20.誘導尋問
「だんちょーは、どんな女性が好みなんすか?」
枯れ木をくべながら、パチパチと爆ぜる焚き火の音の隙間を縫ってオリヴァンが訊ねた。
ここは南部の荒野から東の国境に向かう道の途中、あと数日で魔の森が見えてくる位の場所だ。
南部よりも草木が増え、地面が固くないので野営の快適さも増してきた。
だが南部よりも魔物も動物も増えてくるので、夜の見張りの人数も比例して増えている。
「なんだ、いきなり。お前は毎度毎度そんな事ばっかり・・・。」
呆れた声で答える気はないと、にべもないアダムスの言葉を遮って褐色の手が上がった。
「我は見目が良い女性だ!女性は皆等しく美しいが、その中でも顔や身体の造形が優れているのは神に愛された印だからな!」
「そりゃフェルザードはそうでしょうね。そもそも、もう何人も奥さんいるんでしょ。そうじゃなくて、だんちょーの・・・。」
「ふむ、わたくしはお尻の大きな女性ですな。大きい事は良い事です。」
何故かフェルザード付きの護衛長ホルマドまで男同士の密談に前のめりに参加し出した。
既に白髪も多く額も後退してきている年齢だが、男として参加するのはやぶさかではないようだ。
ちなみにこの二人には巨体第二王女ヘンリエッタの事も、ヘンリエッタがサハラードに向けて突進していることも伝えず、単純にサハラードの第二太子がルクレインに向かって来ているので、戦争の火種にならぬよう第一魔法騎士団として随行する、とだけ伝えてある。
「ホルマドさんのは別にいいですって。それよりもだんちょーの・・・。」
「お、俺はやっぱり髪の綺麗な女性ですかね。短めのカリナさんよりはイヴェリン様とかナリスさんみたいな、ロングヘアーは綺麗だなぁと思います。」
何故かこのメンバーと一緒に見張りをさせられている新入団員のセイルが照れながら答えた。
経験として実力者と組むのはままある事だが、あまり絡みのなかった隣国の王子まで一緒で少し緊張しているようだ。
「いや、カリナはロングヘアーよりあのくらいの長さが似合ってて・・・ってそうじゃなくて!じ、じゃあ髪型は、長いのと短いのならどっちが好きっすか?!」
今日こそは逃がさない!と意気込んだオリヴァンが、二択でアダムスに迫る。
人は選択肢を絞った質問の方が答えやすいものだと、どこかで聞いた気がしたのだ。
「あぁ?髪型・・?似合ってれば何でもいいと思うが・・・強いて言うなら長い方がいいんじゃないか?」
一瞬だけ、糸のように細いオリヴァンの目が見開かれた。
この手の質問に答えてくれたアダムスに驚いたようだ。
初めての手応えに、この機会を逃がすまいと質問を続ける。
「じゃあ髪色は?!金髪とか、赤毛とか、栗色とか、だんちょーみたいな茶髪とか!」
「そうだなあ・・・明るい色の方が綺麗だと思うかな。」
「どの色も美しいから、全ての女性を娶るのが良いだろう!」
「そうですな、フェルザード様ほどのお人でしたら、全ての髪色の女性を妻にする事も容易いでしょう。」
フェルザードとホルマドもうんうんと頷きながら話に乗ってきている。
これは良い流れ!と言わんばかりにオリヴァンが頭をフル回転させる。
と、横から控えめに手を挙げたセイルが、口を開いた。
「学園に通ってた頃よく話してたんですけど、気が強くてしっかりした女性か控えめで優しい女性ならどっちの方が好みですか?」
おっ!良い質問!と言わんばかりに、オリヴァンが小さくガッツポーズ。
言い淀むアダムスを見て、すかさず話しだす。
「俺はやっぱり気の強い方!そういう女の子をイジメると可愛いよね~。」
え、とセイルが若干引いた気がするが、オリヴァンは気にしていない。
「女子たるもの、男の言う事に付き従い家庭を守る姿こそ理想的ですな。」
「ホルマドは古いな!我はどのような女性でも愛せるぞ!」
「はいはい、フェルザードは何でもいいって事ね。で、だんちょーは・・・。」
「・・・まあ、自分の意志がハッキリしている女性の方が好ましい。自分の身を守れない女性だと、気になって戦えないからな。」
別に戦う前提の話はしてないんだけど?と思いつつ、滑り始めたアダムスの口を止めないよう矢継ぎ早に質問する。
「そうっすよね~、強い女性はカッコいですしね~。どうせなら、魔法も使えた方がいいですよね?」
「ん?まあ使えないよりは使えた方が良いだろうな。」
「戦えないよりは戦う女性の方が?」
「それはそうだろう。俺の立場上、戦えない女性を側に置くのはありえないな。」
「背中を預けられる女性なんて貴重ですしね!」
「まあなかなかいないだろうな。」
「ちなみに、胸は巨乳派ですか?貧乳派ですか?」
「それはもちろん・・・っておい!何の話だ!」
「え~男同士の話っすよ~!やだなぁ~。で、もちろん?」
「うるさいっ!セイル!周辺の見回りに行くぞ!」
「えっ?!あっ!はいっ!」
慌てて立ち上がったセイルがアダムスの後を追いかけて行く。
ニヤニヤが止まらないオリヴァンを見て、ホルマドがやれやれ、と言わんばかりに苦笑いをした。
「オリヴァン殿もお人が悪い・・・以前のお話も、まだ有効だという事ですかな?」
「いえいえ、そこまで考えてないっすよ~?ただ、誰の事を考えてたのかくらいは自覚して欲しいな~っていう部下ゴコロですね。」
明るいロングヘアーで気が強くて魔法も使えて戦えて、第一魔法騎士団の団長が背中を預けて戦える女性なんてこの世に一人しかいないんだけどな~とニヤついたままのオリヴァンは、暗闇に消えていくアダムスの背中を見送った。




