと思えばいい。どうだろう、君も楽しめるかもしれない」


太郎の店を出た時、頭の中は混乱でいっぱいだった。交差点に戻って渡ろうとすると、像が見えた。街灯の下でのその笑みは…期待に満ちて見える? それとも僕の想像か?


携帯がまた震えた。


知らない番号(太郎): ああ、そうだ。忘れるな。緑茶だ。コーヒーじゃない。あいつ、その点はうるさいんだ。


翌日、オフィスの空気は依然として張り詰めていた。田中課長はITチームを呼びつけ「サイバーセキュリティ強化」を命じ、裕介は小声で愚痴をこぼしていた。莉奈はまだランチを警戒し、米一粒一粒をチェックしている。


僕は自分のブースに座り、真っ白な画面を眺めていた。すると、ある狂った考えが浮かんだ。きっと後悔するだろう。


昼休み、コンビニに寄って小瓶のメロン味緑茶を一本買った。まだ休憩時間がたっぷりあるうちに、交差点に戻った。


交差点は閑散としていた。僕は像に近づき、ひどく馬鹿げた気分になった。


「えーと…こんにちは」声は震えた。「緑茶が好きだって聞いたよ。これ…おごりだ。まあ…和平の印というか。コメディ協力というか。何でもいいけど」


素早く、緑茶の瓶を像の足元、台座の上に置いた。電柱に供物を捧げる気違いじみている感じだった。


何も起きない。当たり前だ。僕は後ろめたい気持ちで踵を返した。


だが歩き去ろうとした時、背後から音がした。ポトッと。


振り返った。緑茶の瓶が倒れ、歩道の端に転がっている。キャップは開いていた。そして中身は…消えていた。瓶は空っぽで乾いており、何日も天日干しにされたかのようだった。


心臓が激しく鼓動した。近づいた。水たまりも、雫もない。空の瓶だけ。


すると、信号機の柱にある小さなスピーカー――普段は「青信号です。横断歩道を渡れます」と機械音声で流すあのスピーカーから――何か別の音が聞こえた。


音楽の音。単純なメロディー、90年代のテレビゲーム番組のテーマ曲のような。陽気でシンセサイザー調で、ほんの五秒ほどで途切れた。


僕は凍りついた。周りでは、何人かの歩行者が立ち止まり、首をかしげてスピーカーを見上げたが、また歩き出した。


そして、携帯が震えた。太郎からではない。


全く見知らぬ番号からのメッセージ。

内容は、笑顔を表す、簡素な顔文字が一つだけ。


その下に、一枚の写真。僕の後ろ姿が、像の足元に緑茶の瓶を置いているところ。上から、まるで像自身の視点で撮られたように。


僕は像を見た。今日のその笑みは、満足そうに見えた。


「よし」、戦慄と、胸に湧き上がりつつある緊張の笑いが混ざり合いながら、僕は呟いた。「さあ、始めよう」

本作は、日本語を母語としない作者による創作です。

表現に拙い点がありましたら、ご容赦ください。

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