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完全無欠の第三王女と最強剣士は結婚したいがしたくない  作者: 斉藤りた


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24.史上初の開戦合図

ボトッ


第二太子は、何が起こったのかわからなかった。


そもそもサハラードの王族は、王とその伴侶、そして次期国王たる大公子以外は固有の名を与えられない。

物心ついた時から自分の名は「だいにたいし」だった。

二番目の王子を意味するその名は、あと二年早く産めば良かったと母の心を傷つけ、街で耳にする『本当は自分だったかもしれない名前への称賛』が自分が何者にもなれない現実を思い知らせた。


だが王城へと出入りするようになり、自分の感じていた違和感は間違いではなかったと知る。

王に次ぐ権力を持つ軍務大臣が、自分の方が大公子にはふさわしいと、そう言ったのだ。


『大きな声では言えませんが・・・国の繁栄を後回しにし、広い視野を持てないフェルザード様は国の王の器ではない。貴族はそう思っているのですよ。国を豊かにするために、多少の犠牲をも厭わず争いから逃げない。第二太子様のように勇猛果敢な者こそ王になるべきなのです。』


実際、軍務大臣が引き合わせてくれた貴族たちは自分を支持し、王になれた暁には最大限の協力をすると約束してくれた。

国の柱たる貴族が自分の味方なのだ。

確かに、今はまだ目の前の餌に釣られて国民は兄の方が支持されている。

だが魔物の脅威がなくなったルクレイン王国の豊かな資源を奪い取り与えてやれば、学のない国民はすぐに自分を讃えるようになる。

軍務大臣もそう言っていた。


だから、物事を正しくするため、仕方なく兄に犠牲になってもらおうとしたのに、大公子の地位にしがみつく兄は受け入れようとしない。

早くしなければ、兄が王位についてしまっては手が出せなくなってしまう。


そんな折、兄が正妃を求めてルクレイン王国へと旅立った。

しかも一ヶ月滞在を伸ばすとの便りまで届く。


やはり神はこの国を正しい方へと導こうとしているのだろう。

兄がルクレイン王国内で亡き者になれば、それを理由に攻め入ることが出来る。

何度か送った刺客も役には立たなかったが、ついに軍務大臣の勧めで自らルクレインの国境へと向かった。

自分に王となる覚悟を持たせるため。そして、兄の死をこの目で確認し、その身体を持ち替えるためだ。

テイマーが操る魔物に兄を殺させその亡骸を持って帰れば、自分は『第二太子』ではなく『勇敢に魔物と戦い、兄の亡骸を持ち帰った新たな王太子フェルザード』として歴史に残る名君となるだろう。


それこそが、神が望む、正しきサハラード王族の在るべき姿なのだ・・・。


そう、信じて疑わなかったのに。


命までは取るまいと救いの道を示してやったのに、愚かにも次期サハラード国王たるこの自分に剣を向けて来たルクレイン王国の騎士。

身の程を知らせてやろうと哀れな騎士に向けてエンペラー・ワームを近づけた時、おかしなことが起こった。


エンペラーワームの頭と呼ぶべき先端部分が、地面に落ちたのだ。

まるで国と国との境目に見えない壁でもあるかの如くエンペラー・ワームの断面は真っ直ぐに切られ、少しの地響きと共に地面にその身体が叩きつけられた。


「な・・・何が・・・」


剣を構えた騎士はその場に立ちすくんだまま、動いた様子もない。

だが、その剣からは切られたエンペラー・ワームの物と思われる体液がしたたり落ちている。


「だ・・・第二太子!おそらく、魔法です!ルクレイン王国には魔法騎士団なる守護者が在ります!崇高なる我らの魔術と違い、(ことわり)を無視した魔法と呼ばれる力が・・・」


第二太子の後ろから、軍務大臣の補佐官を務める貴族の一人が声を上げた。

が、言い終わる前に下から声が飛んで来た。


「ぶはっ!・・・馬鹿じゃねぇの。団長は魔法なんて使えねぇよ。」


「ただでさえ強ぇのに、魔法まで使われたんじゃ魔物より魔物じゃねぇか。」


「違ぇねぇ!」


剣を構えた騎士の後ろにいた者たちが、下品な声で笑い出す。


「お前ら、事が終わったらこのまま魔の森で訓練してから帰りたいみたいだな・・・?」


「嘘ですっ!団長は人間ですっ!」


緊張感のない会話が、大型の魔物を前に繰り広げられている。

人間ならば誰もが恐れおののき平伏すSランクの魔物のはずだ。そのはずなのに・・・。


「弟よ。」


騎士たちの前に、大公子たる兄が姿を現した。

その後ろには、国内では右に出る者はいないといわれる腕前の王族護衛長ホルマドの姿もある。

その者は、自分に従うべき人間だ・・・。

嫉妬と呼びたくもない醜い感情が、胸の奥で渦を巻く。


「今なら、まだ許そう。まだ何事もなかったことに出来る。ルクレインの騎士たちを巻き込めば、もう引き返すことは出来ぬぞ。」


大きくもない声が両方の国に響き渡り、静寂が訪れる。。

人だけでなく、吹いていた風も、魔物の唸り声も聞こえない。


ふいに、サンド・リヴァイアサンが(こうべ)を垂れた。

テイマーの指示ではない。フェルザードの言葉に呼応するように自ら動いたのだ。


地面が近くなり、自然とフェルザードと第二太子の視線も近くなる。

真っ直ぐな瞳。

そこには、その座を奪われるという恐れも不安も何もない。


「曲がりなりにも、という事か・・・。」


「何と?」


無意識に呟いた言葉。

それに反応したフェルザードの言葉をかき消すように第二太子が叫んだ。


「もう遅い!貴様はフェルザードではなくなるのだ!」


その声に呼応するように、背後に控えていた兵士たちが雄叫びを上げた。

同乗していた貴族に促され、神輿を降りて兵士たちの後ろへと移動する第二太子。

サンド・リヴァイアサンもテイマーが指示を出したのか、軽く頭を振るとルクレインに向けて牙を見せるように口を開けた。


「アチラさんが戦うってのなら仕方ないっすよねぇ、団長?」


「・・・そうだな、戦争になる前に止めるぞ。シド、ノヴァル、ホルマドと共にフェルザードを守れ。」


「はいっ!」「はっ!」


「残りの団員は、新人には訓練時の指導員が付いて、魔物と兵士の相手を・・・」


「皆の者!我の戦いに巻き込んですまぬ。弟を止めるために力を貸して欲しい。」


フェルザードが後ろを向き、団員たちに向けて深々と頭を下げた。

常に上から目線で偉そうだったのに、ここまで成長したのか・・・と全員が親のような心境で感動しそうになる。

・・・が。


「だがあの兵士たちも我が国民なのだ!一人も死なせたくない。殺さず倒してくれ!」


「・・・はぁっ?!」


団員たちの口が同時に開いた。

それを見たアダムスがフェルザードを見、団員たちをもう一度見ると、なるほど!と嬉しそうな顔をした。


「それは名案だ!魔物はともかく、お前らをただの兵士にぶつけたって何の訓練にもならないしな。全員、殺さず無力化する事!いいな!行くぞ!」


「へぇ~い・・・。」


かくして、おそらく歴史上一番ヤル気のない返事で戦いが始まった。

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