5.サハラード王国
「サハラード国民である事は間違いありませんね。」
国王を挟んで反対側、第一王子のすぐ後ろに控えていたのに頭を抱えるだけで全く役立たずだった第二魔法騎士団団長のテオバルト・グラシエルが、意識のない侵入者を縛りながら答えた。
「そんな事誰が見ても分かってるでしょ。転がってる石拾って「うむ、これは石ですな!」とか言ってるのと同じくらい馬鹿に見えるわよ。ほら、どうせ何も聞き出せないでしょうけど、さっさと連れてってよ。」
胸元を露にした真っ赤なドレスに、腰から下は薄汚いグレーの布を巻きつけたイヴェリンが横から口を出した。
隙あらば余計な事を言うイヴェリンの口をアダムスが視線で閉じると、怒りで真っ赤になったテオバルトの手元に目を落とす。
イヴェリンに着せるためにローブをはぎ取った男。その褐色の肌にビッシリと描かれた刺青。
フェルザードの乗っていた神輿を担ぐ男たちと同じ模様に見えるが、詳しい人が見れば少しずつ違うのかもしれない。
テオバルトが襲撃者たちを連れ出したのを見送ると、フェルザードとホルマドの方へと向き直った。
「コイツらは明らかにフェルザード大公子殿下を狙っていました。我がルクレイン国内で殿下の御身に万が一の事があれば国際問題では済みませんが・・・わざわざ遠い道のりを追って来てまで襲われるお心当たりは?」
先程はアダムスの睨みに圧倒されていたが、丁寧な物言いに安心したのかホルマドがアダムスに向かって指を突き付け答えた。
「アダムスとやら、不敬である!そのようなもの、砂漠の太陽たる大公子殿下にある訳が」
「うむ、あるぞ!王族に生まれた者の宿命だ、致し方あるまい!その方の働きには感謝の意を示そう!」
「フェルザード様・・・わたくしが喋っておりましたのに・・・。」
フフン、と腕を組んで胸を張るフェルザードに、泣きそうな顔をしたホルマド。
斜め後ろに立つオリヴァンの「なるほど、あの頭の薄さは苦労しているからか」という小さな声がアダムスの耳に届いた。
「何を言うか!我を助けようと動いた者に、嘘を吐く必要などあるまい!」
ご立派な事ではあるが、もうちょっと部下の気持ちも理解してあげて欲しい所である。
アダムスが説明を求める顔でホルマドを見ると、観念したのか一つため息を吐くとゆっくりと語り始めた。
ルクレイン王国の東、魔の森を挟んだ隣国であるサハラード王国は、実に国土の八割が砂に覆われた文字通り砂漠の国である。
そこに住む人々は僅かな居住地帯を灼熱の砂漠に棲む魔物から守るため、自身の魔力を元に空気中や砂漠の砂に含まれる魔素を利用した魔術を生み出した。
魔力の少ない者でも魔術を使えば魔物に対抗出来るからである。
だが生来の魔力が大きければ大きいほどその威力は強く、自然と魔力の多い者が権力を握るようになってきた歴史がある。
その為王族は例外なく強い魔力を有し、またその王族と婚姻を結ぶ者にも必ず強い魔力を持つことが求められてきた。
王侯貴族は強い魔力と魔術を使いこなし、過酷な地に住む人々を守ってきたのだ。
「ご存じの通りこのフェルザード十三世様は王族の方々の中でも飛び抜けて、かの偉大な賢王フェルザード三世様の再来と呼ばれるほど素晴らしき才能に満ち溢れたお方です。その魔力の強さ、勤勉さで高等魔術を使いこなし、前線で戦い魔物を退け、大公子という立場にも関わらず既に数々の施策により民の支持を得ております。ですが、一部の貴族の中には清廉潔白なフェルザード様を厭う者も多く・・・。」
ホルマドの顔色が曇る。
どこの国でも利権をむさぼる輩にとって公正な治世というのは生きにくいのだろう。
なるほど、と皆が納得しかけた時、イヴェリンが鼻で笑った。
「ハンッ!どうせ軍務大臣でしょ?」
「はっ?!なっ、何故・・・?!」
「あの髭ちゃびんのスケベジジイが週に三回通ってる、いかがわしい店への出入りは禁止しといた方がいいわよ。国の機密情報までベラベラ喋ってるみたいだから。」
目を見開いたホルマドの顎が落ちて戻らない。
蝶や小鳥と戯れていそうな可憐な王女が場末の酒場にいる平民のような口の利き方をしている事に驚いているのか、隣国に居ながらその情報の詳しさに驚いているのか、その両方か。
「イヴェリン、俺にもわかるように説明してくれ。」
アダムスが問いかけた。
どうせイヴェリンの事だ、きっと全て知っていてここにいるのだろう。
だからこそ、見た目ではわからないような戦闘用のドレスに武器を隠し持って・・・いや、それはイヴェリンの趣味かもしれないが。
「アダムスにもわかるように?そうね・・・まず、サハラード王国のお偉いさんは、平和に行きましょって国王派と、戦争してウチの国を奪っちゃえ軍務大臣派に分かれてるのよ。」
イヴェリンが両手の人差し指をピンと立てて説明する。
そこまでは理解した、という風にアダムスが頷く。
「で、サハラードの国王は、即位すると死ななくなるの。同時にその伴侶である正妃も、ね。」




