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完全無欠の第三王女と最強剣士は結婚したいがしたくない  作者: 斉藤りた


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23.国境線の覚悟

「ヘンリエッタとはどなたの事だ?」


・・・はっ!


フェルザードの問いに、アダムスとオリヴァンが思わず顔を見合わせた。


そうだ、そうだった。

ヘンリエッタがこちらに向かっている事は、フェルザードとホルマドにはまだ伝えていないのだ。

何より、今のヘンリエッタを見られてしまっては、あの強すぎるインパクトのせいでどんな見た目になろうと好きになってはくれないかもしれない・・・。

もし何としてでもイヴェリンを、などと言い出せば、第二太子の事が片付いてもサハラード対イヴェリンで戦争が起こってしまう。


『サハラードの軍隊の方に気を取らせ、その間に到着したヘンリエッタ様を足止めし、イヴェリンが薬を完成させるまで時間を稼ぐ、これしかない。』

『それしかないっすね。俺がウルバヌス様に事情を説明しながらヘンリエッタ様を足止めするんで、だんちょーはフェルザードと第二太子軍隊の方をお願いします。』

『わかった。それで動くぞ。』


無言のまま目で会話をする二人。

完全に意思疎通が出来ているのは、長年共に戦ってきた信頼のなせる業かたまたまか。

そんな二人の様子を見たウルバヌスが、片眉を上げた。


「なんだぁ?お前ら、二番目の姫さ、ぐえっ!」


「おっと、コケそうだった!危ない危ない!ウルバヌスさん、俺の剣技見たいって言ってましたよね?!あっちで見せますんで、行きましょう!!」


オリヴァンが、ウルバヌスの口を塞ぐように体当たりし、そのまま腕を取って後ろ向きに引っ張って行く。


「お、おい!今じゃなくていいだろ、サハラードの軍隊がもうそこまで・・・」


「い~え!今じゃないとダメっす!今じゃないと見せたくないっすね!もう一生内緒にします!」


「い、いや、そこまで見せたくないなら別に」


「今はっ!どうしても見せたいんすよっ!俺だけじゃ無理でしょうが!!」


「お、おう・・・お前意外と迫力あるな・・・。」


勢いのあるオリヴァンにウルバヌスの大きな身体が引っ張られて行く。

ヘンリエッタを一人で引き止めるなんて事態だけは何とか避けたい、という気持ちが全身から発せられていた。


「ふう・・・。よし、フェルザード、ホルマド。弟と軍隊を止めに行くぞ。」


「ん?師匠よ、先ほどのヘンリエッタという名の・・・。」


「行くぞ!」


余計な事を口走る前に、なだらかな丘を走って降りてゆく。

後ろをついて来ているフェルザードの様子を確認しながら、ホルマドが横に並んだ。


「何か隠したい事がおありのようですが・・・。フェルザード様に危害を加える類の隠し事ではありますまいな?」


ホルマドの目が魔物のように光る。

アダムスの強さを知っても尚、フェルザードの為ならば刺し違えても止めようという目だ。

短期間とは言え自分の部下になったフェルザードを守ろうとするホルマドを見て思わず口元が緩んだ。


「フェルザードは人望があるな。大丈夫だ、まあ悪いようにはならんさ。狙い通りにいくかどうかはわからんが・・・俺じゃなく次期国王のフェルザードが決める事だ。」


そう言って、胸の奥がチリッとする。

なんだ?

目線を下に向けた時、大きな声が響き渡った。


「兄よ!フェルザードの名、貰い受けに来た!その名を譲り、人知れず遠い地で生きてゆくのならば、命までは奪わぬが、いかがする?!」


魔の森の崖を見下ろす丘の向こう、サハラード側の国境近くから響いて来る。

丘を走り下りたアダムスたちは、団員たちと共に声の方へと走った。

そして、すぐに立ち止まる。


そこは、まるで神がここを分かれ目と定めたかのようにまっすぐに線が引かれていた。

足元から国境までのルクレイン側には若緑の草花が生き生きと大地を覆っている。

そして前を向くと、サハラード側には他の何色も受け付けない砂の色・・・地平線の向こうまで続く広大な砂漠が広がっていた。


「ここから先がサハラード・・・。初めて来た・・・。」


新入団員や初めて国境まで来た団員たちは、その異様な景色に息を吞んだ。

ハッキリと別れた国の境。

たまたまなのか、大昔に何かあってこうなったのか、もしくは自然の織り成す神秘なのか。

自分たちのような矮小な人間には知りえない、神々の考えがそこにはあった。


だがすぐにその視線は上へと向く。

サハラードの砂漠の砂の上には百をゆうに超える人数の軍隊と大きな大きな物体が、どこまでも続いているはずの砂の海を皆の目に映すのを邪魔していた。


地上から五階建てほどの高さに、大きな蛇の頭とその上に乗った神輿があるのだ。

更にその後ろには、エンペラー・ワームと呼ばれるサンドワーム、いわゆる巨大なミミズや、コロッサル・スコーピオンと呼ばれる巨大サソリなどが見える。


「ルクレイン王国の騎士よ!大人しく兄を引き渡せ!そして抵抗せずに投降するのだ!さすればその命だけは助けてやろう!」


その大きさから顔こそ見えないが、おそらく神輿に乗っているのが第二太子なのだろう。

ほぼ真上を見上げたホルマドが呟いた。


「サンド・リヴァイアサン・・・。わたくしもこれほどの大きさのものを見たのは初めてです。おそらく魔術でテイマーの命を削り従わせているのでしょう。」


サンド・リヴァイアサンとはその名の通り、砂漠を泳ぐ大蛇である。

魔法で蜃気楼障壁を作り出し、自身の姿を見えなくしたり音もなく近づいて敵を仕留めるSランクの中でも大型の魔物だ。

生まれた時から大の大人と同じくらいのサイズなので、幼体のうちの討伐が推奨されている。


「そうか。」


短く返事をすると、スラリと腰の大剣を抜き、砂漠の民に向かって構えた。


「国境の線を越えれば、すべての魔物を討つ。その覚悟を持つ者だけが、越えて来い。」

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