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完全無欠の第三王女と最強剣士は結婚したいがしたくない  作者: 斉藤りた


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30.変貌

「あ、あの方はどなたなのでしょう・・・?」


ホルマドが、ドラゴンの後ろから出て来た人物に目を丸くしている。

フェルザードとアダムスに両手を引かれるようにして現れたのは、絶世の美女であるイヴェリンと並んでも遜色のないほどの麗しき女性だ。


砂漠に降り注ぐ灼熱の太陽を浴びてキラキラと光るプラチナブロンドのロングヘアー。

同じ色をした長いまつげは大きな瞳を彩る様に輝く。


そして何よりも、先ほどまでは溶けかけのスライムのようにブヨブヨと波打っていた顔は骨格に沿った輪郭をハッキリと表し、巨大ヒキガエルの魔物と見まがうような体は完全に人の形へと変貌していた。

いや、人の形どころではない。


大きくたわわに揺れる胸は男性の視線を、細く締まったウエストは女性の視線を一手に集める。

白く細い腕は華奢で思わず守ってあげたくなるという表現がピッタリだし、むっちりとした太ももは滑らかで陶磁器のようだ。


そして先ほどまで来ていたであろう大きすぎるドレスで身体を隠す様は、まるで夜と共に過ごした翌朝シーツだけを身に着けたようにも見え、第一魔法騎士団の団員たちだけでなくまだ意識のあったサハラードの兵士たちも思わず生唾を飲み込んだ。


「何言ってるのよ。姉さんよ。ウチの第二王女。私にそっくりなのにわからないなんて、そろそろ老眼鏡でも買ったらいかがかしら?」


いつの間にかすぐ近くに来ていたイヴェリンが、視線はヘンリエッタに固定されたままホルマドに冷ややかな声を浴びせる。


「そ、そんな!以前お会いした時は、いや、先ほど見た時は確かに・・・!第三王女!何か魔法を使われたのですな!」


「違うわよ。怪我してたから傷薬を使ったの。」


「き、傷薬・・・?いや、でしたらその薬に何か仕掛けが」


「傷薬よ。」


「で、ですが」


「き・ず・ぐ・す・り。」


ホルマドの方を見もせずに答えるイヴェリンに、言葉を無くす。

何度か口をパクパクさせると、一つ溜息を吐き、諦めたように口を開いた。


「そうですか・・・。ではその傷薬の効果は、どのくらい持つあるのでしょう。もし数か月や一年程度であれば」


「何言ってるのよ。私が作った薬に期限なんてもん存在しないわ。」


またもや口を開け、驚いた顔のまま止まっている。

イヴェリンがホルマドの方を一度だけチラと見た。


「そちらさんの文化だからあーだこーだ言う気はないけど、見た目なんかよりも中身をしっかり見た方が良いわよ。あの人は私よりよっぽど王妃に向いてるし、国を一気に発展させる能力があるんだから。まぁその分燃費は悪いけど、しっかりあの馬鹿に相手を務めさせてやりなさい。」


口を開けたまま一瞬目を丸くすると、ゆっくりと片膝をつき頭を下げた。


「以前お会いした際に放った『女性の身分で』などという発言を撤回させていただきたい。第三王女、いえ、イヴェリン様は立派な王族としての矜持をお持ちであると、このホルマド痛感いたしました。」


「別にいいわよ。誰が何と思おうと、私と私の大事な人たちはちゃんとわかってくれてるからそれでいいもの。それに・・・。」


イヴェリンの視線が、ヘンリエッタからアダムスへと移る。


「出来れば王族じゃなくなりたいんだけど。」


「それはそれは・・・イヴェリン様にも壊せない壁があるようですな。」


はっはっは、と朗らかにホルマドが笑った。


「アイツら何笑ってんだ?」


ヘンリエッタの手を持ち、デザート・ドラゴンを乗り越えながらアダムスが首を傾げた。

だがアダムスの声など、隣で見つめ合っている二人には届いていないようだ。


「王子様と結婚させてくれようとしてるって聞いて急いでここまで来ちゃったけど、こんなに素敵な人だとは思わなかったわぁ。」


「ふはは。我もまさか、運命の女性と出会えるとは思いもしていなかったが・・・これほどに魅力的な女性ならばすぐに心を奪われると妹君はわかっていたのだろう。」


「やだわ、無理矢理お薬飲まされちゃったから、こんな貧相な身体で王子様の前に現れちゃって、恥ずかしい。」


「うむ、我はこのくらいの方が・・・いや、それどころか非の打ち所のない、神がその御心を注いで作ったような、実に麗しき肢体をされておる!」


「あらそ~ぉ?もうちょっと柔らかい抱き心地の方が私は好みなんだけど、王子様のお好みなら良かったわ!王子様も、とってもいい身体してるのねぇ。スッゴくスタミナありそう!」


「ん?ああ、鍛えておるからな!」


噛みあっているような嚙み合っていないような、何ともむず痒い会話をすぐ横でされ居たたまれない気持ちになる。

ブカブカのドレスを身に纏ったヘンリエッタがやっとドラゴンを乗り越えると、フェルザードがヘンリエッタの手を持ったまま片膝をついた。


「先ほども言ったが・・・ルクレイン王国第二王女よ。我の妃となり、共にサハラードを治めてはくれないだろうか。」


「ええ、もちろんお受けするわ!今ちょうど婚約者もいないし、お父様も反対されないはずよ!」


一瞬フェルザードの頭の上に?マークが浮かんだが、喜びの方が勝ったようだ。

両手を天に向け、ガッツポーズを見せた。


「妃だ!神は我の元に美しい妃を遣わされた!さあ、神のご意思と共に、父王の元へと参ろうぞ!」


「・・・ふははははっ!無駄だ、兄よ。貴様の戻る場所などもうない!」


背後から、喜びに水を差す叫び声が響いた。

第二太子だ。

後ろ手に縛られた状態で、オリヴァンに捕まえられている。


「貴様が戻ろうと、もう誰もお前の事を大公子だとは信じないだろう!」


「って言ってるんすけど、どうします?」


せっかく終わったのに悪あがきをされてこの上なく面倒だ、と顔に書いたオリヴァンが説明する。


「なんか、クソ大臣がフェルザードはもう死んで偽物が王を騙そうと戻って来ようとしてるって言いふらしてるらしいっすよ。ねぇ、イヴェリン様?」


なぜイヴェリンを?

オリヴァンの落ち着き様に違和感を覚えたアダムスが、第二太子からイヴェリンへと視線と移した。


「ああ、それならもう大丈夫よ。軍務大臣なら、もう失脚したから。」

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