19. イヴェリンの焦り
「それでっ・・・こんなに急いでるって事っすか?!」
走りながらオリヴァンがイヴェリンに向かって問いかけた。
だが走るスピードが速いので、ほとんど叫んでいるのに近い。
ヌアレスからの連絡の後、急いで団員たちの元へ戻った三人はすぐさま準備を整え移動を始めた。
団員たちを乗せた馬車の前を、アダムス、イヴェリン、オリヴァン、カリナの四人は凄まじい速さで走っている。
四人は馬車よりも速くスタミナもあるので、急いでいる時は常にこの移動方法だ。
「そうよっ!兄さん曰く、誰かからサハラードの王子が王女を求めてるって話を耳にした可能性が高いらしいから、姉さんが向かうとしたらサハラードよ!」
アダムスと並んで走りながら、その後ろにいるオリヴァンとカリナに向かって振り返りながら答える。
イヴェリンの鎧はなんで音がしないんだ?と、どうでもいい事を考えながらガチャガチャと鎧の音をさせているアダムスも口を開く。
「って言ったって、こんなに急ぐ必要はあるのか?」
王都から真っ直ぐサハラードに向かったとしても、その国境にある魔の森付近まで二週間以上はかかる。
いや、ヘンリエッタの体重を考えると二十日くらいかかるかもしれない。
自分達がいる南部の荒野は王都から数日だから、国を斜めに横断しても同じく二週間もあれば着くだろう。
それにサハラードに向かったとて、目的のフェルザード王子が今ここにいるのだ。
その情報さえ知れば戻って来るのではないか。
「・・・さっき私、影に連絡してたでしょう?」
影、とはイヴェリンが中央商会とは別で保有する世界随一の情報ギルドのメンバーの事だ。
世界中の王侯貴族の情報は元より、依頼があればどんな情報でも確実に手に入れてくると言われる凄腕が揃い、その全員がイヴェリンに忠誠を誓っている。
「サハラードの第二王子が、馬鹿オージを暗殺しようとウチの国に向かってるのよ。」
「はっ?!何だと?!」
「自分を支持する貴族とその兵士を引き連れてね。殺してしまえばあとは何とでも言い訳出来ると考えてるのよ。実際、馬鹿オージが居なくなれば王位に一番近いのは第二王子だし。」
確かに第二王子という立場と今後の事を考えると、どんなに怪しい状況でも誰も異を唱える事はないのかも知れない。
いつどんな場所にあっても、死人に口無しなのは同じようだ。
「第二王子は馬鹿オージがグランセリアの王城でもてなされてると思ってるの。サハラードの首都から真っ直ぐ向かってきたら、ちょうど魔の森の近くでかち合っちゃうわ!しかも・・・」
一瞬黙ったので、どうしたのかと顔を見たアダムスがギョッとした。
「シリルにも連絡して聞いたら姉さんの奴・・・私が第一の倉庫に置いてた魔力式走行車を勝手に持ち出したって言われたのよ!あの人が好き勝手に使ったらせっかく作ったのに壊されちゃうわ!子供の頃から何度発明品を壊された事か・・・!」
今にも全身から炎を出しそうな勢いで怒っているイヴェリンを見て、ほんの少しだけ距離を空けた。
第一魔法騎士団が王都を離れる際は誰かしらが残るようにしているので、今回唯一のメガネ団員のシリルはお留守番である。
そのシリルが伝えた魔力式走行車とは、中央商会で開発中の魔力で走る車である。
まだ走行するには多大な魔力が必要な為イヴェリンくらいしか動かせず、未だ完成には至ってない。
だが同じ王族であるヘンリエッタならば、イヴェリンほどでは無いにせよ魔力は豊富なはずだ。
「でも第二王子がヘンリエッタ様に出会ったとして、何が問題なんだ?」
いくら戦争推進派の軍務大臣が支持者にいるとはいえ、たまたま出会った第二王女に危害を加えるとは考えにくい。
あのヘンリエッタに危害を加えられるとするならば、だが。
「あの人、帰国してから何もしてないのよ。わかる?誰も姉さんの相手をしてないの。禁欲生活。そんな時におあつらえ向きの若い男が目の前に居たら、間違いなく食べちゃうでしょ!」
「たっ・・・食べっ?!」
「万が一それを既成事実として第二王子に主張されたら、姉さんと馬鹿オージを結婚させる計画がダメになるじゃない!」
「あ〜つまり、イヴェリン様がフェルザードと結婚したくないから急いでるって事なんすね。」
呆れたようなオリヴァンに、ギャンっと音がしそうな勢いで振り向いたイヴェリンが鋭い眼光を刺す。
「もしも私があの馬鹿オージと結婚しなきゃいけなくなったら、両方の国を滅ぼすわよ・・・?」
「さ〜!急ぎましょうね!ほらカリナ!もっとしっかり走って!」
「馬鹿ね、イヴェリン様に余計な事言うからよ。」
実際、イヴェリンにとってたった二カ国の征服など容易い事だろう。
情報ギルドの影たちを使えば数日で王侯貴族の暗殺など終わらせられるし、中央商会が物流を止めればどちらの国も大混乱に陥る。
本人に至っては世界を探しても一人しか勝てる人間が居ない程、強い。
だからこそ、その唯一の人間との結婚を夢見ている限り世界は平和なのだ。
結婚したいから結婚したくないイヴェリンは、姉と隣国の第二王子よりも先に国境に辿り着こうとさらに足を早めた。




